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第四話 伝説の男

古い蝋人形館で、人形がまばたきをした……

 そこは、かなり歴史のある蝋人形館ろうにんぎょうかんだった。派手さはないが、リアルな人形をそろえている。

 その中に、中世ヨーロッパ風の服装をした初老の西洋人の人形があった。ずいぶん昔からあったらしく、いつ頃からあるのか知る者は、もはや館長以外にいなかった。

 最初に異変に気付いたのは、母親と見に来ていた幼い子供である。

「ねえ、ママ。このお人形、まばたきしてるよ」

「まあ、この子ったら。大人をからかうものじゃありません」

「でも、見て。ほら」

「もう、気味の悪いこと言わないでよ。あら。きゃあああーっ!」

 西洋人の人形はまばたきどころか、大きく背伸びをし、首をポキポキ鳴らしている。

「うーん、よく寝たわい。ところで、奥さん。ここは日本のようだが、西暦何年かね」

「ひええええーっ!」

 たちまち館内は大騒ぎになった。

 知らせを受けたスタッフが、安全のため数名がかりで客を館外に誘導し、本人(?)は別室に案内した。日本語がしゃべれるらしいということで、スタッフの誰かが代表してとにかく話を聞こうということになった。

 館長が出張中のため、若い職員が代わりにインタビュアーをかって出た。

「ええ、ぼくはこの館の案内係をしている吉村という者です。失礼ですが、あなたはどなたですか」

「我がはいかね。普通は伯爵はくしゃくと呼ばれておるな」

「え、まさか、ドラキュラ伯爵?」

「あんた、映画の見過ぎだよ。我が輩は吸血鬼なんぞじゃない。普通の人間さ」

「とても普通とは思えませんが」

「ふむ。まあ多少長生きではあるな。そうさなあ、今、五千歳くらいかな」

「ご、五千歳! あ、もしかして、あの伝説の、サン、サン、ええと、ええと」

「サンジェルマン伯爵だ。まあ、今の御時世だから、爵位しゃくいは付けなくともかまわんよ」

「へえ、実在してたんだ。あ、いや、失礼しました。それにしても、日本語ペラペラですね」

「過去に何度か来日したことがあるのでね。ただ、最後に来た時、明治維新のゴタゴタをける為、ちょっとかくれて居眠りしていたらこのザマだよ」

「えっ、すると百年以上眠っていたんですか」

「眠るというより、一種の仮死状態だろうな。普通の人間より、睡眠と覚醒のサイクルが極端に長いのだ。百年寝て二~三百年起きておるとか。我が輩が長生きなのは、多分そのおかげだよ」

「やっぱり伝説どおり、不老不死なんですね」

「いや、それは違うな。不老ではあるかもしれんが、神ならぬ身、不死ではないさ。あとわずか数千年の命だよ」

「それならもう、ほとんど不死身といっしょじゃないですか。うらやましいなあ」

「ふふん、うらやましがる必要はない。一日で寿命がきる虫からみれば、あんただって、とてつもない長生きだよ。いずれ死すべき運命ということでは、どんな生き物も平等だ。我が輩とて例外ではない。与えられた寿命をいかに生きるか、ということさ」

「うーん、そういうものでしょうか」

「まあ、あんたも、あともう少し、五百年ぐらい歳を取ればわかるだろう。それより、頼みがあるんだが」

「はい、何でしょう?」

「とりあえず生きている以上、食わねばならん。だが、働かざる者、食うべからずさ。ここで、夜警のアルバイトでもさせてもらえんかね? これから二百年ぐらいは起きていられるよ」

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