第十三話 雨がやんだら
突然の豪雨に車を停めた榊原は……
隣県に所用があって、榊原は車を走らせていた。
いわゆる爆弾低気圧が接近し、高速が通行止めになったため、普段めったに利用しない山越えのルートを通ることにした。
雨はまだ小降りだったが、徐々に風が強まっている。本降りになってしまう前に、なんとか山道を抜けようと、榊原は焦った。
峠に差し掛かる頃には、ワイパーを最速で動かしても前が見えないほどの豪雨になっていた。雨だけでなく風も強くなってきており、油断すると車体ごと崖下に持って行かれそうになる。
これ以上の走行は危険と判断し、榊原は路肩に寄せて車を停め、ハザードランプを点滅させた。その間も、カーラジオからは絶え間なく暴風雨情報が流れている。
「まいったな。車を停めたものの、いつ雨がやむのか見当もつかないぞ。それに、強風にあおられて、落ち葉や小枝が飛んでくる。窓ガラスなんか割れたら大変だぞ」
不安から、つい大きな声の独り言になる。
その時。
ドン、ドン、という鈍い音とともに、フロントガラスに何かがぶつかって来た。
「な、何だこりゃ。うわっ、魚だ!」
それはかなりの大きさの鯉のようだった。
「どうして鯉が飛んで来るんだ? 沼か川の水が巻き上げらているのか?」
榊原が耳を澄ますと、遠くの方からゴーッという音が近づいて来ている。一旦止めていたワイパーを動かしてみると、前方に黒くうねる竜巻が見えた。
「やっべえ! 逃げなきゃ!」
だが、今発車する方が危険かもしないと思い直し、助手席に置いていたクッションを頭にのせて、精一杯身をかがめた。
ドン、ドン、という音は次第に激しさを増し、同時に車体が猛烈に揺すぶられ出した。
「わーっ! わーっ! やべえ!」
生きた心地がしないとは、このことだと思った。
だが、竜巻はアッという間に通り過ぎたらしく、すぐに静かになった。気が付くと、雨の音すらしない。
恐る恐る顔を上げてみると、車の周囲にいくつか人影が見えた。
警察か消防の人だろうと思い、榊原は急いで窓を開け、叫んだ。
「大丈夫です! 被害はありま……」
榊原は声を呑んだ。
ぐるりと車を取り囲んでいたのは、口々に鯉を咥えた河童だった……。




