(5月9日付けの手紙)その3
5月4日分が短すぎるので、今回は5月4日と5月7日の二日分アップします。
お母さん
今日の魔法学の講義で、魔法には「木、火、土、金、水、風、光、闇」の八種の系統があるという話を聞きました。
生活魔法と言われるものは、微量の魔力があれば属性を問わず使える魔法で、八種の魔法の簡便な応用だそうです。
それを聞いて、薬草園の水まきなんか、水魔法でやれるんじゃないかと、思いました。
わざわざ井戸や川から水を汲んできて畑に撒くより、魔法で優しい雨を降らせたら一発で終わるんじゃないかと思ったんです。
何とか、その方法を考えてみようと思います。
上手く行けば、フォード先生の薬草園の水まきを一瞬で終わることができます。
図書館で水魔法に関する本を探してみようと思います。
5月4日
お母さん
毎朝、魔法学のロックフィールド先生のおっしゃった魔力を感じる練習と魔力を回す練習をしていたんですが、気のせいか、体の中を流れる魔力を動かせるようになったような気がするんです。
(この文章は、「馬から落ちて落馬」とか、「頭が頭痛」と同じような感じになってしまいましたが、大事なことなので、あえて2回書きました)
パメラは、気のせいだって言うんです。でも、私は、絶対、気のせいじゃないと思うんです。(ここ、重要です)
村にいた頃は、魔力をほんのり意識できた程度ですが、この頃は、はっきり流れを感じるんです。
でも、意識的に動かすのは、まだまだで、流れがギクシャクしてるのが分かります。
森の魔女のように、水が流れるようにサラサラっと動かせれば素敵なんですが……。
クラスでは、エリザベートさまがダントツです。遠目で見ても、魔力が円滑に流れているのが分かります。
体の中を透明感のある光が流れているみたいな感じです。
でもって、自意識過剰かもしれませんが、その次が私とパメラです。
エリザベートさまの取り巻きのダイアナ・フォン・キャメロン伯爵令嬢やテレジア・フォン・オニキス伯爵令嬢やキャサリン・フォン・レッドフォード侯爵令嬢(彼女たちは、本当に『取り巻き』としか言いようがありません。常時、金魚のフンみたいにエリザベートさまにくっついているんです。エリザベートさまにとっては迷惑なんじゃないかと思うほどです)に至っては、自分たちはさほどでもないのに、他の人が上手にやると、エリザベートさまを引き合いにしてマウントをとりたがります。
「まあ、お上手ですこと。でも、エリザベートさまは、もっとお上手でしてよ。
やっぱり子爵じゃ、大したことございませんのね」
ってな感じです。
面白いのは、必ず、自分は良識ある貴族だからあなたの良さも評価してあげるって態度で褒めて、それでも、エリザベートさまにはかなわないって落とすんです。
エリザベートさまが優秀なのは分かるけど、エリザベートさまの友人と言うだけで、自分たちまでエリザベートさまと同等だと思ってるんでしょうか?
あり得ないです。
お目出たい発想で、よく分からない思考回路です。
この3人は、自分たちが上位の立場であることをアピールしたい欲求が強くて、私のお得意さんになってます。
「あれをしていただける方っていないかしら?」
「これを買ってきていただける人っていないかしら?」
ってな調子で、何かと用事を言いつけるんです。
おかげで、アルバイト『その1』で結構儲けさせていただいてます。
面白かったのは、パメラも買ったコルセットです。
通常のコルセットは、侍女やなんかに背中で締め上げてもらうんですが、サーシャ洋服店でパメラも買ったコルセットは、『一人でできるもん――寮生活や旅に最適な自分で着られる逸品』という品だったそうで、最初に体の前でひもを締め、コルセット自体を回転させてひもの部分を背中に回すことで、一人で着れるようになってるそうです。そのため、内側は滑りやすい材質になってるんですって。
このコルセットは、侍女のいない寮生活のために開発された商品なんですが、入学式の後で、それでも一人で着るのが難しいから(他人に手伝ってもらった方が仕上がりがキレイなんですって)と、私に手伝えと命じてきたんです。
で、例によって、「1回銀貨1枚で承ります」って言ったら、青筋立てて怒ったんです。
「まあ、何て言い草なの?本当にものを知らない平民には、困ったものですわ。
尊い身分の私たちと親しくする機会を差し上げるって言ってますのに。
これは、私たちの慈悲ですのよ。お礼を言われても良いことでしてよ」
「そうよ。あなたみたいな平民なんか、本来なら私たちと口もきけないのよ。
私たちが優しいからお付き合いして差し上げるのよ」
「優しくしてれば、付け上がって。身の程を知りなさい!」
「うちの侍女は、お金をよこせなんて言いませんわ」
「うちの侍女もですわ」
「うちもですわ」
思わず、言い返してしまいました。
限界だったんです。
「みなさんのお家の侍女さんたちは、あなた方の親御さんからお給金をもらってるんですよね?」
「それがどうしたというの?」
「当然のことじゃない」
憤慨する三人に爆弾を投げつけました。
「侍女さんたちがあなた方のお世話をするのは、お金をもらってるからです」
一瞬で三人の顔色が変わりました。
ここで止めればよかったんですが、止まらなかったんです。
「どうして、お金をもらってない私が、あなた方のお世話をしなくちゃならないんでしょう?」
ここまで言うと、顔を赤くしたり、青くしたりして、ワナワナと震えだしました。
「平民は、尊い血筋の貴族と親しくする機会が欲しいんでしょう?
