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フラン、仕事を始める  作者: 赤翼
フランドールの初仕事
6/15

フランドールの初仕事:5

 寺小屋と呼ばれる木造の家屋の一室には、既に劇をやる為の舞台がセットされていた。

 畳の敷かれた少し広めの部屋の中には椅子が綺麗に並べられており、奥にある手製の舞台は床と比べて少し高くなっている。

 その上には、木や家を模った、劇で使う小道具セットが置かれている。

 どうやらこれらの小物は全部子供達が作ったものらしい。用いられているのは木の板や紙で、それらが絵の具で可愛らしく彩られている。手作り感が溢れていて、とても良い。これらを一生懸命作っている子供達の姿を想像すると、ほっこりする。


「大丈夫? 緊張してない?」


 いよいよ劇が始まろうとしている。

 その前に、アリスと私はセットの裏で最後の確認の時間を作る。


「うん、平気。さっきよりか緊張してきたけど、それもそれで良い感じだよ。集中してきたっていうのかな」


「ふふ、なんだかもう一介の役者って顔ね。じゃぁヘルプは必要ないわね。上等よ」


 い、一介の役所。

 そ、そんなことはないと思うけど。

 ただ開き直っただけっていうか、ここまで来たらもうやるしかないっていうか。

 でも、信頼してくれるのは凄い嬉しい。

 まぁそんなこと言われると怖いけど、うん、大丈夫。


 ヘルプとは、台詞を忘れたりとかで困った時に、アリスに助けを求めるサインを送ること。

 フーで、助けてーって両手を挙げながら首を振るのがそのサインで、そしたらアリスがなんとかしてくれるって手筈にはなっている。

 でもこれ以上アリスの手を煩わせるつもりはない。

 信頼には絶対応える。

 だから、私はサインを使わない。

 絶対に成功させる。

 大丈夫、台詞は完璧に頭に入ってる。


 それじゃあ行くわよ、というアリスの言葉で、私達は壇上の左右から出て舞台の中央に歩いて向かった。

 薄暗い部屋の中私達がいる所だけにライトが照らされ、正面には慧音とたくさんの子供達が席に並んで座ってる。

 うっわー、なんか、すっごい本格的。

 部屋がさっきより広く見えて、ここがすっごいおっきい舞台に感じて、今までとは別の世界に来たみたい。まるで日常から切り離されたような。

 臆すな、私!


 アリスと私がお辞儀する。

 それに合わせ、アリスが操るたくさんの人形と、私のフー、レミュもお辞儀する。

 すると、それに子供達が一斉に拍手を返す。

 しんとしていたこの空間が一気に騒がしくなって、いよいよ始まったんだ、と今更ながら実感する。

 お辞儀を終えた私達は、再び左右に別れて舞台の裏へ。

 さぁ、いよいよ人形劇の始まりだ。


「最初のお話は皆も知ってる有名な童話、赤ずきんちゃん」


 アリスが題名を言うと、再び拍手が鳴り響く。

 拍手の音が小さくなるのを見計らい、アリスは私に、行ってくるね、とばかりに笑いかけ、再び舞台に出ていった。

 私は待機し、アリスの成功を舞台の裏から祈る。

 まぁ、アリスが失敗するなんて微塵も思ってないけどさ。

 昨日も聞いてはいるけど、それでも私の心はわくわく高まる。


「――むかしむかし、ある所に、とっても可愛らしい女の子がいました」


 アリスの芝居が始まった。

 ここからだとあまり見えないが、赤い頭巾を被ったお人形が可愛らしく舞台の上を動き回っている。

 シャンハイと違って赤頭巾の人形は表情が変わる訳ではないのだが、それでもアリスが操る人形は、身振り手振りでたくさんの感情の表現が伝わってくるから凄い。私も上手く出来るかな。

