第十一話 検問で止められました
《キーべ・スージッテ》
前スージッテ伯爵の三男で成人すると王都に出て国軍に入隊する。出世の道を諦めてまで王都警備隊に赴任願を出した。表向きは戦争に行きたく無いからと言っているが、本当の理由が同僚達にバレている事は本人だけが知らない。
王都の治安の維持に努めながらイコルニアツ孤児院に足繁く通っているのがその答えだ。
▽▼▽
警備兵が叫んだのでウォザディーは身構えた。しかし警備兵の視線は彼の後ろに向けられていた。
「ルニムネじゃないか! どこに行ってたんだ! ソイベが心配して探し回っていたぞ!」
「わっ! キーべさん、ごめんなさい! 森に行ったら迷っちゃって! 怪物さんに会って送ってくれて……」
キーべと呼ばれた男はルニムネの首根っこを掴むと今にも拳骨を落とそうとしていた。
ウォザディーはその手を掴んで止めたのだった。
「何しやがる!」
「叱るのは分かるが、頭ごなしに暴力はどうかと思うぞ」
ルニムネはその隙を突いてキーべの腕を振り払い、ウォザディーの後ろに身を潜めた。
「あんたは何者だ。ここらじゃ見ない顔だが」
「怪物さんで、ウォザディーさんだよ」
ルニムネがウォザディーの後ろから、ひょっこりと顔を出してキーベに対して答えた。
「怪物さん?」
「それは知らんが、ウォザディーだ。森で迷子になっていたルニムネを保護したので送り届けに来た」
変に誤解されても困るので怪物に関しては濁してウォザディーは名乗り、経緯を説明した。
「キーべさん。確かに“ウォザディー”なのでしょうが……。どうしましょう」
「どうした」
検問係の男が身分証を掲げてキーベに相談している。それを見たキーベの表情も曇った。
「ウォザディーさ……さん、もっと直近の物は無いのかい?」
「ああ、長い間森で生活をしていたものでな。やはりこれではまずいのか?」
予想通りのキーベの問いに、覚悟をしていたウォザディーは静かに聞き返した。
「誰か保証をしてくれる方がいらっしゃいましたら、申請書を書いて頂いて新しい身分証を発行できるのですが」
「院長はさすがにもういないだろうしな。ヌカウラ孤児院に問い合わせてもらえれば身元の記録が有る筈だ」
親切心で話に割り込んで来た検問係の話に、ウォザディーも心当たりを素直に答えた。流石に王太子の名を出したら問題が解決するだろう。だがそれだと貴族の身分証を隠した意味が無くなってしまうのだ。
「ヌカウラ孤児院?」
「お前じゃ知らんだろうな。残念だがあそこは悪魔と魔女の反乱後に経営難で潰れたよ」
「それは困ったな」
検問係は知らなかったがベテラン警備兵のキーべは知っていた。それは偏に歳の差だった。検問係は19歳でキーベは42歳なのだから。
「仕方があ……無い。俺が保証人になってやるから申請書を書いちまうぞ、こっちに来い」
「本当か! ありがたい、それは助かる。しかし急にどうした」
どうにもならない事に痺れを切らしたキーベは解決策を提示した。彼に何のメリットも無い提案にウォザディーは彼の本心を聞いてみた。
「ルニムネの恩人みたいだしな。大した手間でも無いからな。それにその服はお前さんがくれたものだろ」
「まあな。だが、それこそ大した手間じゃ無いぞ」
どうも不器用なキーべの最大限のお礼の表現だったみたいだ。服の事を言われたルニムネは嬉しそうにしていた。
「そうなんだよ。すごいんだよ。まこうで作ってくれたの!」
「まこう?」
「いやいや、魔法だ。俺は魔法使いなのでね」
ルニムネの言葉をウォザディーが訂正した瞬間にキーベの顔色が変わったのだった。