その機会を与えてあげるって言っているのよ。
そんな名誉なことに対して、お金を要求するなんて。
何て図々しいの?」
「いやあ、名誉でお腹はふくれないので。そんなものは要らないわけで。
ついでに言うと、あなた方のお家の侍女さんたちは、住み込みで食事も提供されている、つまり、食も住も与えてもらってるんですよね。
あなた方は、私に給金どころか食も住も与えていないじゃないですか。
せめて、給金の代わりに小遣い程度のお金を要求するのの、どこが図々しいとおっしゃるのでしょう?
それとも、そんなお金を払うのが惜しい、つまりはケチりたいとでもおっしゃるのでしょうか?」
三人はあまりのことにあっけにとられ口をパクパクさせ、怒り心頭で帰って行きました。
あれ以上言い募ると、『給金も払わないケチ』と見做されそうだったからです。
貴族にとって、給金を払わないのは汚点にならないけど、『ケチ』と言われるのは汚点なのだそうです。後で、パメラに聞きました。
男爵令嬢ズのみんなは、「グッジョブ!」って、指を立てて褒めてくれました。
論戦に負けたので、時間をおこうと思ったのでしょう。
向こうは、私に会わないようにしていました。
が、しばらくして、もう良いだろう、私も反省しただろうと、勝手に判断したみたいです。
こっちは、どうして、そういう思考回路になるのか疑問なんですが。
再び声をかけようとして、私を呼び付けようとしたんですが、時すでに遅し。
何しろ、私の朝は早くって、あの人たちが起きるのを待っているほど暇じゃないんです。
最初の頃はともかく、今では薬草園の手入れも朝食前にしていますし。
で、いくら探しても私が捕まらないので、諦めたようです。
ざまぁ、です。
ちなみに、男爵令嬢ズは、あのコルセットを互いに付け合うことでこの問題を解決したようです。
どうも、あのコルセットは『一人でできるもん』というのは名ばかりで、やろうと思えば一人でもできるけど、やっぱり、他人に手伝ってもらった方がキレイにできるみたいです。
まさに、『看板に偽りあり』ですね。
ま、私には関係ないんだけど……。
そもそも、私には、成長期にコルセットを付ける意味が分かりません。
そりゃあ、キレイに見えるかもしれないけど、結果的に胃を締め付けることになって、体に悪いと思いませんか?
あの人たちが食べたご飯は、どこに入るのでしょう?
胃下垂になってるのかしら?
本当に貴族のすることは、訳が分かりません。
話を戻しますね。
そんなこんなで、まだまだギクシャクした魔力の流れなんですが、ふと、薬草園の水撒き程度ならできるんじゃないか、と思ったのです。
パメラによれば、私が「ふと、思う」ことは、大抵、非常識なことで、しない方が良いことが多いそうです。
でも、今回、「ふと、思った」のは、実に意味のあることだと思ったんです。
で、試してみることにしました。
つまり、畑の上に薄い雲をイメージして、そこから優しい雨が降るようにしてみたのです。
結果は、半分成功で半部失敗でした。畑の半分にしか水がかからなかったんです。
それで、残りの半分めがけて水を撒いたら、今度はきつくなりすぎました。
なかなか上手く行かないものです。
でも、ときには嵐だってあるのですから、多少水が多すぎても許してもらいましょう。
幸いフォード先生が見ていなかったので、知らんぷりすることにしまた。
5月7日
日々魔法の練習に頑張る エヴァ
エヴァは、貴族の令嬢を撃退します。




