フランドールのひょんな一日と、一人暮らしの始まり
幻想郷。
そう呼ばれる場所が、日本という国の辺境の山奥に存在する。
それは、人の世から隔離され、人の世から忘れ去られたモノ達、即ち、神さまやら妖怪やら悪魔やらといった、人々が人外と呼ぶ者たちの集う場所。人々がそういったわたし達魑魅魍魎の類の存在を普通に身近なものと認識し、時に恐れ、時に敬いながら、共に生き、共に生活している、私たち人外の最後の楽園。
いや、最後と言ったのは、あくまで私の知る限りということで、実際は他にもそんな場所があるかもだけど。
ここが結界で外から情報が隔離され、私達人外が住みやすくされているように、国内外問わず、そんな場所が他にあってもおかしくはない。他ならない私だって、私達紅魔館だって、元々は国外から来たのだから。
まぁそんな、私が暮らしている場所の事情や都合、私がここに来た経緯なんか今はどうでもいいのだ。さぁ、フランドール・スカーレット。今日も仕事だ。いい加減無駄な思考で時間を浪費するのはやめ、目を覚まそう。身体を起こし、ベットから出て、物語を始めよう。
布団をどけて起き上がり、窓を開け、体を覗かせ外の景色を眺めてみる。風が涼しく頬を撫で、眠気を散らす。いくばか前より少し気温が上がったようだ。
窓の外から聞こえてくるのは、とっても早起きな可愛らしい小鳥達が、元気いっぱいさえずる鳴き声。
寒かった毎日も終わりを迎え、家の周りも緑で色付き、新しい命の到来を知らせてくれる。
ここは人里。
幻想郷内で暮らす、人々の集落。
ひっそりとその端っこに、だけど見た目だけは大胆に、真っ赤な屋根で西洋風の、ちょっぴりおしゃれな一軒家が建っている。
そこが私、吸血鬼フランドール・スカーレットの住まう家。
以前は紅魔館っていう広くて馬鹿でかい洋館に家族達と住んでいたけど、色々あって引っ越した。
齢は500歳を過ぎ、肉体年齢13〜4歳に成長した現在になり、ようやく憧れだった輝かしい一人暮らしを絶賛エンジョイ中。
時刻は現在午前四時。
朝。
でも、外はまだ暗い。
いわゆる暁、薄暗い朝。
でも、私の朝はもう始まる。
まだ眠たいけど、外は暗くても私の心は晴れ晴れしてる。
きっとお空もすぐに晴れ晴れしてくれるはず。
パジャマを脱いで、いざ戦闘服へ。
白いシャツに着替え、膝丈までの赤いスカートを履く。その上に清潔感ある白いスーツを着て、最後に薄手の赤いロングコートを羽織る。以前私が愛用しいたドレスのような一張羅の雰囲気を残しつつ、外の世界のファッションを参考にして新しく仕立て直した特注品。
鏡を見て身なりの確認。寝癖なし。幻想郷製のカシミヤ山羊の毛皮で作ったコートとスカートにもシワはない。続いて口角を上げ、笑顔の練習。
今日も普段と変わりのない事を確認し終えて頷くと、勇み足でリビングへ。
いざっ!
「フォー オブ ア カインドっ!!」
入るなり、魔法を唱える。
赤い光の粒子が無数の小さなコウモリの影となり、それらが集まり人型を形成していく。
そこから現れる少女が三人。皆が同じ、清潔感ある白いスーツの上、赤いコートを羽織っている。それは、私と瓜二つの外見をした少女達。
全員ふわふわしたミディアムショートのブロンドヘアーで、頭の左側からは、周りと比べあえて丈を長くした、特徴的で真似のしにくいサイドテールが肩口までぴょこっと飛び出ている。瞳はよくルビーに例えられる程の赤。背中から生えた宝石翼も、私を現す大きな特徴。吸血鬼の代名詞であるコウモリのそれとはかけ離れた、細い木の枝を思わせる黒い羽。そこから、菱形状に鋭く尖った色とりどりの宝石が、たわわに実った果実がぶら下がるかのように纏わり付き、窓から差し込む光を受けて輝いている。こんな翼の持ち主は私以外にほとんどいないだろう。
他、目や耳、鼻などの細かなパーツや、表情、仕草まで含め、どこからどう見ても私そのもの。
私と彼女らを見た目で判別するのは不可能だろう。
分身魔法、私の十八番だ。
分身はいくらでも出来るのだが、私の中で、高いクオリティで運用出来る最大数が三体なので、だいたい三体召喚で運用するたことが多い。そのため、私と同様の見た目の少女が四人動き回る感じになる。