 物語が進んでいく。

 どうやらアリスが昨日森で探していた花は、赤ずきんちゃんがおばあちゃんのお見舞いに持っていく為のものだったらしい。

 物語は昨日私が見せてもらった時とだいたい同じてんぽ、同じ語り口調で進んで行く。やっぱり凄い上手くて、それに所々昨日と違くて、アドリブが入ってるのかな? とにかく、多少言い回しが違ったり、新しい台詞が入ってたりもして、あまり舞台の上は見えないけど、だからこそ余計気になって、私は昨日と同じようにアリスの語る物語に引き込まれていく。


「――おばあさんのお口、なんでそんなに大っきいの?」


「それはね…」


 き、きたーっ!

 衝撃の場面!

 ダメよ、赤ずきんちゃん!

 逃げて、今なら間に合う!

 逃げてーっ!!


「お前を食べるためさっ!!」


 正体を現した狼がベットから跳ね起きて叫ぶ。

 昨日のリハーサルよりも更に語尾を強調させた迫力のある口調。

 絶対絶滅の赤ずきん。

 きゃーと舞台から悲鳴が上がる。

 私もその叫び声に巻き込まれ、心の中で大絶叫。

 きゃーっ!!

 きゃーっ!!


 ふふふ、うまかったうまかったと、狼は感想を述べる。

 子供達の悲鳴にもアリスは容赦ない。

 これはトラウマになるんじゃないか?

 物語はそのまま進んでいく。


 …あぁ、でも、きっと舞台でのアリスの芝居を客席から見る風景は昨日と違って見えるのかな。

 セットと光の上で演技するアリスが私の頭の中に思い描かれる。

 でも、本物は私の想像なんかよりも遥かに凄いんだろうな。

 そう思うと、少し残念。

 私も観客席からアリスの芝居を見てみたかった…


「――猟師は狼さんのお腹をハサミでじょきじょき、すると、まず始めに赤ずきんちゃん、次におばあちゃんが出てきました」


「あぁ、怖かった。猟師さんが助けてくれたのね。ありがとう」


 良かった。

 赤ずきんちゃんもおばあちゃんも無事で。

 まぁ狼のお腹を掻っ捌いて中から人が出てくるのも、そこに石を詰めて縫い直すってのもよくよく考えると結構グロいシーンかとは思うけど、取りあえず子供達は気にしてなさそう。

 さぁ、いよいよ物語もクライマックス。

 そろそろ私の出番も近付いてきた。

 いくよ、フー、レミュ。

 一緒に頑張ろう…


「――こうして、怖い狼さんは猟師さんに懲らしめられて、赤ずきんちゃんとおばあちゃんは安心して静かに暮らしていくことが出来ました。めでたしめでたし」


 ハラショーっ!!

 子供達も拍手喝采。

 ちょーすげー!

 やっぱアリスのお話はおもしろーい!


「これで赤ずきんちゃんのお話は終わりです。皆も帰りに寄り道しちゃいけないよー。どこに怖い狼さんがいるか分からないならねー。分かったかなー?」


「「はーいっ!!」」


 来た来た来たー!

 ねくすと、いず、まいたーん!

 おーいえーい!

  へい、かまーん!

 あいむ、れでぃー!

 あい、あむ、あ、ぺーん!


「では、続いて、今日特別に皆の為に来てくれた、特別ゲストを紹介しまーすっ!!」


 ついに私の出番がやって来た。

 緊張はある。

 だけど、それ以上にこの子供達の前でアリスとお芝居出来ることが楽しみでもある。

 なのでテンションはマックスだ!

 パンパン頬を両手で叩き、気合いは十分。

 ――しゃぁ!!


 私は勇み足で舞台の正面まで歩いていく。

 そこから見えるのは、目をさんさんと輝かせているどこまでも眩しい子供達の笑顔。

 こんな急登場した私なんかに期待のこもった眼差しを向けてくれるなんて、有り難い限りだ。

 私よりも小さい子供なんてこれまでほとんど見た事なかったけど、皆可愛いらしいじゃないか。

 あぁ、ボランティアでもいいよ。

 誰かの為に、自分が頑張る。

 仕事って、こういうものなんだね?


