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フラン、仕事を始める  作者: 赤翼
フランドールと外来人
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フランドールと外来人2

「お腹、減ったな――」


 そう言えば、もうお昼になるのかな。だけど、今日は今朝から何も食べてない。そういう気分じゃない、というより、本当はなにか探しに行きたいところだけど、今度は人間に何を言われるのか、何をされるのか、少し臆病になってしまっている自分がいる。

 あれから、私もなんとか自分を奮い立たせようとした。でも、その度に、あと少し、もう少ししたら頑張るからと逃げ腰になり、結局今まで足を踏み出せていない。情けないな。これじゃぁ今までの自分とさして変わらないじゃないか。紅魔館にいるか、いないかの違いだけで。

 とにかくそんなんだから、今は道端の石畳に腰掛けて、なにをする訳でもなく休憩中。その内一人の人間が立ち止まったのが視界の隅に入ったが、顔を向けその人の様子を確認する気にもなりはしない。どうせ、腫れ物を見るような目で眺めてるんでしょ? とっとと行ってよ、なんて思ってしまう。自分でも、自虐的でどうしようもない考えだと思う。本当は割り切って行動しなきゃとも思うけど、どうしても勇気が出てこない。はぁ、こんな調子じゃぁ今日も仕事は見つからないし、野宿確定、かな。


「ほら」


「え?」


 うつむく私の目の前に、突然海苔で包まれたおにぎりが差し出される。その驚きで、今まで私を支配していたマイナスの思考が一気に吹き飛ばされた。香ばしい磯の香りが鼻腔をくすぐり、私は思わず唾を飲む。

 だけど、一体なんでまたそんなことをしてくれるんだ? 自分でいうのもなんだけど、危険な吸血鬼を相手に、どんな物好きだ。

 再びそのような自虐に走った考えを抱いてしまうのは、自分でもよくないことだと分かってる。ただ、その疑問をきっかけに、ようやく立ち止まった人に興味を抱いた私は、顔を上げてその人のなりと姿を確認する。正直、お腹も減っているけど、今の私は食欲よりも目の前の人間に対して湧き上がった好奇心の方が上回っている。


「ふーん」


 そこにいたのは、二十代前半って感じの男性だった。背は180㎝近くありそうだ。顔つきは、男らしいっていうのかな? 多分世間的にはかっこいいって部類に入るんじゃないだろうか。髪は短髪で、私と同じ天然の少し薄い金色。それを後ろや横は短く刈り上げ、残りは上に立てている。くっきりした顔立ちに、ブルーの瞳。少なくとも日系人ではない。私と同じくヨーロッパとか、そっちの方から来た人間か? この幻想郷で日系人以外は、人間としては珍しい、らしい。紅魔館の外の事は何も知らないから、私にはあまり分からないけど。でも、そういえばこの人里で異国の人を見るのは初めてだ。


「なにをじっと見てるんだ? 腹が減ってるんだろ? 心配しなくても、毒は入ってないぞ」


 彼の言葉を聞いて、私の意識は改めて差し出されているおにぎりの方に向く。うぅ、確かに正直その手ごとかぶりつきたい位ぺこぺこだよ。ただ、人間なのに、なんでまた私なんかに恵んでくれるんだ?


「あなた、私が怖くないの?」


「怖い、どうして?」


「どうしてって、見て分からないの?」


 彼は何が? と首を傾げる。どうやら本当に怖くないらしい。何がって、そんなの決まってるでしょ。あんたは人間で、私は吸血鬼で―― あぁ、つまりはそう言うことか。この人間は私が吸血鬼、というより、そもそも妖怪だということにすら気付いていないに違いない。だから私を怖がらない。ただ、それだけだ。少し期待しちゃった私が馬鹿みたい。


「ほら、これで分かるでしょ?」

 

 私は翼をパタパタと振って見せる。これでもう気が付いたでしょ? あんたがいつかの狼男より頭が良けりゃ。


「そ、それは羽? 君は一体…」


 はい、おしまい。大当たり。彼は目を仰天させ、信じられないものを見ているかのように驚いている。ばいばい、知らないお兄さん。私に普通に話し掛けてくれたこと、少しだけ嬉しかったよ。