なので、同じ役を四枚揃えるポーカーのフォーカードから、私はこの分身三体召喚の運用をフォー オブ ア カインドと命名した。
現在、リビング件自宅オフィスであるフローリングの上、計四人の私がここにいる。
基本的に最近の私の朝は分身を生み出すことから始まる。
じゃないと回らないんだもん、お仕事が。
あ、フランCがこっくりこっくり。
よだれもたらしてだらしない。
まったく仕方が無い私だな。
まぁいい、大きな声を出せば目が覚めるだろう。
それでは、今日も元気に朝礼から始めよう。
咳払いを一つ、元気よくパンパンと手を叩く。
「はいはい、それでは今日も朝礼から始めるよー! おはようございます!」
「「「おはようございますっ!!」」」
「フランC、声が小さいっ! もう一回! おはようございます!」
「「「おはようございますっ!!」」」
「そうだ、仕事の基本は元気な挨拶、忘れるな!」
「「「はいっ!!」」」
「よーし。では続いて、こんにちは!」
「「「こんにちはっ!!」」」
「こんばんは!」
「「「こんばんはっ!!」」」
「ありがとうございます!」
「「「ありがとうございますっ!!」」」
「おぉっけい! じゃあ今日のタイムワークを発表する! 皆手帳の準備はいいね!? よーし、では先ずフランA!」
「はい!」
「えー、フランAは、5:00~7:30まで田子さんのとこで農家の手伝い。8:00~10:30まで店のチラシ配りで、11:00~14:00まで佐藤さん宅のお引っ越しのお手伝い。15:00~18:00は山田さん宅から篠田さん宅まで家の掃除で、18:30~22:30までミスチーの屋台のお手伝い。おっけ?」
「了解です!」
「続いてフランBはと、5:00~6:00まで『文々。新聞』の配達。6:15~7:30は博麗神社の境内掃除。8:00~13:00は香霖堂の手伝い。それから、と…」
ぎゅうぎゅうに詰められた本日一日のタイムスケジュールを発表し終え、三人の私が家を出て行く。仕事に纏まりがないのはいつものことだ。そこに意を唱える私は一人もいない。
それを見送った、部下から心酔の眼差しを浴びる何でも屋、レッド・カインドの店長兼(部下は三人の私のみだが)、癖のある面々を的確に管理する優秀マネージャー兼(部下は三人の私のみだし、つまり自分に癖があると言っていることになるのだが)、最も秀でていると定評のある最高のシフトリーダーでもある私(そもそも全員同時刻勤務だからシフトリーダーも自分一人だし、部下は三人の…以下略)はふぅとため息を一つ付いてアンニュイかつ大人な雰囲気を醸し出しつつ、椅子に腰掛け届いた依頼を確認していく。
来週のシフトも作らなければ。
緊急性のある依頼はっと、ぱっと見たとこなさそうだね。
じゃあ、来週のシフトもだいたい固定でいいかな。
最近使い始めたPCを立ち上げ、Excelのシフト表と書かれたファイルを開き、本日を含めた今週のタイムスケジュールをまとめたページに移動する。
余談だが、この幻想郷では、こういった外の世界の最先端器具を使うものは少ない。幻想郷の文明レベルの大半は外の世界の明治時代付近で止まっている。とはいえ、時々こういった最先端器具とかが外から“流れて”くるのだし、この世界には天才的頭脳、技術の持ち主が数多くいるのだから、もう少し技術革新を起こした方が便利で皆幸せになるのではと私は思う。あくまで私の意見だ。皆このパソコンの便利さとか、アニメの楽しさとかを理解してくれないからってひがんではない。別に寂しくなんかないんだからね。ただ、逆に私が変わり者扱いされる始末は解せない。まったくもって失礼してしまう。吸血鬼なのにそんなのにはまってーとかたまにディスられるが、まったくもって分かっていない。特にアニメは素晴らしい。種族の壁を超え、皆で共有出来る素晴らしい文化だと思うのだ! 定番の友情・努力・勝利!みたいなものから、ハラハラ、ドキドキ、感動! みたいに、それぞれテーマがあったりして、時に色々考えさせられたりする。心にガツンっ! ってくるものと巡り合った時は、本当に感激ものだ! 特に私の今のお気に入りの作品の素晴らしさといったら――っ!
