(4月20日付けの手紙)
授業でいろいろあります。
お母さん
お貴族さまというのは、本当に陰湿でどうしようもない連中です。
『とんでもないシリーズ・パート4』です。
今日、数学の時間に先生が黒板に応用問題を書いて、「答えが解る人は、いませんか?」っておっしゃったので挙手したら、「平民はひっこんでろ!」って誰かが言ったんです。
唖然として、思わず上げた手を下げたんですが、解る人がいなくって、結局、私が答えることになりました。
結果は正解で、周りの人たちの羨むような、蔑むような、複雑な視線にさらされました。
だったら、あんたたちも勉強すれば良いでしょ!って、言いたいほどです。
あの人たちは、男も女も婚活でフワフワしてるんです。
婚活と縁がない私が勉強するのは当然のことです。何しろ、奨学金もらってるんですから頑張らなくっちゃならないのです。
頑張った結果、問題が解けたのは、これまた当然のことです。
自分たちの勉強不足を棚に上げて、足を引っ張るのは止めて欲しいです。
私の正解を確認した数学のハドソン先生が、
「ねえ~。さっき、面白いことを言った人がいたわね~?
自分の勉強不足を棚に上げて~、できる人の足を引っ張るなんて~、貴族として最低の行為だと思わない~?
私としては~あなたたちが~平民に負けないように~一生懸命勉強することを~お勧めするわ~」
って、言ってくれたんです。
これには、一同、絶句しました。
言った内容にも、厳つい男の人のオネエ言葉にも引いたんです。
先生の好意は嬉しいんだけど、私の立場がさらに悪くなったように感じたのは、勘違いじゃないと思います。
でも、手を挙げる度に喧嘩を売られるのは嫌なので、これからは極力手を挙げないようにしようと思いました。
ああ、面倒くさい。
それと、セクレド語の時間に、有名なレイノルズ・ホーキンズの詩をやったんです。
例の「五月半ばの森の中 君を探して我は行く 水辺のほとり木々の先 消えゆく虹の その向こう……」って、お母さんの好きな詩です。
レイノルズ・ホーキンズは我が国では有名な詩人なので、知ってる人も多いはずです。
それなのに、いつもは口もきかない男子生徒が、
「平民のくせにホーキンズの詩なんか知ってるのか?生意気な」
って、わざわざ喧嘩売りに来たんです。
きっと、あの詩を知らなかったら、「平民だから、こんな有名な詩も知らないんだ」って、馬鹿にするつもりだったんでしょう。
それなのに、セクレト語のリンダ・リン先生(生徒は『リンダ先生』と呼びます)に当てられた私が、スルスルっと暗唱しちゃったので、そして、それをリンダ先生が褒めたので、面白くなかったんでしょう。
本当に、面倒くさいったら、ありゃしません。
貴族には、近づかないようにしてるのに、あっちから喧嘩売って来るんですから。
放っておいて欲しいのに!
プンプン!
でも、その授業で良いこともあったんです。
私の後で、エリザベートさまが、別の詩を暗唱されたのですが、それがものすごく素敵だったんです。
リズミカルに韻を踏みなから抑揚をつけて暗唱されたのですが、村の学校でテイラー先生が暗唱してくれたのと全然違いました。
詩って、こんなに素敵なものだったんですね。
感動しました。
私が感動の面持ちでエリザベートさまを見ていると、向こうも気が付いたようで、ニッコリ微笑んでくださいました。
授業が終わると、みんながエリザベートさまの周りに集まって、口々に褒めたんですが、その時、少し離れたところから彼女を見ていた私にエリザベートさまが近寄って来て、「エヴァも上手でしたわ」と声をかけてくださったのです。
ビックリでした。
貴族がわざわざ声をかけてくれるなんて。
感動ものです。
エリザベートさまは、良い貴族(人)です。
4月12日
エヴァは、結構優秀なのです。