「君はもしかして、人間じゃないのか?」


「見りゃ分かるでしょ。あなたは羽が生えた人間を見たことあるの?」


「信じられない。って事は、君は魔物(デモン)かなにか?」


魔物(デモン)か」


 その言い方に、私は思わずくすりと笑う。別にこの人を馬鹿にした訳ではない。その呼び方に懐かしさを感じて、なんだか急におかしくなってしまったからだ。

 魔物(デモン)、ね。懐かしいな。そういえばこの幻想郷で暮らし始めてからは私の中でも妖怪って名前が定着していたけど、昔はそんな風にも呼ばれてたっけ。他にも、オーガとか、ヴァンパイアとか。


「まぁ、そうだね。ここに来る前はそう呼ばれることもあったけど――ってか、あなた私を知らないの?」


「え? あぁ、知らない。なんだ、君は有名なのか?」


「私の名前はフランドール・スカーレット。あのレミリア・スカーレットの妹って言えば伝わるかしら」


 これでもう分かっただろう。仮に、例え私の名前は知らなくても、お姉様の名前位は知ってるだろう。その名を出せば、私がいかに危険な存在か理解してくれるに違いない。そう思ったから私は自己紹介をしたんだけど、彼は、やっぱり知らない、と言って首を横に振って見せる。私の思惑は大外れ。それだけならまだいんだけど――


「しかし、本当に魔物は実在したのか! 噂では聞いてたし、いるって信じてたけど、まさか実物をこの目で見ることが出来るなんて、驚きだ!」


 な、なんだこいつ。おかしいぞ。なにをそんな好奇心に溢れた目で見てくんだ。


「え、えぇ。そりゃぁ、ねぇ。この幻想郷にはたくさんいるよ。もちろん私も魔物、ってか、ここでは妖怪って呼び方が普通なんだけど、妖怪だし」


 幻想郷に住んでるのに妖怪を見たことがない? 私を知らないどころか、妖怪が存在する事すら知らないの? んな訳あるか。

 ってか、やっぱり変だ。絶対変だ。変だぞこいつ。そりゃあたまたま私を知らない人間がいてもおかしくないよ? でも、妖怪の存在位知ってるだろう。だけど、それより、そんなことよりも――


「そうなのか! 君以外にもたくさん!? そりゃぁ是非とも見てみたいもんだ!」


 だから、一体何がそんな面白いんだっての。妖怪なんてここだったら何処にだっているじゃない。とか言っときながら、実は私も紅魔館の中以外そんなに知らないけれど。

 いや、だからっ! そんな事じゃなくってね!?


「あっ、そういえば、おにぎりは――」


「いや、そんなのいいから、それよりね!?」


 い、いや、よくはないけどね? あぁ、美味しそう。具材はなんだろ。サーモン? アプリコット? or... シオムスビ? でもでも今はそれは置いといて!


「そんな事より、もっと他になんかあるでしょうがっ!」


「な、なんだよ急に大声出して。 あぁ、ごめんごめん。自己紹介してもらったのに、僕がまだだったね。僕の名前はアドルフ・ヴァイク・エリクソン。長いからアドルフって呼んでくれ。よろしくな」


「えぇい、そんなことはどうだっていい!」


「じ、じゃぁ一体なんだってんだ!」


 なんだじゃないでしょなんだじゃ! もう、あんたの方がなんなんだ! 一体なんだ! この調子の狂う人間は! い、いかん。興奮し過ぎて息が荒くなってきた。取り合えず呼吸を整えて――


「あんたぁ、私を見てなんも思わないの!?」


 彼は首を傾げ、はて、と顎の下に手を当てて考える。そして――


「なんもって、そりゃぁ感動してるけど。あぁ! もしかして可愛いとか言ってほしいのか?」


「ちっがぁ〜うっ!!」


 分かったぞとばかりに手を叩き、てんで的外れな事をのたまいやがるこのアホ男。あまりの見当違いの返答に私は思わず頭をくしゃくしゃと掻き毟る。せっかく気持ち落ち着けたのに台無しだ。きっと私の血圧は急上昇しているに違いない。その反応を見て、一体どうしたと聞いて来るこの男。どーしたじゃないだろ。あーもう分かれよ! っていうか一番最初に聞いたでしょうが!


「だから、私が怖くないのかっつーのよ!」


 だから、なんで普通ーに妖怪の私と会話をしてやがんのよこの人間は!? そりゃぁ安全ってお墨付きがあるのならともかくとして、周りに慧音だとか強い味方がいるなら別にして、今会ったばかりの妖怪よ!? ってか、なんで、私も普通ーに会話をしてんだよ!!


