表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/103

(4月10日付けの手紙)その4

エヴァは、男爵令嬢ズとイースレイの町へ遊びに行きます。

 さて、先日の休みの日、仲良くなった4人(パメラは元から仲良しだけど)とイースレイの町へ遊びに行きました。


 学園からイースレイの市街地へは歩いて1時間、馬車で15分ほどかかるんです。だから、休みの日に学園から町へ遊びに行くのは、生徒にとって、楽しいイベントの一つになっています。


 というわけで、私たちの初めてのイースレイデビューだったわけですが(入学式の前に通り過ぎたのは数に入りません)、行ってみたら、イースレイは学園みたいになってました。


 つまり、学園の生徒であふれかえっていたんです。


 せっかくの休みなのに、わざわざイースレイまで出かけて、学園にいるときと同じように貴族の皆さまに気を遣わなきゃならないなんて、馬鹿みたいです。


「用事があるならともかく、わざわざ学園と同じ状況になるためにイースレイの町まで出かけるのはナンセンスだわ」


 私はそう主張したのですが、パメラたちは、シチュエーションが違うから、学園で会わない人に会う可能性があるし、知ってる人でも、学園では見られない本来の(生の)姿を見ることができる、と大騒ぎでした。


 上手く行けば、恋ができるかも……って考えたみたいです。


 それに、イースレイでないと手に入らない可愛い小物グッズとか、イースレイでないと食べられないお菓子スイーツなんかもあって、それは年頃の娘にとって、とっても魅力的なんです。


 結局、男爵令嬢ズのみんなは、休みの日には、用事がない限りイースレイへ来ようということになったんです。




 男爵令嬢ズは恋をしたいし、イースレイへ来れば恋の可能性があるでしょう。

 でも、私は平民です。私が一方的に恋するのはゴメンですし、平民に恋する貴族なんているとは思えません。

 悲恋ものの少女小説は、傍から見るから面白いのであって、自分でやることじゃないと思うんです。


 


 小説が好きなマーサによれば、小説なんかでは、貴族と平民の恋というのが定番らしいんです。

 上品に微笑んで言葉をぼかして曖昧な言い方しかしない貴族の令嬢を見ていると、私のようにストレートな物言いする女性が好ましく思えて、貴族の坊ちゃんがフラフラっと恋に落ちるんだそうです。

 でもって、そういう場合、大抵、婚約者がいるので、修羅場になるんだそうです。


 

 ありえない!!!


 貴族の男なんて、こっちから願い下げです。

 

 


 あの最悪な魔法学の授業ほどではないにしても、私が学年唯一の平民だということで、いろんな場面でクラスメイトに見下されるんです。

 ひどいときには、「平民のくせに、玉の輿でも狙いに来たのか?」とか、「頑張って優秀な成績とったら、愛人にしてやるよ」って言われたり、「おい、平民、〇〇買って来てくれ」と、パシる生徒バカもいます。


 もちろん、前者に対しては、

「私のような卑しいものが、尊いお方のお目に留まることなんかあり得ません。

 私は、たまたま学園こちらに来ただけです。分は弁えておりますので、卒業したら、とっとと故郷さとに帰ります」

と言ってスルーしますし、後者に対しては、

「了解しました。銅貨5枚で引き受けます」とか、「かしこまりました。銀貨1枚で引き受けます」

と、突っぱねます。

 

 大抵は、料金を聞くと引っ込むのですが、たまに食いつく貴族バカがいて、そういう人からは、しっかり巻き上げさせていただきます。



 パメラは、そういう貴族バカを『カモ』と呼んでいます。彼女によれば、『カモ』は、私の懐事情に貢献してくれるので、上手に転がさないといけないそうです。


 彼女は、ときどき天然で、こっちが頭を抱えることもあるんですが、ユーモアがあって、相手の身分に関わらず誠実で、貴族とは思えないほどです(これは、誉め言葉です)。

 学園ここへ来て、彼女の良さを再確認しています。




 

 話を元に戻しましょう。


 男爵令嬢ズは、休みの日にできるだけイースレイに来ることになったんだけど、私に同行を強いることは、ありませんでした。


 私は、彼女たちに、

「あなたたちには気を遣わないから良いんだけど、他の方は、ダメ。我慢できないの。

 休みの日ぐらい、あの人たちと関わり合いになりたくないから、私はパス!

 ごめんなさい。

 私のことは、気を遣わないで。そっちはそっちで好きにやってね」

って、正直に謝ったんです。



 彼女たちも私の気持ちが分かったようです。 

 毎日の様子を見ていれば、嫌でも分かるってもんです。


 彼女たち貴族と平民の私の立場や価値観の違いが露わになって、ちょっと寂しかったんですが、それでも、私の好きにさせてくれる彼女たちの懐の深さに、心が温かくなりました。





 それとね、お母さん。


 今回のイースレイ行きには、とっても良いことがあったんです。



 

 学園からイースレイへ馬車で行く途中、何の気なしに窓から外を見ていたら、家の薬草園で育てている薬草に似たのがたくさん見えたんです。


 家の薬草って、確か、お母さんが森から取って来て、畑に植えたのが始まりだったよね。


 よく考えたら、どっちもスレイ山の麓なんです。こっちに、村の近くに生えている薬草と同じものがあっても不思議じゃないんです。

 

 あの道すがらあったということは、反対方向――スレイ山の山頂方面には、もっといろいろな薬草ものがありそうです。


 イースレイへの道は混んでます。

 今回私たちは、幸運にも馬車を利用できました(そのために、いつもより早起きしたんです)。でも、馬車に乗れなかった生徒が歩いていたり、学園の馬を借りてイースレイへ行く人もいるんです。


 だから、イースレイと反対方向へ探しに行こうと思うんです。


 上手く行けば、イースレイの薬局に買ってもらえるかもしれません。薬局がだめでも、近くにギルドの支所があるはずで、そこで買ってもらえるはずです。



 何となく、お母さんの思惑に踊らされているようで面白くないんですが、学園の雑用アルバイトやお貴族さまのパシリより、よっぽど儲かると思います。


 何より、お貴族さまと関わらなくてすむので、気持ちが良いバイトになるでしょう。


 とても楽しみです。


                          4月10日


              楽しいお金儲けを企画する  エヴァ



PS お母さんがサシェや山刀なんかを送ってくれたのは、こういう展開を予想していたんでしょうか。

 私より私のことが分かってるんですね。ビックリです。                               



男爵令嬢ズは、気を遣わないで済む良いお友達のようです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