…コ、コホンコホン。話が逸れた。
まぁ、今は関係ない。
さぁ、気を取り直してと、届いた依頼とタイムスケジュールの照らし合わせだ。
一つの依頼の見込み達成時刻を早めたり、移動時間を短縮したりと、新しい依頼の時間を踏まえ、若干の修正を加えていく。
えーっと、まぁこんな感じでギリギリ回るね。
じゃあ私もお仕事にっと--
「おっはー。相変わらず忙しそうね」
「うわぁーびっくり! って、もうそんな簡単に驚いてあげないかんね。そう思うなら手伝ってよ」
外出の準備をして、さぁ私も出掛けようとPCを閉じて立ち上がろうとした時だ。
突然私の目の前の空間に紫色の亀裂が入り、中からにゅっと胡散臭いパツ金女が上半身を覗かせた。
まぁ私もおんなじ金髪だけど。
ふわふわのブロンドヘアーという点では同じだが、割と短めな私に対し、彼女は腰まで伸びる大人びたロングヘアー。
背も私と比べてだいぶ高いし、大人の色香を感じるというか、スタイルもよく、人形のように整った顔で、艶めかしい。それが子供のように無邪気な笑顔を浮かべているのが、また胡散臭い。
彼女の名前は八雲紫。
彼女も私と同じく、人間ではない。
まぁ当然か。
こんな登場をする人間がいるものか。
この幻想郷の管理者の一人であり、創造者の一人でもあり、びっくりする位巨大な力を持ってる“隙間妖怪”だ。
この紫色の隙間という空間を使って一瞬でどこでも行けるので、彼女がこうやって扉も使わず私の家に上がり込むのは日常茶飯事。
人の家に勝手に上がりこむマナーのない妖怪だが、一応私の友人でもある。
その登場の仕方とプライバシーを無視した行動に、私も最初こそは思う所があったけど、最近はなんだか慣れっこになってる自分がいる。
「ごめんなさいね。私の仕事は知ってるでしょ? 今日も今日とて大忙しなのよ」
ここの管理人というのだから本来多忙で然るべきなのだが。
「嘘付け。いっつもうちの門番よりも寝てるぐうたら妖怪のくせに」
その管理はだいたい彼女の式神が代わりに行なっている。そして、紫はだいたい惰眠を貪っている。紅魔館でも言えるのだが、従者ポジションの人は大抵皆苦労するようだ。
「あら、酷いわね。この店の開店時には色々手伝ってあげたのに」
「うっ、それを言われると。って、いい加減そのネタで恩を着せるのやめてよね。ってか、私これから仕事で外出だから急いでるんだけど」
「まぁまぁ、たまには少し位いいじゃない。貴方の仕事が軌道に乗ってからは全然一緒に話す機会が取れないのだし。なんなら後で隙間で送ってあげるわ」
「それは、ごめん。うん、それじゃあお言葉に甘えさせてもらおうかな。ちょっとだけだよ」
それを言われちゃったら申し訳なくって言葉も出ない。
仕方が無いから私は友人をもてなすため紅茶とお菓子の準備をしようと考える。
確かに、ここ最近仕事以外で知人と話す機会は滅多にない。
時折お姉さまが仕事中に来てくれるけど、だいたいは分身体での対応になっちゃうし。
紫も、普段はもっぱら寝てるのに、今日は私に合わせてこんなに朝早くから会いに来てくれたんだろうな。
心なしか眠そうに見えるし、ってかパジャマ姿だし。
まぁ、少し位ならいいだろう。
「だいたい貴方は働き過ぎよ。三人もの分身体を一度に長時間、しかもバラバラに操作するなんて尋常じゃないわ。従業員とか雇えばいいじゃない」
「あー、そうだねぇ。何処でも一瞬で行けて何でも運んでくれる便利屋さんが今凄い欲しいところだけど」
「えー、そんな便利な妖怪なんているかしら」
「いるよ、目の前に」
「え、どこどこ?」
「はぁ、もういいよ。でも、従業員は、そうだね。少し考えておこうかな」
「そうしなさい。大切な友人に体でも崩されてはたまらないから。さぁ、送ってあげるわ。場所は?」
「え? あ、うん」
紫は早くも私の前に別の隙間を展開する。毒々しくも艶やかな紫色の亀裂が開き、中から複数の目玉がこちらを覗いてくる。最初は不気味に思いこの中に飛び込むのは躊躇われたけど、それももう慣れている。
どこでもドアみたいなこれを使わせてくれるのは時間短縮ができ有り難い。でも、こっちはせっかくだからもう少し一緒に話していくつもりになっていたのに。
今日はアドバイスのためだけに来てくれたのかな。
無理はするな。
少しは休め。
んでもってたまには遊べ。
そんな所か。
紫が本気で私を心配してくれてること、私を思ってくれていることは分かってる。
本当に、ありがた迷惑だよ。
凄い嬉しい、けどさ。
でも、それなら少し位仕事を手伝って欲しいと思ってしまうけど、これ以上は言うまい。これで十分。
紫には本当にお世話になりっぱなしだから。
初めて出会った時から、今までずっと。
たくさん迷惑も掛けてきた。
だけど、それでもたくさん助けてもらった。
私がその分彼女に何か返せているかは分からない。
けれど、私も彼女の為に出来る事があったら、何でもする。
そのつもりだ。