「怖がるって、だからどうして?」


「だから、私は妖怪で、あんたは人間でっ――!!」


「おい、フランドール」


「な、なによ!」


「見られてる見られてる」


「あぁ!?」


 一体誰にだ! 知らないしどうでもいいよそんなこと!

 そう思いながらも一応周囲を見渡してみると――


「おい、例の吸血鬼がなんか叫んでるっぺ」


「やっぱ凶暴だな。気が触れてるって噂は間違いねぇな。おっかねぇ」


「あの青年にからんでんじゃねぇか? 危ねぞ」


「襲われたら大変だ。霊夢さんに報告しとくか?」


「いや、それじゃぁ遅え。慧音先生が近くにいるべ。探してこよう」


 誰にどころじゃない。私たちの周りにはいつの間にやら人だかりができていて、皆よってたかってある事ない事好き放題に言っている。挙句、私がこいつを襲っていると勘違いして、巫女とか慧音を呼んで懲らしめてもらおうだとかなんだとか。


「う…」


「う?」


「うぅ…」


「どうしたんだ。フランドール」


「うわぁ〜ん!!」


「あ、待てって!」


 この場の空気にいたたまれなくなった私は、人混みを駆け抜け逃げ出した。何やら後ろからあの男の叫び声が耳に入って来たけど、それどこじゃないと私は無視する。これで慧音にまで変な誤解をされてしまったらどうしよう。神様仏様、いるなら答えて。私、何かした? 単に吸血鬼ってだけなのに、どうしてこんなに追い詰めるのよー!?!?



「はぁ、もういっか」


 私は人の姿が見えなくなるまで走り続けて、ようやく足を止める。なんだかんだで結構走って、畑や田んぼ位しかない辺鄙(へんぴ)な所まで来てしまった。でもまぁ、ここなら気楽に休める、かな。

 そう思った私は誰もいない道端の端に腰を下ろす。自然の草花が作り出すふかふかベットが気持ち良くって、私は大の字に寝転んだ。


「ちきしょー。この世に神も仏もいるもんかい」


 まぁこの幻想郷には色々な神様が実際にいるみたいだけどさ。でも、どーせその人達も私を助けてはくれないんでしょうよ。人間達は変な誤解ばっかして話を聞いてくれないし、あげく、さっきのあれだ。あぁ、もういい! 暫く考えるのは止めだ止め!

 眩しい太陽を腕で隠して、目をつぶる。暫く頭を空っぽにしてぼーっとしていると、空腹を思い出したかのように私の腹の虫が鳴く。


「うぅ、お腹減ったなー」


 今更ながら、あの青年からおにぎり貰っておけば良かったという後悔の念が浮かんでくる。でも、相変わらず立ち上がる気力もないし、このまま寝ちゃおうかな。そんな事を考えていると――


「やっと追い付いた!」


 荒い息づかいと共に、何やら聞き覚えのある声がしたので、私は不思議に思い体を起こした。そんな私に向かって突如丸い物体が投げ付けられたので、とっさに私はキャッチする。それは――


「…おにぎり」


 と、あの青年。彼は呼吸をはぁはぁと乱しながら、膝に手を着き休んでいる。追い掛けてきたのか。そんなに息を切らせながら、わざわざこんな所まで? なんでまた。まさか空腹のあまり夢を見てしまってるんじゃあるまいな。

そう思ってほっぺたをつねってみるが――


「いひゃい」


 当然の事ながら、目は覚めたりしない訳で、鈍い痛みに襲われる。


「なにやってんだ。変わった奴だな。それより、お前やっぱり腹減ってんじゃないか。良いから食えって」


 私は暫く警戒し、匂いを嗅いだりしてみる。うん、良い匂い。


「おいおい。さっきも言ったが、毒なんて入れないよ。賞味期限も大丈夫だ」


 なんなんだ。なんでこいつは、こんなにも私に関わって来るんだ。本当に変な人間だ。はぁ、でも、なんかお腹減ったし、もぅどうでもいいや。頂きます。

 一口食べると、ほんのり塩っけがしたと思ったら、後にピリッと辛いのが。私が口を付けた中からは、赤いプチプチが現れる。わぁ、明太子おにぎりだー

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