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(5月7日付けの手紙)その3

神罰がおります。


 スレイ翁は怒っていました。



 いつもは好々爺然としてるので忘れていたんですが、翁は、神さまだったんです。



 そんな大事なこと忘れるなって言わないでください。私もジークも、本当に、うっかりしてたんですから。

 良いお付き合いができてたので、森にいる保護者のおじいちゃんって気になってたんです。

 

 で、今回のことで、翁が神さまだったってことを、しっかり思い出したんです。



 

 神さまが怒ると、とんでもないことが起こる。



って、今頃気が付いても遅いんです。


 下手すると、世界が終わるかもしれません。




 翁の断罪は、まだまだ続きました。 



「じゃが、ウイリアムのことは、昔の話じゃ。

 ワシが怒っておるのは、ジークの父のことじゃ。

 

 あヤツは、ワシとベネディクト家の関係が分かっておらなんだ。じゃから、森を開発しようとしたんじゃ。お前に唆されてのう」



 ニッコリ笑ったスレイ翁の微笑みは、真っ黒でした。



 こんな顔もできるんだ。って、変なことに感心しました。




 でも、ビックリです。


 ジークのお父さまが、シールド侯爵(まさに、この人です)に唆されて、森を開発しようとしていたなんて。



 黒い森は、神聖で侵してはいけないって言われてるのに、それを開発しようとしたなんて。

 

 一体、何を考えていたんでしょう?

 

 多分、翁のことを迷信だと思って、何も考えてなかったんでしょう。



「そのとき、ワシの親しい友人が命を懸けて、計画を止めたんじゃ。


 その結果、ジークは父を亡くしたし、ワシの友人も命を落とした。


 シールド家のせいで、ワシは、大事な友人を2度も失うたんじゃ!」



 

 お父さんのことだって、直感しました。



 お父さんは、スレイ翁のために命懸けで黒い森の開発を止めたんです。


 何があったか分からないんですが、そのとき、うちのお父さんと一緒にジークのお父さんも死んだみたいです。

 

 ということは、シールド侯爵が唆さなかったら、ジークのお父さんも私のお父さんも死ななかったのかもしれません。



 お父さんが命懸けで翁の森を守ったって聞いて、さすがお父さんだって思いました。

 お父さんは、すごく格好良いです。




 シールド侯爵の抵抗(弁解とも言います)が続きました。


「あのときのことは、アーサーに、そして、ジークに悪いことをしたと思うておる。

 

 だから、ワシは、アーサーの代わりにジークを育てようと思ったんじゃ。

 ジークが一人前になるまで、後見人になることにしたんじゃ。


 おぬしに、四の五の言われる筋合いはない。


 これは人間界の話で、そして、ワシはちゃんと償うておる!」



 ちょっと、それって開き直ってるだけじゃない。

 

 

 この人には、もう少し真摯に謝って欲しいです。 

 ジークも被害者だけど、私だって被害者なんだから、って言おうと思ったら、それどころじゃなくなったんです。



 シールド侯爵がやけくそになって叫んだとき、スレイ翁の目がカッと見開いて、一瞬、真っ赤に燃え上がったんです。



 


「ワシは長いこと待っておった。今日のこの日を。


 ワシは動けぬ。


 ウイリアムが泣いても慰めに行くこともできんかった。

 ダリがワシのために無謀なことをするのも止めることもできんかった。

 

 いつの日か、シールド家にこれまでの罪を問い、かの家をベネディクト家のために働かせたいと思うておった。

 

 シールド家を、おぬしのような口先だけじゃなく、真実、ベネディクト家に臣従させたいと思っておった。

 

 じゃが、おぬしが、心を入れ替えて、ベネディクト家のために働くというなら、シールド家を残しても良いと思うたりもした。

 

 

 ワシとて鬼ではない。ワシとて悩んだ。


 ジークと付き合うて、いろいろ悩んで、そして、決めた。


 おぬしを、シールド家を、許すことは、できん」





 ヤバ!これは、みんな死ぬ。


って、思って、思わず叫んだんです。



「殺すのは、ダメ!

 翁が人を殺すなんて、お父さんが悲しむから!」



 翁の体から燃え上がった炎が、少し小さくなったようでした。でも、まだ、燃えてるんです。




 翁は、チラリと私を見て、


「そうか、ダリは、ウイリアムは、悲しむかのう。じゃあ、こちらにしよう」


って独り言を言うと、地の底から湧きあがるような声(翁がこんな低い声を出すのを初めて聞きました)で宣言したんです。




「シールド家の者よ!

 未来永劫、ベネディクト家のために生きよ。イザベラ以降一族で犯した罪を、償うが良い!」




 スレイ翁が厳かに言い切ると、翁の体が光となって爆発したんです。



 轟音が轟いて、その瞬間、太陽が地上に落ちたみたいな衝撃が襲って来て、辺り一面真っ白な光に切り裂かれたように感じました。

 

 あまりのまばゆさに、前が見えなくなってしまったんです。


 


 しばらくして、ようやく、目が見えるようになったとき、そこで見たのは、私と同じくらいの若さになったスレイ翁と、どことなくシールド侯爵の面影のある中年の女性と、どことなくケント会長を思わせる少女でした。



 

 ジークと私は変わらなかったんですが、この冗談みたいな展開に、二人とも絶句しました。



 だって、そうでしょう?



 普通、神の怒りに触れると、命を落とすとか、未来永劫地獄や煉獄で苦労するってのが相場です。


 それなのに、翁の怒りを一手に受けたシールド侯爵は、中年の女性になっただけですし、ケント会長に至っては、絶世の美女になってるんです。



 いくら、私が止めたせいだといっても、一体、翁は、何考えてるんでしょう?




 目の前のかなり若くなった翁に、どうなってるのか訊きたいと思ってると、若くなったスレイ翁(もうお年寄りではないので『翁』とは呼べないけど、便宜上、こう呼ばせていただきます)は、ニコリと笑って言ったんです。



「シールド侯爵、お前のシールド家は、ベネディクト家に臣従するんじゃ。

 

 もともと、そうだったのじゃ。シールド家は、ベネディクト家の家臣のようなもので、王家にすれば陪臣になるはずじゃったんじゃ。

 イザベラが、強引にベネディクト家の力を削いて、シールド家を対等のものにしたんじゃ。


 しかも、共同事業か何だか知らないが、ともに事業を立ち上げたという男は、ベネディクト家の財産をかすめ取りおったし、仲が良いとされていた男は、影でベネディクト家を貶めとった。


 極めつけは、お前のやったことじゃ。


 お前は、ジークの父親を死なせた。


 歴代のシールド家のやってきたことは、ベネディクト家にとっては害そのものじゃった」



 

 若い姿で、この話し方はないわ。


って思ったけど、相手は神さまなのです。言えるはずありません。

 

 後で、指摘して改善してもらおう、って、見当違いなことを考えていたんです。 





 だって、そこで起きたことは、神の怒りだったんですから。


 私たち人間が四の五の言えるはずもないんです。


 翁は、これまで、親しい友を害されても、ご神体が古木であったことから、動くこともままならず、見ていることしかできなかったんです。


 神罰を下したくても、下すことができなかったんです。



 

 今回、ジークのことで、シールド侯爵がスレイ翁に会いに来たのは、まさに、飛んで火にいる夏の虫だったんです。




5月7日付けの手紙は、まだまだ続きます。

昔書いた話では、女性化するのはジークの方でしたが、今回書き直したら、ケント会長が女性化する方が自然だと思えたので、逆にしました。

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