表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/3

第2話 大切な名前

優の誘いに少女は戸惑ってしまった。まさか強引以外の方法で住処を得られるとは思っていなかった。


「そ、それはここに居てもいいということなのでしょうか、、、?」


一応少女は、間違いがないか確認をした。すると優は、すごい勢いで首を上下に動かした。パッと笑顔がこぼれそうになった少女だったが、ふとついさっきまでの暮らしが甦ると暗い顔になった。そのことを案じた優は色々な条件を提示した。


「敬語とか使わなくていいから!!」


「そ、そんなことできません!」


少女は速攻拒否。生まれながらにして奴隷として育った少女は、家主への敬語は絶対だと教えられてきた。体に染みついたものを取り払うことほど難しいことはないだろう。提案しておきながら優は、その難しさを思い浮かべると申し訳なさがこみ上げた。


「そりゃそうだよな、、、。無知でごめん!!」


「謝らないでください。私は、ご主人様の言うことをなんでも聞きます!」


(ご主人様、、、か、、、)

その言葉を使われた優は、頭をかいた。


「違うんだ、、、。俺は君と、君を守りたいだけなんだ、、、」


「え、、?」


優の言葉がまたも理解できない少女。すれ違う考えに、優は言葉を濁しながら思っていることを伝えた。


「俺は、対等な人として君と仲良くなりたいんだ。生まれ育った環境は違うかもしれないけど、その壁を越えて仲良くなりたいんだ!時間はかかるかもしれないけど、、、それでも、、、」


「、、、、、、。」


少女は優の訴えに言葉を失った。自分が人と同じ立場になっていいのだろうか?奴隷として生きてきた自分が?少女の頭の中はそんなことでいっぱいになった。優に返す言葉を探していた。しかし、知識がない。少女には学びがないから、語彙力がないのだ。


「良い暮らしはできないけど、最低限なものになっちゃうけど」


知らない間に少女は止めたはずだった涙が、今度は大粒になってポロポロと出てきた。そして次の一言が決め手になった。


「これからを幸せにすることを約束するよ!!!」


「ふぇぇぇぇん、、、、」


声を出しながら泣いたのはいつ以来だろうか。少女は顔を両手で押さえながら、声を出しながら泣いた。優は泣いている少女をみて心が痛くなった。しかしこれからだ。この少女の人生はこれから始まる。それに立ち会える。そんな素晴らしいことがこの腐った世の中で起こっているということに優はワクワクしている。


「どうだろう??」


少女が泣き止んだところで、優は提案について再度問いかけた。すると二つ返事で、


「なにも知らない私をよろしくお願いいたします」


正座をしたまま、深く頭を下げた少女は優が声をかけるまで微動だにしなかった。


「じゃあ、自己紹介するね。俺は夏目優。ご主人様は嫌だから、、、優って呼んでよ」


「優、、さん、、、とお呼びするのではどうでしょうか?」


優を(うかが)う少女はまだ固い。優はまだこれでいいと、呼び方を承認した。今度は少女に自己紹介をしてもらった優だったが、、、


「私に、名前はありません、、。No.10032というものが私に付けられた名前のようなものです」


「そ、そっか、、、」


(あのオヤジは名前なんて付けてなさそうだったしな、、、)

それが当然という世界で生きてきた少女は困りもしていない顔をしていた。優はしばらく考えた。


「じゃあ、名前つけようよ」


「そ、そんな!私なんかに、、、」


「いつまでも『君』とかだと、そっけないからさ」


「優さんがそうおっしゃるなら、、」


ありがたさにワクワクする心もある少女は優の顔をじっと見つめた。大きく、潤んでいる目で見つめられた優は逆に少女を見つめ返した。お互いに顔が近いことに気づかないまましばらく見つめあった二人。


「わっ!ご、ごめん!!」


距離が近いことに気付いた優は勢いよくスッと後ろに下がった。

(ガシャン!!)

すると優は後ろの本棚に背中をぶつけた。


「痛っ!!」


「も、申し訳ありません!!優さん、大丈夫ですか!?!?」


「あはは、、気にしないで」


(やっべ、見つめあってしまった、、、。恥ずかしっ、、)

優は頭をかきながらそう思った。

(っと、考えないとな、名前、、、)


「そうだな、、、」


優は改めて考え始めた。今日の日付や、あった場所など色々なことを踏まえて脳をフル回転させて、、。


(かず)、、()というのはどうだろう、、、?」


「万葉、、、。もしかして意味とかあるのですか??」


「えっと、、『万』の字は番号が10000が含まれていたからという安直な理由なんだけど」


優は期待に満ち溢れたキラキラの目で見られながら次の文字の理由について語り始めた。


「『葉』は、これから無限に花を咲かせる可能性を秘めているっていう感じかな、、、、」


万葉は優の思いを聞くと言葉を失った。


「い、嫌だったら、いいんだ!ちょっと、中二病すぎたかな、、、」


優がそういうと万葉は首を激しく横に振ってから言った。


「嬉しいです!!私、、その、、」


万葉は満面の笑みを優に繰り出した。


「名前、大事にしますね!!!」


(ドキっ)

優には効果抜群のようだ。つい変態じみた笑みを浮かべそうになった優は、自制心をなんとか保った。


「じゃ、じゃあ改めて、、、、。万葉、よろしくね」


「よろしくお願いいたします!!」


こうして優と万葉の生活が始まる、、、、、、。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