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第二話 怪物さん

 《ティディサア王国》

 発祥は霊峰ビレイ山の麓に集まった人々といわれ、その集落が次第に大きくなっていく過程で王国になったと言い伝えられている。

 30年前に大きな内乱があり、それを見事に鎮めるのに尽力した王太子が25年前に即位して現在の国王になっている。

 賢王の治めるこの国は見事に発展し国民達の表情も明るい。唯一と言って良い欠点は王妹が30代後半になっても嫁ぎ先すら決まらないという事だ。街の噂では自由奔放で大層我儘な姫君だろうと言われている。


▽▼▽


 『ぐぎゅるぅぅぅ〜〜!』

 マグカップから漂う甘いココアの匂いが少女の鼻腔を刺激すると、お腹の虫が騒ぎ出したのだった。


「いっ、頂きます……」

 恥ずかしさで顔を真っ赤にした少女は小さな声でそれだけ言うと、恐る恐るマグカップに手を伸ばした。何度か軽く触れてそれが持てる熱さであると確かめられると、両手で持ち上げて口元に運んだ。

『ふーふー』

 息を吹きかけながらゆっくりとマグカップを傾けてココアを少し口に含む。熱さが大丈夫だったのだろう、彼女はそのままコクリと小さく喉を鳴らして飲み込んだ。


「わあ! 美味しい!」

 少女は思わず声を上げてしまった。

「それは良かった。熱いから慌てずに飲めよ」

「もしかして、貴方は『迷いの森の怪物さん』ですか」

 ココアの甘く優しい味わいとウォザディーが優しく話しかけた事が相まって、少女は目の前の者が巷で噂されている怪物さんに違いないと思い聞いたのだった。

「怪物? 随分な言われようだな。これでも昔は美男子で通っていたんだぞ」

「ふふふ、怪物さんたらおかしな事を言うのね」

 ウォザディーは不服な表情を浮かべた。

「確かにここに篭って30年経って多少は老けたかもしれないが、流石に怪物と言われる程は崩れていないと思うのだがな」

「ふふふ、どう見ても怪物さんだよ。ちょっと待ってね」

 少女は背負っていたリュックを下ろすとガサゴソと中を漁った。


「はい」

「…………」

 少女が取り出した手鏡をウォザディーに向けてくれた。

 それを見て彼は絶句してしまった。鏡に映った彼の姿は髪はボサボサで髭も伸び放題、子供の頃に読んでいた絵本に出て来る“山の怪物”のような風貌をしていたのだから。

「成る程な。この容姿では怪物と呼ばれるのにも納得だ」

「そうでしょ。やっぱり迷いの森の怪物さんなのね」

 少女は目をキラキラ輝かせている。


「まてまて。さっきから迷いの森と言っているが、ここはティディサアで一番美しいと言われたルイシネ樹海だぞ」

「えー、違うよ。ここは迷いの森の中なのでしょ?」

 はっきり否定しておいて聞いて来る少女に驚いたが、結界の件を思い出したウォザディーは納得した。

 少女は結界をすり抜けてしまい、仕込まれていた転送の魔法によってこの家に飛ばされて来た為に、現在位置を把握していないのだろう。

「そうか、俺の結界があるから『迷いの森』なんて名で呼ばれるようになってしまったんだな……」


「良く分からないけど、元気出してね怪物さん」

 由緒正しい名を渾名で上書きしてしまった申し訳なさで、ウォザディーは霊峰の麓の樹海に対して心からの謝罪をするのであった。

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