「皆、こんにちは!」


「「こんにちはーっ!!」」


 うん、いい返事。

 いい、子供達だね、けいね。

 きっと良い先生のおかげなんだろうね。

 妖怪の私にも恐れずに接してくれた子供達。

 私も、そんな愛らしい子供達の真っ直ぐな心に、ちゃんと応えるんだ。

 さぁ、いくよ!


「私の名前はフランドール・スカーレット、約500歳!種族は人ではなくて、吸血鬼で、紅魔館の悪魔の妹! 人里では、ありとあらゆるものを破壊する力を持っていて、気が触れてるなんて言われてて、怖がられてる!」


「ちょ、フラン?」


 突然のカミングアウトにアリスが驚く。

 慧音も同じ反応だ。

 そりゃそうだよね。

 わざわざ自分から素性を晒す必要はない。

 せっかく皆怖がらないでいてくれるけど、自分の素性を明かしたら怖がられてしまうかもしれない。もしかしたら、仲良くなれるかもしれない可能性を壊してしまうかもしれない。

 でも、子供達は素の自分を私たちに晒してくれてるんだよね?

 だったら、私もそれに応えないといけない気がする。

 だから、私も自分を偽らない。

 間違っても、私の名前はアンデルセン。神罰の地上代行者! なんて言っちゃいけないんだ!


「それを、私は別にここで否定はしない。皆、さっきのお話は聞いたよね? 知らない人には気をつけなきゃいけないの。だって、もしかしたらその人は悪くて怖い狼さんかもしれないんだから。だから、君達が私を知らない以上、もしかしたら、私は狼さんなのかもしれない。だから、もし、どこかで私に会ったら、私を避け、関わらない。それが正解なんだと思う」


「フラン…」


 アリス、そんな悲しい声出さないで。

 人が私を怖がるの、今なら理解出来るわ。

 私だって、アリスに会った時、身構えた。

 こんなに優しい人なのに。

 だから、人々が私のような人外を避けるのは至極当然。

 悪い狼から身を守るには、それがきっと一番正しい反応なのだから。でも――


「でも… でも。でもね! それでも私は皆と仲良くなりたい! 今だけでいいから、仲良くしたい! 私に笑顔を見せてくれたあなた達に、今日は楽しんでいって欲しい! だから、私、頑張るから、短いかもしれないけど、頑張るから、だから、私は確かに怖い力を持った吸血鬼かもしれないけど、最後まで見ていってほしい! それで、もしこの劇を通して私の事を知って、怖くないって感じたら、その時は私と友達になってほしい!」


 私は頭をこれでもかと下げる。

 お願い、皆。もし駄目なら、最後のお願いは無理でも構わない。でも、だとしても、せめて今日だけでいいから、私と、仲良く…


「間に合ったようね」


「…え?」


 頭を下げる私の耳に、突然予想だにしない声が入ってきた。

 それは、いつも耳にしていた、聞き慣れていた声。

 いつも私を気遣って、優しく守ってくれていた人のもの。

 だけど、今は、今だけは、その声が怖い。

 凄い怖い。

 なんで?

 なんであの人の声が聞こえるの?

 いや、そんなことは決まってる。

 もし、あの人がここに来るとしたら、それは私のことを――

 お願い、私の勘違いであって!


 私は顔を上げる。

 そこには、あぁ、私の逃避に近い願いも虚しく、私が予想した通りの人物の姿が。


「お姉様…」


 その人の姿を見て、私は血の気がスーと下がるのを感じる。

 いや、そこにいたのはそれだけじゃない。

 咲夜、美鈴、パチュリーに小悪魔の姿まで。

 パチュリーも、結局はそっちに付くのね。

 まぁ、お姉様の親友なのだから当然か。

 それにしても、あはははは。

 私一人の為に、紅魔館の一陣メンバー全員集結?