本当時々何を考えてるのかよく分からない時もある胡散臭い奴だけど、それでも、なんだかんだいって私の事を考えてくれる、優しくて、色々な意味でとびきり強い、本当の強さを持っている。彼女は、そんな尊敬出来る妖怪だ。
だから、そんな彼女と友達になれたのは凄い嬉しいし、これからもずっとずっと、大切な友達でありたいと思ってる。
「ありがとう、紫。そのうち時間取るから、一緒に飲もう」
「えぇ、その日を楽しみに待ってるわ。頑張ってね。私の小さな親友――」
私は、その嬉しい言葉に、笑顔で微笑み頷いた。
今、私はお店を経営している。
お店の名前は“レッド カインド”。
優しい、赤。
職種は、いわゆる何でも屋。
つまるところ、頼まれた依頼は可能な限り何でもするよと。
名前の通り、そのまんまだね。
そんな便利屋みたいな感じだから、こんなに忙しくなっちゃうんだよね。
まぁ、充実してるのは悪くない。
でも、確かに少しは羽を伸ばすことも必要なのかな。
紅魔館を出て働き始めた私だけど、最初から何でも屋をやろうと思ってた訳じゃない。
本当はマルチリストよりジェネラリストに憧れる私だけど、成り行きみたいな感じで、なんとなく始めて、続けちゃってる。
どうして何でも屋をやろうと思ったのか、少し昔を振り返ってみよう。
そうだ。思えば、一年とちょっと前、私が唐突に言った一言が、この仕事を始めるきっかけだった――
〜〜〜〜〜
〜約、一年と半年前〜
私は紅魔館という館でずっと暮らしてきた。紅魔館は、外観、内装共に真紅を基調としているとても大きな洋館だ。吸血鬼が住む館ということで、幻想郷の中での知名度は高い。というか、幻想郷の中でも屈指の危険地帯という悪評がある。立地としては幻想郷の中でも割と中心に近いと思う。紅魔館から見て南に広がる魔法の森という広大な森に隣接した、深い霧の立ち込めるこれまた広い湖に囲まれ、ポツンと寂しげに佇んでいる。
人々からは恐れられる紅魔館だが、もちろん私は大好きだ。実家のようなものだから、当たり前だ。紅魔館のシンボルでもある時計塔が真夜中に鳴らす鐘の音も、とても心地よく、心が落ち着く。
紅魔館に住んでいる人達は皆が家族のようなものだ。だが、血縁関係があるのは私とお姉様くらい。それぞれの関係性は複雑だが、一応簡単に説明しよう。
紅魔館の中心にいるのは、レミリア・スカーレット。私と同じスカーレットの血筋を引き継ぐ姉で、私と同じ吸血鬼、そして、館の主人だ。歳は五つ離れている。お姉様が505歳で、私は今年で丁度500歳になる。吸血鬼は長寿で、この500年という年月も別段大して長かったように感じはしないが、人間から見ると途方も無い時間なようだ。私とお姉さまは姉妹だけあり顔も似ているが、ブロンド色の髪を持つ私に対し、お姉様は水色がかった透き通るような銀髪をしている。羽は、私とは違いコウモリのそれだ。その辺りも含め、私と違い、私よりもより吸血鬼っぽい。
そのお姉様には魔女のパチュリー・ノーレッジという親友がいる。魔法使いとしては超一流だが、身体は細く、とてもか弱い。外見や身長は私達姉妹より少し上。彼女はもっぱら館の地下の図書館にこもっている。私との関係も同じような感じで、パチュリーは友達、大切な存在だ。向こうもそう思ってくれていたらとても嬉しい。ちなみに彼女も人間ではない。地毛が紫というのもそれっぽい。長い付き合いなのに私も詳しくは知らないが、魔法を使える人間、とかではなく、魔法使いという種族の人外、らしい。
紅魔館の家事から家計管理、その他諸々に至るまで、ほぼ全てにおいての業務を取り仕切っているのは十六夜 咲夜。雪のように艶やかな銀髪がとても綺麗だ。彼女は館のメイド長であると共に、紅魔館唯一の人間だ。人間でありながら反則気味な能力を持っており、その能力をふんだんに活用しつつ、この広い広い紅魔館をほぼ一人で回している。…本当に人間なのか? 一応、まだ、人間のはずである。出会った当初は私やお姉様よりちっちゃくてそれはそれは可愛いらしかったけど、20歳になった今、頼れる皆の姉ポジションだ。
門番を務めているのは紅 美鈴という赤毛の長髪を持つ妖怪。スタイルの良い長身の女性の外見で、種族は不明だ。教えてくれない。基本優しくおっとりしているので、お姉様含め、なにかと皆のいじられ役になったりする。そのせいで舐められがちだが、武闘派で、この曲者揃いの紅魔館の門番を務めるに足る実力の持ち主だ。影ではお姉様も一目置いている節が見え、色々謎深い。
紅魔館での主要なメンバーはこんな感じだ。こう見ると皆トレードマークのよう髪の色をしていらっしゃる。赤、青、黄、白、紫。戦隊ヒーローが作れそうだ。その場合は赤の美鈴が主役になるが、そうなるとお姉様が主役の座は私だと憤慨し怒り散らしそうだとか余計な思考は追い出そう。
この他にもパチュリーのお抱え従者のような立ち位置の小悪魔(名前はまだない)とか、あとは複数の妖精達がメイドとして働いている。
