010/000/000.宿屋探し
紅大帝国-エル=ピ=シャトレ-。
«赤»を象徴とした国で、赤い石畳で組み込まれた床や壁で統一された中世的な印象である。
エル=ピ=シャトレを守護する赤い城壁は円状に囲われており、五箇所の門がある。
五箇所の門からは円の一点を定めるかのように一直線のまるでレッドカーペットを連想させる程に赤くとても長い大通りの道が伸びている。
その道は大型の馬車が横に並んでも四台は余裕に収まり、道端の建物からは無数の露店が開かれ、沢山の客で賑わっていた。
そして、その五つの道が示した先の一点には、より一層に大きくそびえ立つ荘厳な赤い城があり、バロック調に建て上げられている。
威厳。その言葉がとても相応しい程に立派な城―――、その城こそが、エル=ピ=シャトレの中枢。
その城を一目置きながら建造物や行き交う馬車を見て歩く少女と、香ばしい香りを漂わせる複数の露店を見て腹の虫を鳴かせる少女、メテルとミミズがいた。
「あのお店はスパイスの効いた香辛料をまぶされて串焼きにされた鳥の肉…、あそこのお店はふわふわのパンに挟まれた肉汁たっぷりの牛の肉の上に予熱で蕩けさせたチーズをのせたサンド…。ねぇー、お腹すいたよメテルー。少し摘んで行こうよぉー…」
「まだ駄目。先に宿泊する場所を決めて荷物を預けてからじゃないと」
「えー…、なぁんでぇー?食べながら探しても変わらないじゃんかぁー…」
「駄目、それに私達はただ観光に来たんじゃないんだよ」
「それはわかってるけどぉ…。お腹すいて穴が開きそうだよぉ…」
「わかってるよ、ミミズ。その為にも早く寝床を探してくれないかな」
「うぅ…、はぁーい…」
二人は暫くの滞在の為にまず宿泊する宿を探していた。
エル=ピ=シャトレはとても大きな帝国で、商売人も盛んに行き来し、別国から観光に来る者も少なくない。
その為宿屋は多くの数が営業しており、エル=ピ=シャトレの中には宿泊街がある程である。
しかし、宿泊街は城壁に近い程安く、中枢に近い程値は張るがとても良い造りをされている。
主に他国より物資を運ぶ商売人が短期間のみ宿泊する事が多い為、大体の商売人は安い宿屋を借りていく。
そうなってくると、先に埋まってしまうのは城壁に近い安めの宿である為、早めに安い宿屋を確保しておきたいのである。
「しっかし、紅大帝国だけあってホント真っ赤な国だねー、暖色の色しかないや」
「それは勿論だよ。今じゃまだ色の差は出来てきたけれど昔は街並みも草木も水も空も、赤単色しかなかったって話だから」
「うぇー、考えただけで頭可笑しくなりそう…。」
エル=ピ=シャトレは全てが赤く出来ている。
空は薄く赤みがかっており、花壇に生えている花の茎や生い茂る木々の葉も薄いピンク色をしている。
数十年程昔に現れた魔女の仕業により、文字の通り«赤単色»に染められてしまった国こそがエル=ピ=シャトレである。
呪いの効力が薄れてきたのかは不明だが、物によっては少しずつ色素が薄れていき、物と物が別のものだと見て取れるようになってきた。
それでもまだ、赤がこべり付き歪な様を物語っている。
「赤い水って、飲む気無くならないのかなぁ…」
「それでも生きていくには飲まざる負えないんだよ。…ほら、あそこの宿屋なら宿泊できそうだよ」
メテルが指差した場所には、丁度商売人が荷物をまとめ旅立つ支度をしている宿屋があった。