 そりゃあなんとも光栄な限りだね。

 私は、現実逃避するかのように心の中で自笑した。


()()


 お姉様はけいねに不快の目を向けた。


「わざわざ寺小屋の“歴史を隠す”なんざ余計な真似を。お陰で探してしまったわ」


「頼まれたのでね」


 けいねはふんと小鼻を鳴らすと、


「それで、なんの用だ、レミリア・スカーレット」


 こちらにつかつかと歩いてくるお姉様の前に立ちはだかった。

 お姉様がけいねに向けた言葉の意味は分からないけど、流れから判断するに、けいねは誰からか、というよりも多分アリスに頼まれ、この場所にお姉様が来ないよう取り計らってくれていたのかもしれない。そういえば、この場所に入る時、何か違和感というか、奇妙な感覚があった。きっと魔術か何かを仕掛けていたのだろう。けど、それも無駄に終わってしまったようだ。

 突然の予期せぬ来訪者に、怯えた目をする子供達。

 けいねはそんな子供達の盾になるかのように両腕を広げ、庇うような姿勢をとる。


「この舞台の邪魔するっていうのなら、容赦しないわよ」


 アリスも、無数の武器を持った人形を操りながらけいねの隣まで歩み寄り、お姉様に敵意を示す。それが気に入らないのか、お姉様は両者を順番に睨み付け、一層の不快感を露わにさせる。


「ふん、()()()()()()と人形遣いごときが私の前に立ちはだかると? 面白い冗談ね」


「冗談でも何でもない。悪いがお前はお呼びではないんだ。退場してもらおうか」


「はん、身の程ってものを知らないようね。私が一から教えてやろうか? 教育者」


 二人を前にしても、お姉様は威圧的な態度を崩さない。

 呆れたような口調ながらも、その目は獲物を前にした獣の目だ。

 駄目だ。

 よりによってこんな所で、子供達の前で、皆が争うなんて。

 こんなの駄目だよ!


「やめて皆!」


 私は飛翔し、皆の中心に降り立った。

 ごめん、アリス、けいね、そして、小さな子供達。

 私のせいで、私のわがままのせいで、楽しい時間を穢してしまって本当にごめん。

 もう、いいよ。

 だって、私は、もう、十分――


「お姉様、昨日はごめんなさい。私、これからはお姉様の言う事をもっと聞くから、だから、今日の劇は、アリスや慧音、子供達の楽しい時間を壊したりはしないでほしいんだ!」


 私は、さっき子供達にしたみたいに、いや、それ以上に頭を下げる。

 馬鹿だ私は。

 本当になにも考えていなかった。

 私が家出をするということ、それはつまりこういう事だ。

 私一人の問題ではすまなくなるんだ。

 本当に短い時間だったし、嫌な目にもあった。

 でも、それ以上に楽しかった。

 ここにいる皆のおかげで。

 だから、私のせいで、これ以上皆に迷惑掛けるなんてあってはならないんだ。


「フラン。そんなに、今日の人形劇が大切なのかしら」


「うん、大切。凄い大切」


 そう、私にとって、この劇はとてもとても大切な時間だった。

 私が紅魔館を出て、最初に友達になってくれた優しいアリス。

 私に劇をする場所を提供してくれたけいね。

 私の事を怖がらず接してくれた子供達。

 皆が大切にしてる時間。

 だから、私も大切にしようと思った。

 頑張りたかった。

 でも、それが無理なら仕方ない。

 私のせいで大切な彼らの時間まで奪うなんてわがままは許されない。

 だったら――


「でも、それも諦める。だから、お願いだから! ここは引いて――」


「嫌よ」


「えっ!?」


「嫌って言ったの。引かないわ」


「な、なんで、どうして!? 私が悪かったから、お姉様の言うことちゃんと聞くから、だから、お願いだから関係のない人達まで巻き込まないで! そんなことしたら、いくらお姉様でも、許さないから!」