その日は珍しく、先に紹介した四人と私が揃ってリビングのテーブルを囲んで席に着き、ティータイムを楽しんでいた。幾人かが揃うことは割とあっても、五人が同じ場所に揃うことは多くない。
お姉様は基本やることがなく暇しているが、咲夜はいつも働き詰めだし、美鈴も四六時中門の前で門番している。パチュリーはしょうもない引きこもり。そして私はというと…あー、かくいう私も、引きこもりだ。パチュリーやお姉様のこと言う資格全くねぇ。むしろ一番の引きこもりで、私が一番の穀潰しのろくでなしでした。
もっぱら地下の一室が私の居場所で、そこからほとんど出て来ないのが私。皆そういう認識だ。
ともかくそんな面々なので、なにかなければ基本一同あまり集まらないのだ。誤解しないで欲しいのだが、仲が悪い訳ではない。むしろ良いと思う。なにかあれば皆の為にという思いのような、恥ずかしい言葉を使うなら、絆のような、そういったものは確かにある。断言できる。だからこれは、なんというか、それぞれのペースというか、スタンスなのだ。
とはいえ、やっぱりお姉様はそれを気にしていたのかもしれない。困った奴らだと。だからかどうかは知らないが、月一くらいの頻度でお姉様は皆を強制招集したりする。いや、だいたい思いつきで色々やって、そして色々やらかす人なので、この日も気にしてとかは考え過ぎかもしれない。どうなのだろう。
ともかくこの日もそんな感じで、お姉様が全員集め、お茶会が開かれていた。
それぞれの前に、咲夜の作った紅茶とショートケーキが置かれている。そのケーキに最も舌鼓をしているのはお姉様だ。満面の笑みで、本当に美味しそうにケーキを頬張る。幸せの全てがここにあると言わんばかりだ。この人は、最近特にだが、往々にしてとてもまぁ子供っぽい。まぁ外見年齢も私同様なので違和感はないのだが。いや、やっぱり外見年齢を踏まえても幼い仕草だ。当主として持つべき雰囲気、カリスマを、頻繁に、そして現在進行形でどこかへかなぐり捨てている。微笑ましくていいのだが。
そんな、いつも通りの平和でなんてことのない団欒の時間。暖かな空気。お姉様も楽しそうだ。普段より話を弾ませている。そんな中でこの話を切り出すのは、この空気を壊すようで申し訳ないし、とても緊張する。けれど、私は今しかないと意を決して切り出した。
「私、紅魔館を出て働く」
「え!?」
昼間の紅魔館でもたらされた唐突な私の一言に、お姉様は驚きのあまりフォークを落とし、目を見開いてこちらを見てきた。
よっぽど衝撃だったのか、今食べかけの咲夜特性ショートケーキの真っ白クリームがほっぺについていることさえ気付いていない。
その反応は他の皆も同様だった。
咲夜も、美鈴も、パチュリーさえも、皆が皆驚いて目をパチクリさせていた。
それもそうだ。
ちょっと前まで地下室引きこもり生活の私だったんだ。
今だってそんな変わらない。
ちょっとマシになっただけ。
筋金入りの閉じこもり。
紅魔館の皆で幻想郷に来て、お姉様が幻想郷で何度か暴れて“異変”を起こし、紅魔館が注目を浴びることになった。その辺りからは私もようやく館内をうろちょろする程度には成長したけれど、自分から館の外に出たいなんてその後もたまにしか思わなかったし。
それが突然、一体どういう風向きの変化だと思うだろう。
でもね、私、ようやく思い始めたんだよ。
私と同じく紅魔館以外ではあんま知り合いいなかったお姉様が、なんやかんやで二回目の異変起こした後に赤白の巫女だのトンガリ帽子の黒い魔法使いだの他の妖怪だのと仲良くしてるって話を聞いて。飲み会とかしてるって聞いて。他の皆も、なんだかんだこの幻想郷で、ここに住む人たちと上手くやってるって聞いて。あれ、私、このままではあかんくない!? って。
「私、このままじゃ駄目になると思うんだ。だって、何もしないでも身の回りの事は誰かがやってくれるし。それに甘える私もどうかと思うけど、一度一人になって生きてく厳しさを実感した方がいいと思うんだ」
そうでもしなければ、きっと私は変わらない。それだけじゃない。お姉様や他の皆が語る紅魔館の外の世界をもっと見て知って、一人暮らしして自立して、ちゃんと自分の力で働いて生きていく、それら全てに興味があるのだ。
更に言えば、私もお姉様みたいにマブダチ欲しい!
いや、まぁマブとまではいかないでもいいよ。
バレンタインになったら、まっ、チョコ余っちゃったし、ギリ程度にあいつにも配っとくかー。程度のもんでもいいから、取りあえず館の外でも知り合いほしい!
「ちょ、そうは言うけどフラン! 今まで引きこもってたあなたがいきなり一人暮らしなんて出来るはずないでしょ!? 私は断じてそんなこと許さないわよ!」
お姉様は興奮した面持ちで椅子から立つと怒鳴り散らす。その横で咲夜が続く。
「そうですよ! お嬢様の言う通りです! 一人では満足にお着替えも出来ない妹様が一人で生きていけるはずありません!」
「できるよ!? それくらい!」
侵害すぎる一言に私は憤慨する。
咲夜の中で私はどんな風に写っているんだ!?
