表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/25

第一話 いかがでしょうか?

銭湯からの帰り、浩二は変わった自動販売機を見つけるが……

 浩二が銭湯の帰りに公園の横の路地ろじを歩いていると、いきなり誰かに声をかけられた。

「お飲み物はいかがでしょうか?」

 驚いて周囲を見回したが、人の気配はない。空耳だろうと思い、歩き出そうとしたら、また聞こえてきた。

「お飲み物はいかがでしょうか?」

 やっとわかった。いわゆる、しゃべる自動販売機だ。前に人が来ると、センサーで感知して声が出る仕組みである。浩二が昨夜通った時にはなかったから、今日設置したばかりだろう。

 それにしても、この手の機械が出始めた頃に比べ、ぐっと音声の質が人間に近くなったものだ。それにモニター画面に可愛い女の子のCGが映っていて、音声と連動して動くようになっている。

 ちょうど風呂上りでのどかわいているし、缶コーヒーぐらい飲んでもいいだろうと、小銭を自販機に入れようとして、浩二はふと気付いた。モニターの下には飲料メーカーのロゴは入っているが、サンプルも商品名の表示もないのだ。

「なんだよ。これじゃ何があるのか、わかんないじゃないか」

 すると、モニター画面の女の子の表情が動き、声がした。

「ありがとうございます。ご注文をうかがいます」

「えっ、何だって?」

「驚かせてしまいまして申し訳ございません。この端末たんまつは本社の人工知能サーバーにつながっており、お客様と簡単な受け答えができるようになっております」

「へえ、スゴイな。それじゃ、そうだな、微糖の缶コーヒーをもらおう」

うけたまわりました。コインを投入してください」

 コインを入れると、ガチャンと音がして缶コーヒーが出てきた。人工知能だのなんだの、大げさなわりには、ここは普通である。

 モニターの女の子の顔が微笑んで、頭を下げた。

「ありがとうございました」

「うん」

 浩二は思わず返事をしてしまったが、考えてみれば相手は機械である。バカバカしい。そのまま立ち去ろうとすると、また、話しかけられた。

「ご一緒に、ハンバーガーやサンドイッチはいかがでしょうか?」

「ほう、そんなのもあるの?」

「はい。ほんの少しお時間をいただければ、ハンバーガーを加熱いたします」

 ちょうど小腹も空いていたところである。

「じゃあ、ハンバーガー、いや、チーズバーガーがいいかな。あるかい?」

「はい、ございます。コインを投入してください」

 また、ガチャンと音がしてチーズバーガーが出てきた。

「よろしければ、おけになりませんか?」

「えっ、どこに?」

 驚いたことに、自販機の下の方から板のようなものがせり出してきていた。それはちょうど椅子いすぐらいの大きさだった。

「どうぞ」

「ああ」

 浩二はおっかなびっくり腰を下ろしたが、意外に座り心地は良かった。

 浩二が座るのを待っていたように、アームに支えられたモニターが正面に回ってきた。

「お食べになっている間に、サービスで占いをさせていただいております。お名前と年齢だけ、よろしいでしょうか? もちろん、個人情報は保護されています」

「ほう、そんなこともできるのか。えっと、山田浩二、二十四歳、独身、会社員だ」

「ありがとうございます。あなたはコツコツと努力をする真面目なタイプですが、なかなか、周囲に理解されませんね。でも、大丈夫です。来年から運気が上昇し、仕事も恋愛もすべてうまく行くようになります。ただ、優しいお人柄なので、だまされやすい傾向があります。そこだけご用心ください」

「へえ、そうなんだ。恋愛運も上がるのかあ」

 これは、来年結婚ということも考えられるぞ、浩二はニンマリと笑った。

「実は、この端末は色々な企業の総合窓口になっておりまして、将来のことをお考えでしたら、生命保険の契約などもできますが、いかがでしょうか?」

「そうだな。それも必要かもな」

「彼女とのデートなどに必要になりますから、自動車もいかがでしょうか?」

「うんうん」

「マイホームをお考えでしたら、住宅ローンもいかがでしょうか?」

「まったくだ」

 浩二は契約書らしきものに次々にサインをし、拇印ぼいんを押した。

「いかがでしょうか?」

「いやあ、すばらしい、夢のような自動販売機だよ」

 そろそろ帰ろうと思ったが、なぜか浩二は急激に眠くなり、そのまま寝てしまった。


「大丈夫ですか? 起きてください。風邪ひきますよ」

 ハッとして目覚めると、目の前に制服の警官が立っている。いつの間にか、浩二は公園のベンチで眠っていたようだ。すでに朝になっていた。

「あ、すみません。大丈夫です」

「一人で帰れますか?」

「はい、アパートは近所なんで」

「じゃあ、お気をつけて」

 警官が立ち去ると、徐々に記憶がよみがえってきて、浩二は青ざめた。

(しまった、大変だ。変な契約書にいっぱいサインしてしまったぞ)

 あわてて周りを見回すと、浩二の名前が書いてある、たくさんの木の葉が落ちていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