小鳥遊祐樹の恋愛事情
その日から、俺は小鳥遊にとにかく話しかけまくった。
休み時間、昼休み、授業中、暇さえあれば小鳥遊に話しかけた。
流石にトイレまでついて行った時は、本気でキレられ、大便器の方に篭ってしまったこともあった。
小鳥遊は最初、話しかけても無視を決め込んでおり、時々口を開いても、
「僕には関わるな」
その一点張りだったのだが、数ヶ月が経った頃には、話をすれば返事をするようにはなってくれた。
更には、始業式から3ヶ月ほど経った現在、当初とは違い笑顔で会話をしてくれるまでになった。
「それでよ、橋本環奈がさ。マジで可愛くってさ! あれはマジで惚れるわ〜」
「どうして君はいつもそんなはなしばかりなんだい? もしかして、女の子に興味深々なの?」
「当たり前だろ! 俺だって男だ! 女の子が大好きに決まっている!」
「そ、そうなんだ……」
裕樹が苦笑いを浮かべる。
まあ実際今は主人公のお前に興味津々なんだけどな。
最近、俺はこいつのことを裕樹と呼ぶようになった。
仲良くなった証にと思い、最初はポツリと言ってみたのだが、思った以上に裕樹の反応が良かったため、今は普通にそう呼んでいる。
「とまあそれは置いといて、いきなりだけど裕樹は誰か好きなやつとかいないのか?」
別に、今この段階でこの質問をすることに他意はない。
ただ、まだいないなら赤坂さん、もしくは隣のクラスのもう一人のヒロインルート。
いるなら、その好きなやつのルート。
どちらにせよ俺が脇役としてサポートするために、誰のルートに行くかを把握するだけだ。
「僕? ま、まぁ一応気になってる人はいるけどケンジには話せないかなぁ」
どうやら、いるにはいるが話してはくれないらしい。
ここで、
「おいおい、勿体ぶるなよぉ〜。教えてくれよぉ〜」
なんてことを俺は言わない
そんなことを言ってしまえば、最悪裕樹との関係が悪くなってしまう可能性まである。
折角この数ヶ月間で築き上げてきたこの友人関係を壊すわけにはいかない。
だからこそ、そのことを話す選択権を彼自身に委ね、かつ話してくれるように仕向ける。
「そうか、ならまた話す気になったらいつでも言ってくれよ! 俺はずっとお前から言ってくれるのを待ってるからな!」
そう言うと、裕樹は顔を少し赤らめながらコクリとうなずいた。
意外とウブ……そんなところも主人公らしくていい!
俺が質問を終えると、今度は俺が裕樹に質問したからかは分からないが、
「じゃあ逆に聞くけど、ケンジは誰か好きな人とかいるの?」
逆に質問を返された。
だが、この質問は思ってもみない大チャンスだ。
この質問の答え次第で、このラブコメ物語は大きく変化する。
所謂、ターニングポイントだ。
ここで
「いない」
なんて答えてしまっては物語は何も進展しない。この選択肢は論外だ。
だが、
「いるよー」
だけで終わらせてしまっても何も影響はない。こちらも話にならない。
なら、どう答えたらいいか。
それを的確に答えられるのが脇役の才能を持つ俺だ。
「好きな人? いるいる! えっと、同じクラスの赤坂さんと隣のクラスの北中さん! どっちもマジで可愛いんだよ! まず、赤坂さんは……」
そう、ここでヒロイン候補二人の名前を出すのだ。
何故ここで2人の名前を出すか。
説明してあげよう。
もし仮に二人の名前を出して裕樹が怒らなかったら……それは、裕樹にとってのヒロインは二人ではないと言うことがわかる。
正直、こっちはあまり進展がないが、ヒロイン候補の二人がヒロインじゃないとわかるだけ何も進展しないよりはマシだ。
そして、もう一つのルート。
もし、裕樹が怒ったら。
それが意味するのは、裕樹の好きな人は赤坂さん、もしくは北中さんと言うことになる、と言うことだ。
ちなみに、北中さんと言うのは、みなさんお察しかもしれないが、俺が見つけたもう一人のヒロイン候補だ。
そしてこのルート、もう一つ利点がある。
これは、俺にとっての利点なのだが、もし、裕樹が怒ったら俺と言う人間は裕樹にとって恋敵……と言うことになる。
つまりだ。
俺が中学で演じた噛ませ犬のあのキャラ、あいつと同じ立ち位置に俺が立つことになる。
もし、これで裕樹がどちらかと付き合えば、俺の脇役の才能も改めて証明され、同時に脇役の重要性も証明される。
俺にとっては願ったり叶ったりなのだ。
「……それにさ、あの二人ってどっちもめっちゃスタイルいいじゃん? 特に赤坂さんなんt」
「もうやめてよ!」
と、俺が長々と彼女達の魅力について語っている(まあほとんどは適当に話してはいた)と、遂に裕樹が話を止めてきた。
「ど、どうした? いきなり大声出して」
「僕の前でその二人の話はしないでくれ。僕はケンジといる時はバカみたいな話だけをケンジとしたい。だから、そうやって女の子の話題を出すのはやめてほしい」
どうやら、怒り心頭のようだ。
そもそも、こいつの言っていることは矛盾している。
何故なら、俺に好きな人いる?と聞いてきたのはこいつなのだから。
別に俺が急に話し出しだけではない。
「なんだよ、お前が聞いてきたんだろ? 好きな人いるかって。もしかしてお前……妬いてんのか?」
俺は鎌をかける。
「そ、そんなことない! 僕は別に妬いてなんか……」
すると彼からとてもウブな反応が返ってくる。
初々しくて良いじゃないのぉ〜顔に出るタイプって分かりやすくていいわねぇ〜
これ以上鎌をかけると仲が険悪になりそうなので、
「そうかいそうかい! まあ、心配しなさんな! お前の都合の悪いようにはならん。お前に待ってるのは幸せなハッピーエンドだけだ」
俺は裕樹にさりげなくうまくいくことを伝える。
「そ、そうなんだ! なら、僕はケンジを信じていいんだね?」
裕樹が不安げな目で俺を見つめてくる。
「ああ、任せとけ! お前の未来は不幸にはならない。だが俺だってそう簡単には負けないからな!」
「ああ! こちらこそ、臨むところだ!」
新学期から3ヶ月、もう夏休みに差し掛かろうかと言う段階でようやく、物語が動き始めた。
これからが大事だ。
まずは、赤坂さんと北中さん、二人を何としても裕樹に惚れさせなければいけない。
そのためには、俺が裕樹にバレないように二人にあいつの魅力を伝えてやらなくてはいけない。
あくまであいつとは恋敵の関係、そして女子二人には恋愛サポート役としての関係、それを築かなければ。
(……とは言っても)
「た、小鳥遊君。今日一緒にお昼食べない? 私、小鳥遊君の為にお弁当作ってきたんだけど」
(もう二人のうちの一人は完全に堕ちているようだが)
どうやらこのラブコメ、片方がチョロインすぎるようだ。
大学が始まってるんで投稿頻度が激落ちしてます