「それに、何もしてないのはフラン様だけじゃなくて他の皆も同じようなものだし、気にする必要なんてありません!」
「「「ぐっ」」」
咲夜の続け様に繰り出した二撃目は、どうやら全員のハートにクリティカルヒットしたらしい。
それから、お姉様と美鈴は口々に咲夜に反対した。
やれ私は紅魔館の主としての取り仕切りで忙しいとか、私は毎日かかさず門番してるとか。
それに対し、日頃のストレスが溜まっていたのか咲夜も反論する。
最近のレミリアお嬢様の腑抜けぶりは目にあまるとか、美鈴は門番よりも昼寝や妖精と遊んでる時間の方が長いでしょとか。
この館で最も働き者の咲夜は、皆に思うところがあるようだ。
わーわーぎゃーぎゃー騒がしくなったダイニングルーム。
先程までの和やかだった雰囲気が一変、罵詈雑言が飛び交う。
私のせいか?
そんな不毛な言い争いを続ける三人を尻目に、パチュリーは冷静に私と向き合う。
「レミィの言う通りよ。別に貴方がやりたい事に反対したい訳ではないけれど、どうやって生活していくの? どうやって働いていくつもりなの? 住む場所だってないんでしょ?」
「そ、それは」
「言っておくけど、ちゃんとした計画があるならまだしも、考えなしの発言だったら私も反対よ。力があるとは言っても貴方は吸血鬼。日光、流水、弱点も多い。長い地下生活で知識も乏しい貴方が外の世界で生きてくのは、あまりに危険過ぎる」
「う、うぅ」
全くの正論に、反論の余地もない。それでも助け舟を求めて、美鈴を見上げる。
「美鈴は? やっぱり反対?」
「え? あーいやー、確かに妹様のお気持ちも分かりますが、パチュリー様の言う事もごもっともなので。それに、お嬢様の気持ちも、どうか察してあげて下さい」
「うぅ、はい」
その日は私もそれ以上言わずに、それで終わった。
確かに、パチュリーの言う通り思い付きに任せた発言だった気がするし、その言葉は全てが正論だと思ったからだ。
でも、思い付きとはいえ、湧き上がった外に出たい気持ちを言葉にしてしまったら、もう私の心は止まらなかった。
きちんとした計画さえ立てて、その上でちゃんとプレゼンすれば、きっとパチュリーも、それにお姉様だって認めてくれるはず。
それから私は準備した。
目標脱ニート&社会にとっての生産者! そして目指すは自由気ままなsingle life!的な未来を夢に見て、本当に色々努力した。
パチュリーの図書館まで毎日欠かさず足を運び、魔法の特訓に時間を費やす。それにより弱点を克服する為の坑日光、流水の魔法を身に付け、昼間でも働ける身体を作った。
その他にも、必要と感じた書物を片端から制覇し、一人で生きていく為に必要そうな知識を集めるだけ集めた。
更に、咲夜のお手伝いを通して料理や掃除、洗濯を覚えた。なんとかお買い物にも同行する許可をもらい、必ず咲夜と一緒という条件だけど、外出もした。その他にも、一人で生活出来るよう家庭力をアップさせた。
段々と、妖精メイド達とかの、私を見る目が変わってきたように感じる。
自分でも生まれ変わった気分だ。
これまでの私といったら――
特技? モノ壊す事には定評が。
趣味? やな事あったら現実逃避で寝りに付く事かな。
――的な、典型的な役立たの寄生虫でしかなかった私だけれど、努力を重ね、祝、ニートから主婦見習いへとクラスチェンジ!
家庭内で役割があるってこんなに素晴らしいことなのね!
身の回りのことはなるべく自分でこなし、咲夜の手伝いもほぼ日課となった。誰にも迷惑はかけてないし、微力かもだけど、皆に貢献だってしている。
なので、最初に皆の前で言ってたことは概ね達成。
だけど、まだ、めでたしめでたしといくわけにはいかない。
紅魔館を出て、自分の力で生活を送ることにこそ意味がある。
私ゃ多少無理矢理でも家族から自立したいんじゃ!
