001/000/000.紅大帝国-エル=ピ=シャトレ-
「―――ぁぁあああああああ!!!!!」
素っ頓狂な叫び声をあげながら、一人の少女が走っていた。
正気を感じさせぬ白い肌に土埃を被って汚れた白く肩まで満たない短い髪、そして緋色の目をした儚い見た目と正反対で活発そうな少女。
そして特徴的なのが、人か獣か、髪から大きな獣の耳と、腰から逞しく太い毛並みの白い尻尾を生やしていた事である。
現在、その少女は襲撃されていた。
「なぁあんでこぉおんなってるのぉー!?」
それは、赤い石畳の床と建物、そして一層にそびえ立つこれも赤く大きな城が目印である国、«紅大帝国-エル=ピ=シャトレ-»での出来事である。
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「…へぇ。随分と珍しい色のお嬢さん方だね。姉妹かい?」
赤い城壁に囲まれた国の入口を守る門番である、燃えるような赤い髪と無精髭を生やした男が問いかけた。
その門番の前には全身から膝まで隠せるほどの象牙色に黄ばんだボロボロなマントを羽織った二人の少女がいた。
「えっへへー、よく言われますー」
そう言葉を発したのは血管が鮮やかに透けて見えそうな程に真っ白な肌に白く短い髪と緋色の目、そして耳と尻尾の生えた少女である。
「はい、色んな場所を見て回ろうと姉妹で旅をしているんです」
淡々と、しかし柔らかく愛想よい返事で答えるのはまた白い肌に腰まである長く白い髪、そして同じく緋色の目をした少女。
二人の白い少女達は双子の姉妹である。
「しかしよくここまで来たなぁ、見たところ共同馬車も使わず自分の足で歩いてきたようだ。隣町からも随分離れていてここまで来るのに随分と疲れただろう」
門番の男は言った。
赤い城壁。一層目立っているが、振り返ると赤い石畳で整備された道と、一面広がる赤みがかった砂漠が広がっていた。
見渡しても他の町は見えない。
「いえ、歩くのには苦労していません。道中の水分や食料には少々悩まされましたけど旅は慣れていますから」
「はっは、違ぇねぇ。そうでなかったら旅なんて出来ねぇもんなぁ。それじゃ、お二人様入国ってことで良いんだな?」
「はい、お願いします」
「おうよ、ならば入国の手続きをするから名前だけ教えてくれ」
門番の男はボードとペンを手元に用意し返答を待つ。
その問に白く長い髪の少女は「はい、メテルです」と答えた。
そしてその問に白く短い髪に獣の耳と尻尾を生やした少女は「ミミズでーす!」と答えた。
「はいよ、メテルちゃんにミミズちゃん。入国を許可する、紅大帝国-エル=ピ=シャトレ-へようこそ!」