第三十六話 自分のせいで困ってる人を助けるのには躊躇いは要らない
《セカチネズ青果店》
王都ディアトキアの平民街商工区の東地区の青果店である。店主のセカチネは公平な人物で、解放区の人達にも嫌な顔一つせず丁寧な接客を心がけている。
その為、住民区の人の中には快く思ってない人も少なくない。そのような人達からの嫌がらせも有るが、全く意に返さずに自身を貫いている。
ただ、商工会の中にも彼を厭わしく思う者は多く、市場で彼だけ優遇が受けられないように働き掛けと監視を強化している。
▽▼▽
ウォザディーは腰の抜けたソイベをリビングのソファーに横たわらせた。
「暫くここで大人しくしてろ。俺はちょっと出てくるからみんなソイベさんの事宜しくな」
「「「はーい」」」
「どこへ行くのですか?」
ソイベは疑問を口にした。
「ああ、セカチネさんの所にな。色々紹介してくれたのは彼だし、祭りの収益も有るしトウモロコシでも買って貢献してくるよ。こいつらも喜ぶからな」
「とうもろろし! あたちだーいしゅき!」
ムナミミは声を上げて喜んでいた。他の皆も嬉しいようで笑顔だ。
トウモロコシは西方の国々の特産品でティディサア王国では栽培されてはいないが、多くを輸入しているのでこの時期に青果店から無くなる事はない人気の野菜である。
「それじゃあ、行ってくる」
「……ええ」
「あっ、私も一緒に行く!」
ウォザディーが出発を告げるとソイベは返事をしたが顔は沈んでいた。それに気付いたルニムネはウォザディーに付いて外へ向かうのだった。
「ねえ、ウォザディーさん! 何でソイベ先生を放って出て来たの!」
「ああ、悪い事をしたな。淑女を気安く横抱きなどするべきじゃ無かった。嫌な思いをさせてしまったな」
外に出て暫くしてからルニムネはウォザディーに怒鳴った。だが、予想外の返事に怒りは霧散してしまった。
「えっ! 何でそうなるの?」
「いや、明らかに口数も減っていたし、目も合わせてくれなかったぞ」
斜め上の返答をしたウォザディーにルニムネは驚き聞き返したが、その答えに頭を抱えたくなった。
「だから、果物でもお詫びに買って来ようとしてるだろ」
「トウモロコシは! って……(これは使えるかも)」
ルニムネが悲痛な顔をしたと思ったらにやけていたのでウォザディーは少し訝しんだ。
「お父さん! そんな体で買い付けなんて無理よ!」
「そうよ、あなた。私とムカニで行って来るわ」
「ふん、あの馬鹿どもの事だ、規則を楯に追い返すに決まってる」
セカチネズ青果店に近付いて来た所で、二人は店先で口論しているセカチネ一家と遭遇した。
「おい、そんな大声で一体どうしたんだ」
「ああ、ウォザディーさんか、何でも無いですよ。騒いでしまって済みませんね。では、俺は仕入れがありますんで」
「もう! だから無理だって! お願いですウォザディーさん、父を止めてください」
声を掛けたウォザディーに看板娘のムカニが懇願してきた。
「セカチネさん、何があったんだ? 随分と顔色も悪いな、大丈夫か?」
「いえ、何でもないんですよ」
「お父さんは、ぎっくり腰をやってしまったんです」
セカチネはバラしたムカニを睨み付けていた。
「それなら無理する事はないだろ。代わりに家族に行って貰えば良いのではないか」
「それが出来ないんですよ。通行許可証は本人以外には使えない決まりなのです」
「でもみんな家族が代わりに行ってるじゃない!」
「ムカニ、駄目!」
ムカニの言葉にセカチネ夫人が突然声を荒げた。
「どういう事だ?」
「まあ、その、なんだ……悪用しなければ有って無いような決まりなんですが、俺は……嫌われていまして……」
気まずそうに話すセカチネの態度でウォザディーは大凡を察した。
「俺達のせいだな。じゃあ何とかしないとな」
「そんな事はありませんよ。俺が信念を曲げたく無いだけなので」
『パチン』
ウォザディーは指を鳴らしたのだった。