やりたい仕事や住む場所は決まってないが、そもそもそれは外に出てみなければ決められないのではないだろうか。
そして、私の最初の発言から三ヶ月が過ぎたころ。
「今度こそ、私紅魔館を出て働く」
二度目の発言に、咲夜と美鈴は相変わらず驚いていた。
少しずつでも自立し始めた今、私が家を出ようとする理由もなくなったと思っていたのだろう。
しかし、お姉様とパチュリーは、まるでこうなる事が分かっていたかのように冷静だった。
パチュリーが知っているのは当然だ。
この日の為に、パチュリーには図書館で散々お世話になったから。
抗日光、流水の魔法を覚えたのは独り立ちする為で、パチュリーも色々と魔法の習得に協力をしてくれた。
ただ、これはお姉様には内緒で進めていたんだけど、お姉様の態度から察するに、多分パチュリーがそれとなく私の動向を知らせてたのだ。
「妹様! 妹様には既にたくさんのお手伝いをして頂いております! もう、甘えてるなんて思う必要はありません!」
咲夜が叫ぶ。
その声、表情は思い直してと私に訴えかけている。
「えっと、だけど…」
そうだ。皆にはそういう事にしているんだ。
甘えているのが、申し訳なく、不甲斐ないと。
確かに、それもある。
けど、それだけじゃない。
だけど、このままでは皆納得しないだろう。
じゃあどう説明すれば皆納得するだろう。
そんなことを思って頭を回転させていた時、お姉様が口を開いた。
「本当のところ、貴方はそんな理由で出て行きたい訳じゃないんでしょ?」
「え?」
「どうなの、フラン。正直に言いなさい」
責めるような目で睨まれ、思わず頷く。
「うん、まぁ」
「じゃあ、何故?」
「それは、私だって館の外の世界を自由に見て回りたいんだよ。それに、自分一人の力で生活してみたいの」
「だめよ。どうしても外に出たいなら、今まで通り咲夜と一緒が最低条件。それ以上は認められない。一人暮らしなんてもっての他よ。 勝手に紅魔館から出るなと散々言ってきたのを忘れたの?」
きっぱりと否定され、頭が真っ白になる。
地下室に引きこもってたのは、誰かに言われたからとかではなく、自分の意思だ。自分で勝手に、ずっと引きこもって生きてきた。
けれど、お姉様にもずっと、紅魔館から一人では出るなと言われ続けてきた。地下室からも出ようと思わなかった私からしたら、言われるまでもないことだった。聞き流してきた。
だけど、今は、無性に外に出てみたい。皆が持ち帰ってくる話を聞くうちに、紅魔館の外に、知らない世界に、未体験に憧れを抱いたのかもしれない。
お姉様だって、吸血鬼でありながら、館の外でも好き勝手出歩いている。
だから私だって、ちゃんと準備さえすれば認めてもらえるって思ってた。
なのに、お姉様は一人での外出さえ認めてくれないの?
私はそんな、信用されてなかったの?
やっぱり期待しない方が良かったのかな。
いや、まだ、分からない。
もっとちゃんと話せばきっと!
「ど、どうして一人で出たらいけないの?」
「決まっているでしょ。危険だからよ」
「危険って、誰が?」
「あなたも、それに、周りもよ」
「だ、大丈夫だよ! “能力”だって、たくさん練習して、今なら自由に使いこなせるし、日光でも大丈夫な魔法だって覚えたんだよ! それに、咲夜の手伝いもたくさんして、本もたくさん読んで、一人でも生きていける知識だってたくさん身に付けた! 私だって、自分の意思で自由に生きたっていいじゃない!」
「そういう問題ではないの。使いこなせるようになったところで、貴方の“破壊の力”が危険である事には変わりない。百歩譲って安全になったとして、それを人は理解出来ない。嫌われ、蔑まれ、傷付くのは貴方」
「そんなの、やってみなきゃ分からないじゃない!」
「フラン、あんまり聞き分けがないと、怒るわよ」
お姉様に睨まれる。吸血鬼らしい、鋭い目。いつもの剣呑さはまるで感じさせない、紅魔館を取り仕切る主の目。その目は、言う事を聞かなければ問答無用で分からせると訴えている。
久方ぶりの姉妹喧嘩も辞さないような、そんな怒気を孕んだ視線に私は怯え、咄嗟に他に助けを求めた。
「咲夜…」
「申し訳ありません、フランお嬢様。どうかお考え直し下さい」
「美鈴?」
「妹様。貴方がここ数ヶ月頑張ってきたことは分かってますが、今回はどうか」
「うぅ、パチュリー!」
「……」
私は最後の最後でパチュリーを頼る。
パチュリーは言った。
考えなしの行動は認められない。
でも、私だって、私なりにたくさん考え、たくさん努力し、準備した。
パチュリーなら知ってる。だから、認めてくれるはずだ。
だから、お願い、パチュリー!
