(11月3日付けの手紙)
11月3日付けの手紙は長いので、分けることにしました。
お母さん
昨日、遅くまで音楽が聞こえてました。
皆さん、ダンスを楽しまれたことでしょう。
おかげで、皆さん、朝が辛いようで、私がいつも時間に薬草園の水やりを終えて食堂へ行くと、誰もいませんでした。
文化祭の翌日は、お休みになってるので、思いっきり好きなことをしようと決めていました。
つまり、お父さんの服を着て、スレイ翁に会いに行くことにしていたんです。
文化祭のせいで、いろいろ不本意なことも多かったですので、ここらで鬱憤を晴らしておかないと、どこかで爆発しても困りますから。
で、朝ご飯の後で、いつもの休みの日と同じように、食堂のおばちゃんに昼後ごはん用のパンとチーズをもらって、さあ、出かけようとした時です。
「エヴァ!昨日、どうして来なかったんだ?」
って、突然、呼び止められたんです。
振り返ると、ジークが真っ赤な顔で怒ってます。
「来なかったって、どこへ?」
「生徒会主催の舞踏会だ!」
「ああ、あれね」
思わず納得しました。そういや、そんなのが、あったっけ。
「生徒は全員出席するって話だった」
直前まで出たくないって、駄々こねてたあんたに言われたくないわ。
って、言いたかったけど、ケント会長やエリザベートさまに説得されてしぶしぶ出席したジークに、そんな直球な返事ができる訳もなく、
「最初に言ったでしょ?」
「何を?」
「私、興味のないことには参加しないことにしてるの」
「そんなんで許されるのか?」
「だって、理事長さまじゃなくて、単なる一生徒だもん」
ドヤ顔したら、しょぼんとされてしまいました。
「私だって、一生徒として参加したんだ」
「じゃあ、良かったじゃない。
みんな、喜んでくれたでしょ?」
「他のみんなのことなんか、どうでも良いんだ。
私は、君と踊りたかった」
そんなこと言われても……。
「ゴメン。私、踊れないの。だから、欠席したの。
舞踏会の間、壁の花して立ってるのって、馬鹿みたいでしょ?」
「そんな難しいダンスはなかった。誰もが知ってるワルツとかだけだったぞ」
「悪い、ジーク。私、ワルツも踊れないの。平民には、ワルツなんて必要ないから」
えっ!
驚いたジークの顔見て、ああ、私の常識はジークにとって非常識なんだって、しみじみ思いました。
「それにね、ドレスもないの」
更に驚いて硬直したので、可哀そうになったほどでした。
いくら仲良くしてても、所詮、貴族と平民の常識は違うんです。
スレイ翁がらみで秘密を共有してるからって、ものすごく近しい感じがしてたんですが、やっぱり、ジークは貴族で私は平民だったんです。
「私は、君にドレスを贈りたかった。でも、ケントにダメだって言われたんだ。
婚約者でもない女性にドレスを贈る。それが、どういう意味を持つか分かるかって、言われて、諦めたんだ」
一瞬、泣きそうに見えたのは、見間違いじゃないと思います。
「賢明な判断だったわね。もし、そんなことしてたら、今でさえ、学園中の女子の妬みを買ってるのに、命の危険が生じたと思うわ」
って、言ったら、切なそうに言ったんです。
「私は、公爵だ。それなのに、何かしようとすると、あれをやっちゃいけない、これをやっちゃいけないって、みんなして止めるんだ。
公爵は、貴族の中では一番偉いはずなのに、どうして、そんなに遠慮しなくちゃならないんだ?
やりたいことを、やりたいようにやって、どこが悪いんだ?」
「そこで、公爵さまが、勝手に好き放題しないってのが、良いんでしょうね。
そんなことしたら、周りのみんなが迷惑するし……。
そんなに貴族が嫌なら、平民になったら良いのよ。
と言っても、あなたの場合、お父さまが亡くなられて、お家を継ぐ人がいなかったから、仕方がないのかもしれないけど」
あんまり可哀そうになったので、話題を変えました。
「ところで、ジーク。私、これから山へ行こうと思ってるんだけど、あなた、どうする?」
「行く!」
ということで、二人して出かけたんです。
帰って来たら、修羅場が待ってるなんて思いもしないで。
悲しいけど、エヴァの常識とジークの常識は違うんです。




