(4月20日付けの手紙)その6
キイチゴジャムの話の後日談です。
お母さん
パメラがキイチゴのジャムを作って、男爵令嬢ズと私の5人で美味しくいただいた、その後の話です。
あの後、令嬢の皆さまが、男爵令嬢ズ、特にパメラを目の敵にするようになったんです。
きっと、彼女たちも食べたかったんです。
でも、ジャムはそれほどなかったですし、そもそも、いつも見下してくるような方たちに食べさせてあげるほど、私たちは寛大ではありません。
しかも、自分たちも食べたかったって正直に言えば良いのに、そうは言わないのです。
お貴族さまらしいと言えば聞こえは良いですが、要は、単なるやせ我慢のあげくの逆恨みです。
「山に自生しているキイチゴを取って来て食べるなんて。なんて、品のないなさりようでしょう」
「しかも、ご自分で調理なさったんですって」
「まあ、料理人に任せず、ご自分で?仕事を取り上げることになりかねませんわ。はしたないこと」
「品格以前の問題ですわ。お家の内情が苦しいんじゃございませんこと?」
「男爵風情が、こんな学園に入ったんですもの、そりぁ物入りでしょうよ」
チラチラこちらを伺いながら、馬鹿にするんです。
パメラの家の懐事情は、決して悪くはないのに!
だって、パメラのお父さんのオランド男爵は、トーリ村の領主さまだけど、薬草販売で堅実に利益を上げてるって話だもの。
「また、その下賤な食べ物を食べた人がいるってことが驚きですわ」
「だって、ほら、平民とさして変わらない方たちですし、日頃から平民とも仲良くされているから。
分かるでしょ?
貴族とは名ばかりでしてよ」
男爵令嬢ズにまで、攻撃の手が伸びたとき、テレサの反撃が始まりました。
「山海の珍味ってゲテモノが多いって聞くけど、キイチゴのジャムはシンプルで美味しかったな。
ただ、キイチゴそのものが得難くて、それを料理する人間の腕がものを言うって聞いたことがあるんだ。
マーサ、スーザン、我々はラッキーだったな。たまたま、キイチゴの採取に長けたエヴァとジャムを作る技術に長けたパメラの側にいて、お相伴にあずかれたのだから」
マーサもスーザンも負けていません。
「本当に、とっても美味しかったですわね、スーザン?」
「普通のイチゴジャムと全然違ってましたわねえ。
ねえ、エヴァ、パメラ、もう一度キイチゴのジャムを作ってくださいませんこと?
私、キンバリーの家でもあんな美味しいジャムを食べたことありませんの」
パメラがダメ押ししました。
「喜んでもらえて、嬉しいわ。
ねえ、みんな、知ってる?
キイチゴって、ギルドに採取依頼を出しても、なかなか手に入らないのよ?」
「どうして?エヴァみたいな子が取りに行くんじゃないの?小説では、そうなってるわ」
「マーサの感覚ではそうかもしれないけど、現実には、わざわざキイチゴのために山へ採取に行ってくれる冒険者は、滅多にいないのよ。
魔獣が出るかもしれないし、キイチゴって、採取が大変な割に売値が安いの。だから、割に合わないのよ」
「パメラって、なんでも知ってるのね?」
「我が家は、領民から薬草を買い取って、領都や王都のギルドや薬局に売ってるから。
ときどき、ギルドに採取依頼もかけたのよ。
そのときお付き合いのあった職員が教えてくれたの」
「もしかして、エヴァも採取依頼を受けてた口?」
テレサが小声で訊いたので、小さく頷いておきました。
今度は、男爵令嬢ズも一緒に山へキイチゴを取りに行きたいというのを、何とかなだめて、思いとどまってもらいました。
彼女たちは、山をちょっとしたハイキングコースのように思っている節があるのです。
地図もない状況で、キイチゴを求めてけもの道を行くのは、無理だと思うんです。
第一、服装からして、スカートかドレスしか持っていないのです。山歩きなんか、とんでもない話です。
その代わり、私がキイチゴをたくさん取って来ることを約束させられたのは、仕方がないことでしょう。
いろいろあったけど、貴族の令嬢たちの攻撃を、男爵令嬢ズは跳ね返したのです。
頼もしい友人たちです。
4月20日
キイチゴの採取の達人 エヴァ
男爵令嬢ズは、頼もしい友人たちです。