私はそんな訴えるような、すがるような目でパチュリーを見る。だけど。
「諦めなさい、フランドール。貴方が今すぐに紅魔館を出ることは、賢い選択とは言えないわ」
カシャンと、私の中で何かが崩れ落ちたかのように身体が固まる。
私の味方は誰一人いない。
頑張ったのに、誰も認めてくれない。
皆して、私の自由の邪魔をする。
そんな心情を表現するかのように、私はがくりと項垂れる。
「さぁ、もう分かったでしょう、フラン。分かったなら大人しく――」
「…らい」
「え?」
「嫌い! お姉様なんて大っ嫌い! 美鈴も咲夜もパチュリーも、皆皆大っ嫌い!」
私は大声で叫んだ。
そして、感情の高ぶりに任せ、右手を握る。
いつの間にやら握られていた、青色の淡い光のような球体が、キュッと潰れ飛び散った。
“目”が破壊され、紅茶やケーキを乗せていたテーブルが粉々に吹き飛ぶ。
ありとあらゆるものを無条件に破壊する、吸血鬼としても逸脱している、私に宿った呪いの如き不可思議な力。お姉様でさえ危険とみなす、馬鹿げた力。お姉様が私の外出を許さない、その元凶の一つ。それを私は行使した。
やり過ぎたかな、と心配にもなる。
でも、ここまでやってしまったらもう後には引けなかった。
皆が慌てた隙を付き、私は即座に逃亡を図る。
勢い良く扉を開けて、そのまま廊下を駆け抜ける。
「咲夜! 捕まえなさい!」
後ろからお姉様の声がする。
確かに、咲夜の能力の前では普通、逃亡など不可能だ。
この子ってば、人間のくせして小さい頃から“時間操作”なんていう、私やお姉様でさえびっくり仰天能力を持ってるんだから。無限という訳にはいかずとも、停止した時の中を移動するのが彼女の十八番。
事実、私は呆気なく捕まり、いつに間にやら羽交い締めにされた状態でお姉様の前に連れていかれていた。
「さぁ、フラン。少しは気がすんだかしら。今私や皆に謝れば、許してあげないこともないわ」
「お姉様…」
お姉様の怒りに満ちた視線が痛い。
当然と言えば当然だ。
実の妹にあんな事を言われたんだから。
私は、観念したかのように頭を下げた。
「お姉様、ごめんなさい。皆も、大嫌いなんて言ってごめんなさい。咲夜も、せっかく作ってくれた紅茶やケーキをめちゃくちゃにしちゃって、ごめんなさい」
「フランお嬢様」
咲夜は瞳を潤ませながら、ゆっくり優しく私を下ろした。
本当に、私やお姉様には甘いんだから。
嫌に潔かったのが意外だったのか、お姉様は最初目をきょとんとさせていた。
でも、すぐに優しい微笑みに変わり、私を抱き締めてくれた。
「いいのよフラン。分かってくれたらそれでいいの。貴方にはいつも辛い思いをさせていること、私も理解しているわ」
吸血鬼の冷たい体温が肌にひんやりと伝わる。
だけど、それを通して伝わってくるお姉様の優しさが暖かい。
きっと、私の事を本当に心配してくれているんだろう。
確かに、紅魔館の外に出れないのはとても辛い。
でも、辛いのはきっとお姉様もおんなじで。
だけど、お姉様は私の事を思って、心を鬼にしているだけだ。
だから止める、それは分かる。
本当は私のことを一番愛してくれているお姉様。
それ位私にも分かるんだよ。
だから、ごめんなさい。
本当に、ふふふ。
ごめん、お姉様!
ヤッホーイ!
「ごめん、お姉様、そして皆! 実は全部フェイクだったのだ!」
私は指をパチンと鳴らす。
すると、お姉様に抱かれていた私は瞬きの間に赤い霧へと姿を変える。
お姉様は何が起こったか理解出来ず、目をパチクリ。
それもそのはず、皆の前にいた私はただの分身。
この日の為に習得した、抗日光、抗流水に続く私の魔法パートスリー!
本当の私は既に館の外にいるのだ!
ってか、皆がいるダイニングルームの窓の外、空に浮きながら皆の反応を見て楽しんでいる。
おっ、やっとこっちに気がついたみたい。
お姉様は慌てた顔でこっちを見てる。
「お姉様、本当にごめん。愛してるよー! それから皆、大っ嫌いなんて嘘だから、あれ、ノーカンねー! 大好きだー! それでは、達者で暮らしてくので心配せずに。たまには戻ってくるから、あんま寂しがらないでちょうだいね!」
「あっ、ちょ、待ちなさい! フラン!」
私はそれだけ告げると、お姉様の静止の言葉は完全無視し、手刀を切って全速力で飛び去った。
「待って下さい、お嬢様! 日光が!」
「う~、止めるな咲夜! ってか止めて! フランを止めて!」
「いや、あの距離では私は、もう」
「あちゃ~、妹様もやるな~」
「やられたわね、レミィ」
「う~、フラン! フラーン!!」
〜〜〜〜〜
――後からパチュリーに聞いた話だけど、皆の反応はこんな感じで三者三様だったみたい。
すぐに私を追いかけようとするお姉様。
それを止める咲夜。
呆れながらも感心している美鈴。
そして、実のところ全て最初から分かっていながら知らない振りをする私の有難い友人であり協力者、パチュリー。
パチュリーには抗日光の魔法を教わったり、皆が一箇所に集まるよう取り測ってもらったりと、大変ありがたい協力をして頂きました。
ちなみにその協力者であるパチュリーは、買収した。
いくらでも生えてくる私の翼の宝石一つで。
なんでも今後の魔術の研究に利用したいとかで。
そして、お姉様はヒステリックに叫んだり、咲夜に捜索命令出したり、うーうー泣いたり、それをなだめてもらったりでとても大変だったらしい。
主に咲夜が。
ごめんね、咲夜。
兎にも角にも、こうして私が今の生活を始めるその一歩、一人暮らしの生活が始まった。