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色彩のエリーゼ  作者: 目黒 九六
255/000/000.紅大帝国-エル=ピ=シャトレ-
7/9

050/000/000.陽気な獣人

「…何だテメェ」




俺の前に立っていたのは白い獣人だった。


でっかい耳に煙のようにうねる尻尾。


マントで覆っていて身体のラインはわからない。


クソッ、人通りの少ねェ道なのにこういう時に限って来やがる。




「あははー、しがない旅人ですぅー。このあたりに美味しいご飯出してるお店ってないかなぁー?もうお腹ぺこぺこで―――」




何だコイツは。


現状を理解していないのか?


そのふざけた態度の獣人に、俺は更に苛立つ。




「テメェ…、殺されたくなきゃ失せろ」




持っていたナイフを獣人に向け、ビビらせて去るように促した。


生憎、虫の居所が悪いんだ、さっさとどっかに行け。




「ひゃあ刃物!!ご飯を食べようとしていたのに、私が食べられちゃうのぉー!?」




すると獣人は両腕で自身の肩を抱き、身体をくねらせ始めた。




「…ッ!テメェ!!」




コイツは俺を馬鹿にしている。


許さねぇ、傷一つでも付けてやる。


俺は走って獣人に近付き、ナイフを振り翳した。


俺は帝国戦士候補生の中でもトップクラス。


一瞬の合間に繰り出された剣技を避けられる筈がない。


薙いだナイフに感触を掴んだ。


これでコイツも逃げる筈―――。




「ざぁんねーん!ハッズレー!!」


「…あ?」




気付くと獣人は背後にいた。


馬鹿な、一瞬で攻撃したんだぞ?


感触だってあったはずなのに。




「…ッ馬鹿にしてんじゃねぇぞッ!!」




振り向く動作を力に再びナイフを操り、突きを繰り出す。


そのナイフは獣人の腹部に柄まで到達し、刃が見えない程に深く刺さった。




「ぐわー!やーらーれーたーぁー!!」




ナイフの柄から手が滑り落ち、獣人はその柄と腹部を抑えながら後ずさる。


…おかしい。あのふざけた態度に刺したナイフ。


刺した筈なのに感触が伝わらなかった。


その時、獣人がケロっとした顔で姿勢を戻し、柄を引き抜いた。




「あれれー?死んだと思ったら刃が無かったぞぉー?」




そのナイフの柄には刃が無かった。


何故だ?さっきまであった筈の刃が、何故―――。


思わず後ずさりした時、足元で金属音がした。


地面を見てみると、桃色の何かが光った。


ナイフの、刃―――?




「種明かしをするとねー、最初の一撃で折っちった。てへっ!」




さっきの感触は、肉を抉る感触ではなく、ナイフの刃が折られた感触…?


何だ、その速さは。


全く見えなかった。


さっきもそうだ、気付いたら背後に居た。


気持ち悪ぃ。


…何なんだ。




「何なんだテメェはよォッ!!!」




無意識に俺は魔法を使用していた。


身体は火に包まれ、紅蓮の炎が燃え盛る。


母を殺した魔法。


抱き上げてくれた母に使用してしまった殺人の魔法。


火の粉を散らす拳で獣人に殴りかかりにいく。


振った拳が獣人に当たる時、獣人は初めて真顔となった気がした。


突き殴った拳が避けられ空を切った時、耳元で言葉を聞いた。




「―――赤の色は人を憤怒に染める、君が掛かっているのは魔女の呪いだよ」




瞬間、首に鈍痛が走り、視界が暗転した。






=====






「ふー、びっくりしたー」




何が起こったのか。


あっという間の出来事に少女は混乱する。


先程まで少女を恐怖に陥れていた男性は地に伏せ、しがない旅人を自称する謎の白い獣人は伸びをしていた。


助けてくれたのだろうか。


いや、まだわからない。


私は異端者。


これ程までにとは言わないが今までも何度か同じ目にあってきた。


この人も、私に酷いことをするかもしれない。


今のうちに、逃げなきゃ。


そう思い、ゆっくり立ち上がろうとしたが、腰が抜けて上手く立ち上がることが出来ない。


物音で気付いたのか、獣人は少女の方を向き、目が合う。


その目には敵意が無く、獣人はニッと笑い話し掛けてきた。




「このあたりに美味しいご飯があるお店無いかなぁ?」

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