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第二十九話 油断すると落とし穴があるものです

 《お得意様》

 ニッチな要望にもお応えします! 何でも屋『シュイビアンノ』


 店主のシュイはもう何度目か分からないため息を吐いていた。この店には大得意様がいたのだが、先日彼は財産没収の憂き目に遭ってしまった。それで売り上げが落ちる事は仕方ないと諦めもつくのだが、事はそう単純に行かない。

 その人の求める物は希少品なのである。値段もそうなのだが、機会を逃すと手に入れ難い物なので見かける度に仕入れていたのだ。その為に少なくない額の借金をしていた。それでも必ず売れるので問題は無かった、今迄は。


「はあ、今週中に金貨5枚を何とか出来たとしても、月末には金貨10枚の支払いがある……もう破産するしか無いか……」

『カランコロン』

 ドアに取り付けてあるカウベルが客の入店を告げる。

「いらっしゃいませ。って! ミフーソカさんじゃないか! あんた大丈夫かい、大変だったのだろ?」

「シュイこそ平気なのか? いつも多目に仕入れとったじゃろ」

 シュイは自分の事よりも他人の事を考えてしまう。ミフーソカは付き合いの中でそのことをよく知っていたので心配だったのだ。


「いやいや、調子こいてどんどん仕入れた俺のミスです」

「そうか! それは僥倖。今有るドゥアブノとシュシエーシェを全て欲しい」

 シュイはついにミフーソカが呆けてしまったのかと思った。ドゥアブノはディーケの伝導率の高い鉱石の中でも最高級品である。また、シュシエーシェはディーケを遮断する特殊な液体の中でも最高級品である。つまり両方共に値が張るのだ。

「えっと、今有るのを合計すると金貨25枚ですよ。財産没収されたのでしょ、無理ですよね」

「スポンサーが付いたんじゃ。ここに金貨32枚有る。差額分はその他の材料を適当に見繕ってくれ」


『シュイビアンノ』は今日も元気に営業中です。


▽▼▽


 三人はウォザディーの部屋と化した客間に戻ってきた。

「ウォザディーさん。これからは魔法具の研鑽を糧に生きていけそうじゃ……」

「無理するなよ。研究がしたいのだろ」

 何とも言えない表情のミフーソカにウォザディーが突っ込む。

「研鑽と研究はどう違うのですか?」

「そうじゃの、簡単に言うならば書物などを紐解き己を高めるのが研鑽で、実際に魔法具を作って改善改良開発などするのが研究じゃ」

「で、研究には希少な素材が必要になる」

 ウォザディーの言葉でソイベにも理解出来た。


「まあ、ある程度目処が立ったら、弟子達に研究して貰えばええんじゃから大丈夫じゃよ」

「強がらなくて良い。これを使ってくれ」

 ウォザディーは金貨の詰まった革袋を取り出した。

「こっ、こんな大金受け取れんわ!」

「じゃあ、出資だと思ってくれ。いつか研究の成果が出て大金持ちになった時に返してくれれば良い」

 特にウォザディーもお金が必要な訳でもないし、孤児院も何とかやり繰り出来ている。尤もソイベはよっぽどの事でも無い限りお金は受け取らないだろうが。


「そうか、ほんに恩に着りますじゃ。早速材料を調達に行くかのう」

 そして冒頭へと繋がるのである。


「ウォザディーさん全財産渡したのですか?」

「んっ、ああ。特に必要に感じていなかったしな」

 ソイベは呆れ顔で笑っていた。

「金貨1枚くらいは欲しかったか?」

「もう! そんな事言うと怒りますよ」

 そう言ってほっぺを膨らませるソイベを見てウォザディーは笑みを浮かべた。

「何かで入り用になったら遠慮しないで言って下さいね」

「高利子で貸してくれるのか?」

 ふざけたウォザディーを睨んでいるソイベの口元は笑っていた。


 そう、この時までは笑っていられたのだ。


〜〜〜

「どうしましょう、困りました」

「済まん、ちっとは残しておくべきじゃった」

先程教会より使いが来て今月の支援金が十日程遅れると連絡があった。


「食材は頑張っても3日分が限度です」

「買えないのなら作れば良い」

ウォザディーはそう言うと部屋を飛び出してたのだった。

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