デートが終わって
デートの帰り道、喧騒に目を向ければ人集りが出来ていた。その人集りの先には一軒の家が在り、ドラマなどでよく見る光景があった。
人集りで先は奥は見えなくても、パトカーや警察官が在れば、何があったか大体想像がつく。
くいっと手を取られ、総司が足早に離れようとする。私は引っ張られる形で慌てて足を動かす。何時もは私の歩幅に合わせてくれるのにこの時ばかりは、そんな気遣いも感じられず、足早に私が総司の速度に合わせなければならなかった。
その総司の横顔をこっそりと覗けば、不機嫌さをかくそうとしなかった。
別に野次馬根性で見ていた訳でも、見にいきたいなんて不謹慎な考えをしていた訳ではなかったのに、総司にそう思われたら、そんな誤解をされたと思ってショックだった。
かなり、落ち込んだ。泣きそうだった。いや、ちょっと泣いた。涙が零れた私を見て、総司は慌てて足を止めて、私に理由を聞いてきた。
私は理由を総司に話した。誤解されたかと思ってショックだったと。
総司は謝ってくれて、私に対して不機嫌だった訳では無く、何故か“よくない”感じがした。あの場所に留まったらいけない気がした、だから慌てて離れたんだ、と教えてくれた。
――何故か総司の『よくない感』って百発百中なのよね。
何度もその“感”で助けられた。
――だけど今日のような不機嫌さを出した感じはなかったのよね。
今までは気まぐれで言っている感じだった。それを信じて行動した私は虐めっ子の待ち伏せを回避したり、罠を回避したり出来た。
――不機嫌じゃなくて、危機感だったら?
もし、そうなら“感”などという曖昧なものじゃなくて、確信だとしたら?
――そんなマンガやラノベの陰陽師とかじゃあるまいし、現実にそんな百発百中の能力者なんていないでしょ。
テレビで一時流行った霊能力捜査だって、行方不明者や犯人を見付けたり、潜伏場所を確実に見付けることなんて出来なかったんだから。
――あ、でも、総司が視破る人が存在するなら、護るモノも居るって言ってたっけ。
どんなに悪人だろうと、護るモノには、護るだけの理由があるんだろう、と言っていた。
それを聞いた私は、『自分の子に限って』とか『自分のクラスに限って』と無条件に善性を信じる人たちと同じ理屈だと思ったものだ。
――知らない土地、知らない習慣、そんなところで短時間で探せっていう方が無茶振りなんだって言ってもいたわね。
顔半分までお風呂に浸かる。ブクブクブク。
考えも分からないことを考えても仕方がない。あと、勿体無い。
――デート、楽しかったんだから。
†
詩音とのデートの帰り、とある一軒家に人だかりが出来ていた。人垣の向こうには制服の警官とスーツの警官が出入りをしていた。
その家に凝る気配に、俺は足を止めていた詩音の手を取り、足早にその場を立ち去った。そのせいで詩音に誤解にさせてしまったけれど、誤解も解けて何よりである。
詩音の家の前で別れ、帰宅し妹の涼風と飯を食べ、各々風呂に入って自室で過ごす。涼風の就寝後、家を出る。因みに家には結界が張ってあるし、護りの式も在る。
家を出て向かう先は所属事する超常災害対策室だ。
まぁ、着いた早々に母さんや所長の若杉 伊織さんにニマニマした顔で迎えられ、デートのことを聞かれたが、それよりも報告があるという俺の言葉に二人は佇まいを正した。
報告というのは、ここ数週間に渡って起きている事件についてだ。詩音とのデートの帰りに視た家に残留する気配―― それは鬼の邪な気だった。その気配はその鬼のもので間違いない。
ただし問題が一つだけあった。
「問題?」
何かしら?――と所長が聞いてきた。
「その警察官の中に渡辺 綱成さんの姿がありました」
「そう。綱成君が……。彼がでてきているのなら、『鬼部』の長から表と裏の両方から捜査の命が下っているわね」
「そうですね。向こうの失態がない内から、此方が勝手に鬼の捜索に口と手を出す訳にはいきません。ですが、伊織様。他への影響と被害を考えると、そうも言っていられません」
因みに『鬼部』の長は倉橋家の当主が現在纏めている。では、本家の土御門というと、蔵人所陰陽師――早い話、相談役を務めている。
国を揺るがす事態が起きた時、厄介事の相談を持ち込まれる。陰陽庁に属しながら、組織から外れた存在で、陰陽庁の長は別に存在している。まぁ、『鬼部』はその一部所だ。
とは言うものの、組織が一枚岩だなんてことがあるわけもなく、陰陽庁には若杉の者もいるし、当然ながら千羽家の者も居る。
陰陽庁には『暦部』『天文部』『占部』『鬼部』『使部』という部所がある。
さて、長が言った“表”からの命令を出しているのが、千葉 胤鷹である。 倉橋の当主の下に就き“表裏”から指揮しているのが千葉 胤彌である。
この千羽 胤彌は、なんと我ら兄妹の祖父である。胤鷹は本家の人間である。千羽 真弓美からすれば格下らしい。らしいというのは長から見て、だからとは本人談である。
下手をすると彼が俺の父親だったかもね、と長はいうが、それは俺ではないので何も感慨などない。
閑話休題――
「そうね。総司君、真絢とバディを組んで、ちょっと調べて来て。あっちには根回ししておくから」
「そこで鬼を見付けたなら、退治しても構わないわ。逃がして他所に被害を出してしまっては超常災害対策室勤務の鬼斬りとして名折れだもの。鬼が鬼斬りを見て逃亡の際に襲い掛かって来るのは常。そこで斬り伏せても問題ないわ。不可抗力だもの。ね」
――うわぁ……二人とも良い笑顔だぁ。
「それじゃあ、着替えていらっしゃい」
「了解です」