(5月16日付けの手紙)その3
切手代に悩むエヴァは、安く手紙を出す方法を考えます。
お母さん
こんなにしょっちゅう手紙を出してたら、さすがにお金がかかって金欠になりそうです。
食堂の建物の奥に郵便局の支所があって、購買の例のレモンキャンディのおばちゃんが切手とか売ってくれるんですが、パメラが入学してすぐに「いくらですか?」って訊いたら、壁に貼ってある料金表を見て、「アイデリー州のトーリ村はね……銀貨1枚、だね」って教えてくれたそうです。
このことは、書きましたね?
切手代があんまり高いので、私は一回の手紙に書けるだけのことを書いて元を取ろうと思ったんです。だから、私の手紙は長いでしょ?
でも、村とイースレイはスレイ山を挟んでいるだけで、直線距離にしたら、そんなに遠くないんです。
上級の魔術師なら、手紙を鳥に変えて飛ばしたりするんでしょうが、初心者の私には、そんな魔法は使えません。
いろいろ考えたあげく、魔法陣を使った転移魔法なら、手紙を安く届けることができるんじゃないかと思ったんです。しかも、早いし。
このことに気が付いたのは、昨日の晩のことです。
昨日、魔法学(座学)の講義で、魔法陣の話があったんです。
魔法陣に魔力を流すことで、適正がなくても魔法を使うことができるので、魔道具に使われることが多いとのことでした。
それを聞いて、手紙のことを思い出したんです。
転移魔法は、ものすごく難易度の高い高度な魔法です。
でも、魔法陣の理論から言って、本来なら上級魔術師しか使えない転移魔法を魔法陣を使うことによって初心者でも扱えるんじゃないか、と思ったんです。
魔法陣の力を借りるということは、魔術師本人の力だけで魔法を使うんじゃないわけです。しかも、転移させるのは、手紙とか、干した薬草といった、ごく小さなものです。
何とかなるんじゃないか、そして、何とかしたい、と思ってしまったんです。
今朝、目が覚めてから、どうやったら魔法陣を使って転移魔法を使うことができるか研究するのに夢中です。
早速、図書館で2年生、3年生で学ぶ魔法を調べたら、在学中は転移魔法を学ばないみたいでした。
で、図書館の中をざっと探したんですが、転移魔法に関する書籍は置いてないのです。
書架にない場合は書庫を調べるのですが、書庫の蔵書一覧を見てもないのです。
こうなると、禁書庫しかないのですが、禁書庫は、文字通り禁書を置いてある書庫で、許可がないと入れません。
図書館の奥に禁書庫の扉があって、学生証や職員証をかざす魔石がはめ込まれていますが、よっぽどの許可がないと入れてもらえないのです。
私の学生証で入れてもらえるはずもなく、あそこに入らないと転移魔法を調べることができないと思うと、イライラします。
転移魔法が禁書にしてあるのは、あっちこっち自由に現れたり消えたりできると、銀行やなんかの金庫に勝手に入ってお金を盗むといった犯罪を犯したり、犯罪者が魔法を使って捕り方から逃げたりするといったように、悪用されるだからだと思うんです。
しかも、下手すると軍隊を敵軍の背後に転移するといったこともできますから、戦争の方法も変わってしまうでしょう。
でも、手紙とかちょっとしたプレゼントなんかを送るのは、悪いことじゃないと思うのです。
人も含めて、生物はダメでも、無機物というか物ならOKだということになれば良いな、と思うんです。
何とか、禁書庫に入る方法を探してみようと思います。
5月15日
エヴァは、禁書庫へ入る方法を模索します。