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第三話 ホテルの夜

(作者註:近々ホテルに宿泊予定の方は、読まないでください)

 細川は出張に行く際、できるだけ安くて新しいホテルに泊まるようにしている。だが、今回はあいにくその地方で大きなイベントがある日らしく、少々値段の張る古いホテルしか取れなかった。

 昼過ぎにホテルに着いたが、先に荷物だけフロントにあずけ、そのまま支社に向かった。

 かなり遅い時間に仕事を終え、ホテルに戻って改めてチェックインの手続きをしようとしたが、フロントのカウンターに先客がいた。幼稚園児ぐらいの女の子を連れた若い母親で、部屋をえてくれと頼んでいるようだ。

「まだ、全然使っていないんです。申し訳ないですけど、どうしてもこの子が怖がるので」

 カウンターの中には若い男性クラークが一人しかおらず、判断に困っている。

 細川は疲れているので待ちきれず、親子の背中越しに「ちょっといいかな」と声をかけた。

 フロントクラークはハッと細川に気付き、「少々お待ちください」と言って、見えない位置にあるチャイムか何かを押したようだ。すぐにベテランらしいクラークが現れ、鍵を渡してくれた。その後、ベテランが若いクラークに代わって親子連れに新しい部屋の鍵を渡すのを横目に見て、部屋に向かった。

 部屋に入ってみると、予想以上にジュータンや内装などは年季ねんきが入っているようだ。まあ、どうせ寝るだけだと思ったが、壁に掛けてある色のあせた絵が傾いているのがどうも気になる。真っ直ぐにしようとしたら、額の裏側から何か赤い紙のようなものがハラリと落ちてきた。一瞬だが、その紙に『封』といような文字が見えた。

 何だろうと思ってかがんで探したが、偶然サイドテーブルと壁の隙間すきまに入り込んだようで見つからない。あきらめて立ち上がろうとした時、細川はテーブルの角でしたたかに頭を打ってしまった。

「あ、いてっ!」

 さわるとちょっとコブになっている。

「くそっ」

 打った頭がズキズキと痛いし、少し肌寒いような気がするので、気分を直しにバーに行って一杯ひっかけることにした。

 部屋を出てエレベーターに向かうと、ちょうど先ほどの親子連れが上がってきたところだった。何故か女の子は目を見開いて細川の顔を凝視ぎょうししている。母親は困ったように女の子をたしなめた。

「だめよ、ミーちゃん。ちゃんとご挨拶あいさつしなさい。こんばんは、でしょ」

 すると、女の子は「でも、血だらけだよ」と言った。

 さっき打ったところだろうと思い、細川はコブを触ってみたが別に血は出ていなかった。

 その様子を見て、女の子は首を振った。

「違うわ。血が出ているのは、おじちゃんの後ろに立っている人よ」

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