「おい、そこの半獣!」


 お姉様は私の言葉を無視してけいね矛先を向ける。

 ここで私達が争えば、例えそれが血統であれ死闘であれ、周りの子供達が巻き込まれてしまう。

 いや、そもそも今のお姉様が決闘ルールなんてお遊びで決着を着けるなどというまどろこしいやり方を選ぶかは分からない。

 私はなにかあってもすぐに子供達を守れるように、三人の分身体を子供達の前に出現させて立ち塞がせると、自身も何が起きてもいいように身構える。

 もし戦いになれば、いくら私でもこの五人相手には時間稼ぎが精一杯。お姉様一人でも互角までいけるかどうか。いや、強がるな。現実を見ろ。引きこもって鈍った私とお姉様とじゃ、部が悪すぎる。

 アリスとけいねの実力は分からないが、相手は紅魔館のこのメンバーだ。加えて数で劣っている以上こちらが不利は変わらないだろう。

 だったらせめて、例え私がどうなっても、皆は、皆だけは――


「お前は言ったな? 私はお呼びではないと 」


「あぁ言った。この場を乱すものにいてもらっては困るんだ」


「なら聞くわ。私はフランの保護者代わりよ? 妹の晴れ姿を、頑張ってる姿を見に来てはいけないのかしら」


「へ?」


「は?」


「なに?」


 素っ頓狂な声をあげる私。

 首を傾げるアリス。

 目を丸くするけいね。

 とにかく、皆がお姉様の言葉に驚いた。

 え? この人、なんて言ったの?


「なに三人揃ってすっとぼけた声出してんのよ。私は劇を見に来たの。フランと、ついでにあんたのね」


 お姉様は呆れた声でアリスを指差す。


「そ、そうなの?」


「そ、それはまた、予想してなかった回答ね」


 思いもよらない言葉に私もアリスも二人して呆気に取られる。


「それとも、あなた達はここで私達とやり合う方がお好みかしら? それならそれで、私はいくらでも付き合うわ」


 ふふんと不敵にお姉様は笑って見せる。

 ま、待って!


「いや、それはダメ! それはやめてお姉様!」


「だったら話は決定ね。席は空いてるかしら。ないならないで立ち見でいいわ」


「あ、うん。せ、席はね、こっち」


 な、なに? なにがなんでどうなった?

 と、とにかく、取りあえずお姉様は私の劇を見に来てて、取りあえず今すぐに私が連れ戻される心配はなくて。

 あっ、でも! 問題は子供達!

 さっきだってお姉様達の登場に怖がってたし!

 ただでさえ私が実は狼かもしれないのアピールしたばっかりで、それに加えて更にあんな見知らぬ人が一気に五人も増えちゃったら、もう怖くて怖くて大変じゃない?

 ねぇ子供達。

 例えば美鈴なんておっきいし――


「わー、高い高い!」


「ははは、もっと高くなりますよ? それー」


「わーい!」


 って、子供達めちゃくちゃなついとるやん!

 美鈴は子供達を肩に担いだり、上に放り投げたりして一緒になって遊んでる。

 そ、そっか。

 いつも門番の最中で妖精や小さい妖怪を相手に遊んでるから、こういうのに慣れっこなんだね!?

 でも、パチュリーなんてちょっと暗くてぶっきらぼうで…


「わー、お姉ちゃんもお人形動かすの上手いんだねー」


「まぁ、魔法使いならこれ位皆出来るわよ。もっと面白いの見せてあげようかしら? あぁしてこうして…」


「すっごーい!」


 あぁ、やっぱパチュリーも人形操れたのね。

 しかも、光の魔法でデコレーションときた。

 人形操作に合わせ、色取り取りの光がキラキラ踊る。

 子供の気を引くの上手いじゃないか。

 で、でも、咲夜なんかはお固いし…


「はい、種も仕掛けもありません」


「すっげー、いつの間にかナイフが増えてる! どうやってやったのか全然分からない!」


 ピー!

