(6月15日付けの手紙)
これにて完結です。
お母さん
6月になって、学園へ2人の転校生がありました。
1人は3年の女子で、もう1人は2年の男子です。
3年の女子は、隣国ホルムハウト王国の伯爵家の四女のケイト・レイシールドさまという方です。
名前で分かるとおり、変身後のケント会長です。
ケント会長は、急な病に倒れてご実家へ帰られたんですが、薬石功なく亡くなられました。
それで、ただ1人の子供を失ったシールド侯爵は、遠縁にあたるケイトさまを養女にしたってことになったんです。
でも、ケント会長は膨大な魔力を有していたのですが、ケイトさまは、普通の貴族レベルの魔力しか持っていないので、魔力制御を覚えるために学園に入るのも、1年からじゃなく、3年からで十分だということになったんです。
他の教科については、とても優秀なご令嬢で、そちらについては、まるでケント会長のようだと言われているんです。
しかも、髪の色も目の色もケント会長とそっくりなので、親戚だって言われて簡単に納得できるほどなんです。
ケント会長は、男の人でしたが、キレイな人でした。ケイトさまは、女子なので、本当にキレイで、ザ・美女って感じなんです。
ケント会長が亡くなったので、シールド侯爵がショックのあまり寝込んでしまったので、外務大臣の職を辞し領地に隠遁したそうで、滅多に表に出て来なくなったそうです。
そんなシールド侯爵の養女になったケイトさまは、例外として特別寮にあったケント会長のお部屋を引き継ぎました。
ケイトさまが、初めて登校した日、3年のクラスの皆さまが、みな目を疑ったそうです。
それほど、ケント会長に似ている美女だったんです。
おかげで、交際を申し込む人が大量に出たそうです。
でも、本人が、婚約者がいるのでお付き合いできませんって、宣言したので、皆さま、告白する前に失恋したということです。
さて、3年のクラスの騒動を横目で見ながら、2年の転入生はというと、プラチナブロンドのサラサラした髪に緑色のキレイな目をした背の高い少年レイでした。
レイは、名前で分かるように、貴族じゃありません。
でも、その清冽な雰囲気がただものじゃないと思われて、うちのクラスの皆さまは、あっけに取られて、いつもの嫌味どころか何も言えませんでした。
だって、彼を紹介したロックフィールド先生がたじろぐほどの存在感だったんですから。
レイは、言わずと知れたスレイ翁です。
本来なら、翁は、森から動けません。
だから、ウイリアム殿下の危難も助けることができなかったし、ダリが黒い森の開発計画を止めに行くのに同行できなかったんです。
それなのに、学園へ来れたのは、例の転移の魔法陣を使って、散々私の部屋へ遊びに来ていたせいか、スレイ山近郊(学園までぐらい)なら移動できるような耐性が付いていたみたいなんです。
でも、小さいままじゃ困るので、何とかならないかと研究したんです。
魔力が多い方が動けるんじゃないか、と思ったんでしょう。
翁は、ケント会長やシールド侯爵から魔力を奪って魔力の底上げをしたんですが、それでも、森から外へ出るには、学園で生活するには、厳しかったんです。
それで、いろいろ調べてみたんですが、例によって、禁書庫に魔力の譲渡というのがあったんです。
しかも、譲渡の方が、奪うよりも魔力のロスが少ないとのことでした。
それで、私の魔力を普通レベルだけ残して、残り全部を翁に譲渡したんです。
だって、私は、普通に魔法を使えれば良い(例の3つの魔法陣なんかを使えれば良い)んです。
私が必要以上の魔力を持っているより、翁が増えた魔力を使って、私やジークの過ごす学園で一緒に学園生活を送る方が楽しいと思ったんです。
ジークも同じことを思ったようで、二人して普通レベルの魔力を残して、翁に譲渡したんです。
結局、私も、ジークも、ケイトさまも、みんな普通レベルの魔法使いになったんですが、その代わり、スレイ翁は、スレイ山の近くなら、どこへでも動けるようになったんです。
そして、翁は、念願かなって(?)、学園に転入したんです。
苗字がないので、平民だということにしたんですが、学園長を始め、教職員の皆さまは、レイの清々しい気配に、他国の高位の聖職者の一族だと思ったみたいです。
聖職者どころか神さまなんですが。(笑)
そして、現在、2年のクラスで、レイは令嬢たちの注目を一身に浴びて、みんなにちやほやされて、ご機嫌なんです。
加熱する女子の争いに、ジークが割って入ってレイを救出するという、とんでもないイベントが毎日のように繰り広げられているんです。
嫉妬しないのか?って、ジークに訊かれるんですが、これは、スレイさまがレイになったから起こったことで、翁の長い人生(というより、『神生』って言うんでしょうか)で、初めての経験なんです。
そっとしといてあげようと思うんです。
レイには、普通の子供が学園で経験するようなことを目いっぱい経験して欲しいんです。
卒業したら、森の主に戻るんですから、今しかないんです。
そんなこんなで、レイの周りが華やかになっている間も、私は、土曜になると山へ薬草の採取に出かけました。
レイやジークも同行するときもありますし、1人のときもあります。
でも、1人で行っても、行くと、必ず、ツーノやイッカクが出て来て、楽しく過ごせるんです。
そんなある日、授業が終わった後で、レイに呼び出されて、告白されました。
「エヴァ、僕のお嫁さんになってくれないか?」って。
一瞬、唖然としたんですが、次の瞬間、頭を抱えました。
何て、非常識なんでしょう。
普通、付き合ってもらえませんか?って訊くのが、第一歩でしょう?
レイは、まだまだ人間のことが分かってません。
だから、言ってやったんです。
「まずは、お友達から始めましょう」って。
私、平民エヴァは、お貴族様御用達超名門学園の生徒です。
そして、神さまであるレイのお友達になりました。
これから先のことは、分かりません。
先のことを悩むのは、止めました。
だって、私、平民なんです。
婚約者とか許嫁とか、そういう面倒なことはお貴族さまの専売特許です。
平民は、好きになった人と恋に落ちて、結婚するんです。
レイ。まずは、友達からはじめましょうか?
って、言ったら、レイは、ちょっぴり腹黒そうな笑いを浮かべて、私に言ったんです。
「エヴァ、君に僕を好きになってもらえるように頑張るから」って。
もしかして、あの台詞って、ウイリアム殿下かお父さんが、ニーナさんやお母さんに言った台詞だったんじゃないでしょうか?
レイが、あんな気の利いた言葉を知ってるなんて、驚きました。
絶対、ウイリアム殿下かお父さんの台詞をパクッてるに決まってます。
でも、レイが一所懸命なのが分かるから、パクッても許してあげることにします。(笑)
6月15日
あくまでも平民の特権を行使する エヴァ
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