第三十七話 いざという時にも頼りになります
《行商人の噂話》
王都ディアトキアから南に五時間ほど馬車を走らせた所に、チャシーという小さな村があるのです。
これはそこの村で起こった出来事です。
村では一週間前に家畜の羊5頭が行方不明になるという事件が起きました。当初は何の変哲もない窃盗事件として村の自警団は捜査を始めたのです。
捜査開始から三日目の事でした。一人の自警団員が森で見つけてしまったのです。頭を食い潰されている5頭の羊を。
不思議な事にその羊の胴体には傷一つ無かったのです。野生動物の仕業だとしたらこんな事はあり得ないのです。
村に住むチュオジュオさんが言うにはエイリアンの仕業だとの事です。我々より遥かに進んだ文明を持った異星人の風習に頭を潰すというのがあるらしいです。
正直いうと、その情報をどの様に仕入れたかの方が私は気になりましたけれどね。信じるか、信じないかは…………おっと、時間ですね。
もう行かなくては、では。
▽▼▽
「よし、これでもう大丈夫だ。問題解決、愉快愉快」
「「「…………」」」
物凄く冷たい空気が場を支配した。
「あれっ! ええっ!」
「どうしたのお父さん」
沈黙を破り突然叫び出したセカチネに心配になったムカニが問い掛ける。
「いや、ウォザディーさん一体何をしたんだい? 腰の痛みが嘘のように無くなった」
「ただ治療しただけだが」
「「えぇぇぇ!」」
ウォザディーが何かした様には見えなかったセカチネ夫人とムカニは驚きの声を上げた。
「そういえば、辺境の部族には気功術という物を使う人がいるらしい」
「えっ、あの手を触れずに相手を倒すみたいな?」
「そうよ。私の知り合いも昔、気功術師に治療して貰った事があるって言ってましたわ」
「へえ、そんな不思議な……んっ、そう、そうなんだ。そんな感じの物だ」
セカチネの記憶に似た事例があったみたいだ。ムカニの知識はざっくりとしていたが、セカチネ夫人は体験した知り合いがいた。気功を知らなかったウォザディーは感心しかけて、これは魔法の隠れ蓑に使えると思い話に乗っかったのだった。
「ウォザディーさんて、凄い人だったんですね」
「いや、そうでも無いぞ。でも役に立てて良かったよ」
セカチネに尊敬の眼差しで見つめられて照れ臭くなるウォザディーだった。
「よし、ちょっくら買い出しに行ってきます。なんか買いに来たのですよね。ゆっくり見ていて下さいね。では」
セカチネは荷車を引いて市場へ向かって行ってしまった。
「本当にありがとうございました。明日からどのように生活していけば良いかととても不安でしたの」
「よし、何が欲しいんだい?安くしておくよ」
「ああ、トウモロコシを15本と、あと何かお勧めの果物はあるか?」
セカチネ夫人は感謝を口にした。商魂逞しいムカニにウォザディーはお勧めを聞いたのだった。
「うーん。そうだなぁ。この時期だとやっぱり西瓜がお勧めだ。みんなで食べるのにもちょうど良いでしょ」
「そうか、みんなへという訳では無かったんだがまあ良いか。じゃあ西瓜も追加してくれ」
流石看板娘だけあって、客の背景まで考えて勧めてくれた。ウォザディーは逆風にも関わらずにこの店が繁盛している理由の一端を知ったのだった。
「あっ、そういえば行商人の面白い話があるのよ」
「へえ、どんな話なんだ?」
ムカニは行商人から話を聞いた人から聞いた話を品物を梱包しながらウォザディーに語った。
「……信じるか、信じないかは、あな……」
「いい話を聞いた。ありがとな。じゃあ」
ウォザディーはムカニから荷物を奪うように受け取ると足早に立ち去った。その顔は青ざめていた。
「まいどありー! ウォザディーさんてああいう話苦手だっけ?」
ムカニはウォザディーの珍しい姿に、自問するのであった。