 さ、咲夜反則!

 イエローカード!

 時止めたんでしょ!

 あんた自体が種に仕掛けじゃないか!

 次やったら退場よ!

 で、でも、いくら何でも、流石にお姉様は――


「ねぇねぇ、モケーレごっこやって~?」


「はぁ~? 知らないわよモケーレなんて。うっさい餓鬼共ね」


 さ、さっきまであんなに怯えてたのは何だったの?

 嘘だったの?

 なんて命知らずな子供達。

 ちなみに、お姉様。モケーレは、蛇のような首と尾を持つ恐竜のようなUMAだぞ。正式名称はモケーレ・ムベンベ。図書館の世界の不思議時点で見たことがある。けど、なんで幻想郷の子供達が知ってるんだ? ってか、モケーレごっこってなに? 流行ってんの?

 で、でもお姉様が心開く様子はない。しっしとか、小蝿でも払う感じで手を振ってるし、やっぱりこの人に子供相手は――


「ねぇ、やってったら! やってやって!」


「うっさい! 食べるわよクソガキ!」


「わー、モケーレだ! 上手上手!」


「え? これがモケーレでいいの?」


 お姉様は目を一度丸くさせると、


「ギャオー、食べちゃうぞー!」


「きゃー怖い怖い!」


「ギャオー! 待て待てー!」


 お、お姉様のカリスマが見事にスターボウブレイク…

 え? なに? 紅魔館の外ではこんなキャラなの?

 ってか、なんで一瞬で仲良くなってんの。

 子供達も皆もどんだけ順応力あるの。

 なんなの、私との埋め難いコミュニケーション能力の差は。

 あ、でもまだこあがいる!

 こ、こあなんて、一応小がついても悪魔だし--


「こ、こぁー! 髪は引っ張っちゃダメ。あぁ、羽もダメだって。痛い痛い! いじめないで! た、助けてパチュリー様ー」


「こ、小悪魔…」


 安心したような、がっかりしたような微妙な気分。

 悪魔っぽさのかけらもない。

 でもまぁ、小悪魔が小悪魔で良かったよ。


「ねー、お姉ちゃんも遊ぼー」


「あいたっ!」


 痛い!

 自慢のサイドテールを子供達が引っ張ってくる!

 なに!? 私の威厳は小悪魔レベル!?

 あぁ、フランABCにも魔の手がっ!


「すげー、ブンシンの術だブンシンの術!」


「どうやんのー? 教えてー」


「なにこの羽ー。こんなんで飛べるのー?」


「わー、宝石きれーい。ちょうだーい?」


 いたたたた!

 引っ張り過ぎ!

 羽は駄目!

 宝石はもっと駄目!

 つかそんな強く触るな危ないから!

 ってちょっ!

 ス、スカートめくるな!

 あっ、ど、どこ触ってるの!


