捜査1
現場に到着し、車から降りる。
見鬼の目を開かずとも分かる鬼の残した気配―― 妖気、邪気、霊気。
「これは、また……」
反対側から真絢さんの呟く声。
鬼の念と、鬼に襲われた者の記憶と血の臭いを感じた。
俺は真絢さんと、ここまで車を運転をしてくれていた真絢さんの部下である諏訪部 和巳(26・独身男性・所内恋愛希望)さんを置いて敷地に踏み入る。
「あ! 待ちなさい。勝手に動かないで。まったく! 貴方は待機。外で何か不審なことがないか見張って。何かあれば直ぐに連絡」
「了解しました」
そんなやり取りを後ろに聞きながら、二階の窓から視線を感じ、見上げるも、視線を向けてきた主の姿はなかった。
――ふーん。
家のドアを開けると、やはり隠しきれない血の臭いで充満していた。玄関で靴にカバーを被せて上がる。
――血の匂いに誘われて鬼が集まらないように清掃したんだろうけれど……。
雑魚ならそれでも酔う為に集まってくる。
――表側の捜査する人間を黙らせるのも大変だ。しかし、まだ理性は残っていたか?
一階のリビングやキッチンなどは綺麗なままだ。しかし、二階に続く階段から玄関までの荒れ方が酷い。
――被害者が二階に居る事を知っていたか。
二階への階段を上がりきろうというとき、何かが壁を叩くようなドン!ダン! という音が続け様に鳴り、視線の先に黒い影が迫る。
迫る影を躱すのと同時に、その影を捕まえるべく手を伸ばす。
「ニ゛ャッ!!」
くぐもった声。
「俺たちを二階の窓から視ていたのはお前か」
「ギシャァァァ!!」
黒い猫又だ。
「被害者が飼っていた猫、か。主を護れずに目の前で殺されたか……」
この黒い猫は飼い主が殺されるところを一部始終視ていたのだ。黒猫自身も息が絶え絶えの中で。
「ア゛ァァァァァァ!!」
「化けてでも生きて、主の仇を討ちたいのか。忠義なことだね」
――しかし、渡辺の鬼斬りが見落とすとは、ね。それともこの猫が巧く隠れていたのか。
「成る程、死にかけにも関わらず、鬼を追ったのか。ご苦労なことだね」
黒い猫又が暴れる。
「仇討ちの邪魔はしない。だが、堕ちるなよ。この家に戻って来たからには、化けてでも戻るだけの理由もあったんだろう?」
猫又は一つ哭いて大人しくなった。