第二十三話 変わりゆく物
《商工区》
王都ディアトキアの平民街の中でも一番内側の地域の事で『一之堀内』とも呼ばれる。南に行くほど高級店が増えて、南の貴族門周辺には超高級店が軒を連ねている。
王城の門も貴族街の門も通常時は南側しか開かれていない事に起因している。
逆に北側に行くと店の数はどんどんと減って行って露店が目立つようになる。最北端には市場があり基本は業者しか入れないが、売れ残り等を安価で販売してくれているので孤児院の院長であるソイベは特別通行証を貰っている。
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ウォザディーが孤児院の周りを散歩していると奥の納屋にソイベが入って行くのを見かけた。
「なあ、なんか手伝うか?」
「ひゃあ!」
ウォザディーが開いたままの扉から中に声を掛けたらソイベは飛び上がって驚いた。
「な、なんだぁ、ウォザディーさんですか。びっくりした」
「すまん。驚かすつもりは無かったんだが。ところで何をしているんだ」
ソイベは大きな布の端を掴んでいた。
「あっ、これですか。荷車ですよ、買い物に行こうと思いまして」
ソイベが掴んでいた布は荷車に被せてあった物だった。
「こうしておけば子供達が遊びで乗ったりするのに気が付けますからね」
「元に戻しておいたら分からなくないか?」
ウォザディーは当然の疑問をぶつけた。
「いえいえ、まだあの子達では数人掛かりでもこれを綺麗に戻す事は出来ませんもの」
「確かにな」
布を畳んでいるソイベの答えに納得したウォザディーだった。
「買い物に行くなら付き合おうか?」
「そんな、悪いから良いですよ。子供達を見ておいて下さい」
ソイベはそうやってウォザディーに負担を掛けまいとしてくるのだ。
「あのな。俺は今ここに居候させて貰っている身だ。タダ飯食らいじゃ肩身が狭い」
「分かりました。では、お願いします」
ウォザディーが困ってる感を出して説得すれば、ソイベは折れてくれる事がこの一週間で彼が学んだ事の一つだ。
橋を渡って住民区に入る。
「この辺は随分と昔に比べて家が建ったな。前は掘っ建て小屋ばっかだったんだが」
「そうですね。私の小さい頃は確かにそんな感じだったと思います。いつ頃からかしら家が建ち始めて、あっという間に今みたいになっていましたわ」
ウォザディーが昨日の事のように覚えている景色も、ソイベには記憶の彼方に埋もれた何とか思い出せるギリギリの景色なのだ。
「昔はよくこの辺で遊んでいたのだがな」
「あれ? ウォザディーさんは確か孤児院出身でしたわよね」
ソイベは違和感を感じて聞き返す。
「ああ。俺が子供の頃はこの辺の住人も解放区の住人も同じような生活をしていたからな。自然と子供達も一緒に遊ぶようになっていたよ」
「それは羨ましいですね。この前は違いましたけれど、解放区の子供が住民区の子供に怪我させて賠償金なんて事はよくある事なのですから」
ソイベはやるせない表情で話した。
「そうなのか! 子供なら遊んでいれば怪我もするだろ」
「いえ、遊ぶ事なんて有りませんから。住民区の子供は解放区の子供を見下す対象としか思って無いのでしょう!」
ソイベは憤りを抑え切れなかった。
「成る程それは大人も同じだな」
「えっ?」
先日ウォザディーが謝罪に行った時に感じた蔑む様な視線の原因が分かってある意味スッキリした。
「あの時の親は関わり合いになりたく無いといった態度だったからな。理由が分かって良かったよ」
「ごめんなさい。私達と関わってしまったばっかりに……」
ウォザディーにまで嫌な思いをさせてしまった事実に、ソイベの気分は沈んでしまった。
「人としてどちらが素晴らしいかなんて、言うまでも無いだろ。俺は阿呆とは付き合いたく無いから気にするな」
それを聞いたソイベの足取りは、はっきり分かるほど軽くなっていた。