「お姉ちゃん、つるぺただな。ちょっと残念」


 ぷっちーん。

 前言撤回。

 良い子なんて思った私が馬鹿だったわ。

 このクソガキ共が。


「「「じゃかぁしゃ~っ!! 人がおとなしくしてりゃ良い気になりやがってこのガキ共が!! 血ーカラカラになるまで吸って干からびさけたろかい、おぉ!?」」」


 フランABCと声を揃えて怪獣のようにアンギャーと怒鳴る。

 私(達)の回りにいた子供達は泣きながら、何故かレミリアお姉様の元へ。


「わーん」


「こわいよーレミリアー」


「おーよしよし。ごめんね、うちの妹が。あの子ちょっと凶暴だけど良い所もあるから、勘弁してあげてね」


 お姉様は暖かく子供達を懐に迎え、優しく頭を撫でたりしてる。

 な、なんでよ。

 あんたさっきまで怖がられてたじゃない。

 一体いつの間に立場逆転してるのよ。

 うぅ、頭がずっしり重くなる。

 私がなにしたってのよ。

 ひどい、世の中理不尽だ。

 いや、まぁ怒鳴ったけどさ。


「吸血鬼のお姉ちゃん」


 後ろから女の子に肩を叩かれる。

 黒くて長い髪で、笑顔の可愛い女の子。

 さっき外で私に挨拶を指摘した子だ。

 なんとなくしっかり者そう。

 だけど、なに?

 まさかあなたにまでお胸小さいねとか言われるの?

 失礼な。

 どっこいどっこいじゃない。


「お姉ちゃん、かっこよかった!」


「かっこよかった? え? な、何が?」


「自己紹介とか、お空飛んだ所とか、色々! でも一番はね、私達をかばってくれたこと! ありがとう!」


「ど、どういたしまして」


 あ、あれか。

 あれはただ、とにかく必死で、なんも考えてなくて。

 だって、もしあの場で本当に争いが起こってたらそれは間違いなく私のせいで、そのせいで子供達を傷付ける訳にはいかなかったから、それだけで。

 だから、本当はぜんぜん感謝される筋合いなんて私にはないんだけど。

 でも、ありがとう、この子に言われたその言葉はなんだかむず痒いけど、とても温かくて、気持ちが良くて。

 それはきっと子供達特有の正直で無邪気なところから来るものなのかも――


「でも、自己紹介はむずかしくてなに言ってるのかぜんぜんわかんなかったー」


「えー、そんな」


 あぁ、なんて素晴らしい満面の笑み。

 でもそんなところまで正直じゃなくってもいいのに。

 こ、子供ってこんなもんなの?

 それとも私の話し方が悪かった?

 勢い任せとはいえ意を決して打ち明けたのに、そりゃないよー。

 やっぱり私、コミュニケーション能力、ゼロ?

 そう私はがっくり肩を落としたが、


「でも、難しかったけど、なんとなくお姉ちゃんの真剣さと優しさは分かったよ!」


「あ、ありがとう…」


 そんな言葉だけで、すぐに嬉しくなって、顔が赤くなってしまう私の心は、とても単純で現金だ。


「全く、これなら歴史を隠す意味なんてなかった」


「だね。しかし、子供達あれでいいの? 人懐こいのはいいけれど、狼いたら、食べられちゃうわよ」


「言わないでくれ。頭が痛くなる… はいはい! お前達、騒いでいたら劇の続きができないだろう! 席に戻れ!」


 アリスの言葉に、けいねは頭を抱えながらも、子供達をどやしつける。

 大変だねけいね。

 子供達は返事をして椅子に座る。

 一方、けいねはお姉様の元へ行き、頭を下げる。


「すまないな、誤解してしまって」


「構わないわ。こちらこそすまなかったわね。大人気なく騒いでしまった」


 お姉様は申し訳なさそうに謝ると続いてけいねになにか一言だけ耳打ちした。それを聞き楽しそうにけいねは微笑む。一方お姉様は不機嫌そう、いや、恥ずかしそうにか? 顔を背ける。心なしか、少し顔が赤いような。な、なにを言ったの?

 私が気になり見ているのに気が付いたのか、お姉様は咳払いを一つすると真顔に戻り、けいねに尋ねた。


「さて、隣座らせてもらっていいかしら」


「あぁ、他の皆も好きな席へ座ってくれ。少し狭いが、一緒に彼女達の劇を見守ろう」


 けいねの隣にお姉様が座り、咲夜、美鈴、パチュリー、小悪魔もその付近に座っていく。

 あ、ついにけいねの許可も降りてしまった。

 もう皆の前で劇やるの決定なのね。

 な、なんでわたしゃ今こないなことになってるんだったっけかー。

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