人外は操作可能なのだろうか
VRゲームには大きく分けて二つのジャンルがあった。
アバターものかコックピットものかだ。
アバターものは自身の分身キャラを操作する、所謂成りきりプレイだ。
コックピットものもアバターものには違いはなかったが、自動車運転の練習や作業用重機の体験等、現実で使える免許等の教育、技能継承の場としての方向へ幅を広げたため、独立したジャンルとなった。
そんなコックピットものに、異色のゲームが発売された。
VRシステムの限界、それは人が直立二足歩行生物だった事だ。VRゲーム黎明期から、人以外の生物を操作キャラに実装をして欲しいと、各地から声が上がっていた。
だがどうだろうか、人は二本の腕に二本の脚しかなく、そんな生物は、近くても一部の猿や猿人、原人、旧人が精々だ。果たしてそれで面白いのだろうか。
「四足歩行。VRシステム舐めんなよ! 信号こっち一に対してあっち一なんだよ。首が上に座っている俺らと横についてる犬猫が同じわけねえだろうが!! ――はいはい? そんなものはせめて膝をつけずに歩いてから四足歩行と言いやがれ!」
これは昔、ある月刊誌に掲載された現場の声だった。ちなみにインタビュアーは熱帯魚派だった。
だが、ある人物は考えた。
「人が犬猫になるのは不可能だ。だがそれはアバターものでの話。コックピットものなら擬似的に体験できるのはないか」
それが始まりだった。
最初はただの四足歩行ロボットのコックピットを流用してのものだった。だが、機械もの中に現れた異色の生ものは、話題を呼び、それなりの売上を叩き出した。それで火がついた。発展の始まりだ。
VRコックピットは、座る椅子タイプから腹ばいタイプに変わったり、姿勢により犬タイプだったり猫タイプだったり、果てはカエルタイプだったりと、VRコックピット自体がカスタマイズされていった。
外見は、はっきり言って人が人を見分ける程、動物の見分けがつく人は少ない。故に動物アバターのキャラデザは、膨れ上がっていたアバター費用を大幅に削減する事ができ、他に開発資金を回す事ができた。それも発展期を押し上げる要因であった。
そして満を持して出されたタイトル、それが『二足歩行やめませんか?』だった。
『何足歩行にしますか?』
目の前にはその文字が浮いていた。そして選択可能な数字が全て羅列されていた。
「って、二足歩行あるじゃねえか」
タイトルに偽りありと、誰もがつっこむその2の選択肢を選んでみれば、使い古された亜人だの獣人だのエルフだのドワーフだのはなく、鳥や恐竜等が選択肢を占めていた。
「人間やめませんかじゃねえか」
頭が弱い奴はたいていこう言う。屁理屈な者は、
「直立、二足歩行やめませんか、か」
もしくは、
「広義の人間、やめませんか、か」
だろう。
「さて、これでいいか」
俺は、話題のゲーム、『二足歩行やめませんか?』のタイトル名に惹かれた購入した、ただのゲーマーだ。
ちょっといらっとした初期設定を終え、今からゲーム開始だ。
俺がどんな動物を選んだかって?
スレイプニルだ。知ってるだろうスレイプニル。伝説に出てくる八本脚の軍馬の名前だ。つまり、個体名である。八本脚の馬?の品種名は、なんて名前なのかは浅学にしてご容赦願いたい。
さて、ゲーム開始だ。現実の意識は落ちた。
『ようこそ。ここは……』
プロローグ……だと……
『〜しばらくおまちください〜』
ふー、プロローグは終わったか。早くチュートリアル行けよ。
真っ暗闇から突然、目の前に扉が現れた。いや、扉だけじゃない、木造の人の家屋内のような様子が写った。
うう、変な感じだ。
このゲームはリアル志向だ。スレイプニル、伝説は知らないが、馬だから植物食動物設定なんだろ、目の位置がそうなっているのだ。
こういうリアル志向動物もののVRは、慣れてないとめっちゃ疲れるし気分が悪くなる。俺もそこそこ慣れてると思っていたが、八本脚なんてレアものに思わず選んじまった。オーソドックスな犬猫辺りが良かったか?
そんな事を考えると、目の前に半透明なエクスクラメーションマーク現れた。
はい、タップ。
『ミッション1 拠点からどうにかして出よう』
相変わらず微妙にいらっとするナレーションだ。チュートリアルだな。最初のチュートリアルとしては、かなり難しいな。まずは、八本脚を使ってみよう、とかだろ。もしくは、メニューを開け、とか。
三日後。
大分歩くのにも慣れてきたな。まさか八本脚で歩くのがこんなに難しいとは。四本の二倍だから昆虫系より楽だと思ったんだけどな。俺が根気がある人じゃなかったら、初期設定からやり直したぞ、こんなの。
しかもこの拠点、俺の体には狭すぎる。転けた時頭うったぞ。しかも拠点だからか壁は不壊設定っぽい。
まあいい、どうにか転けないように歩けるようになったから、そろそろ拠点から出るか。
…………うん?
扉に目を向けると、信じられない事にドアノブは……丸型だった。
えっ、えっ、えっ! これ、どうやって開けるんだ?! 俺、蹄だぞ!
試しに前脚、えっと、脚の付け根は四つなんだ、それで各脚の途中から二股に分かれてる、そういうタイプのスレイプニルだ。前脚を、こーーやって……
無理だった。二股だから上手く挟めないかと試してみたが、そんなに狭くならない。
他にもごしごし前脚を当てて、回そうとすれば、ドアノブは少し回った気はするが、これが難しいのなんのって、ある程度以上は上手く回せない。
はぁ……てか、俺だけがこうなのか? いや、そんなわけない。選んだ動物ごとに拠点が違うんだったら、こんな人の家風な拠点である意味が分からん。改めて辺りを見回すと、壁と床の間にジェ○ー位なら通れそうな隙間がある場所があった。
『ミッション1 拠点からどうにかして出よう』。どうにかして。つまり出方は人?それぞれと言う事か?
拠点を見回ってみた。そうすると、いろんな高さに、っぽい隙間がある。多分鳥用なのだろう。
あとは、この階段……行けるか?
勾配はゆるいため登れない事はない。ただ、幅がアウトだ。無理に体をねじ込めば壁が壊れ……ないんだったな。不壊設定なんだし。
耳に木が軋む音が聞こえて来る。俺の体も横から物凄い圧迫感を感じる。不壊設定でも軋むエフェクトはあり、やはりそこそこはリアル志向。
そんな事を考えているうちに二階に到着した。そして、見た。
窓だ。一階にはなかった。ガラス張りのそこそこ幅がある窓を見つけた。近づいて確かめて見ると、一階部分の屋根上に出れるようだ。ほーほう。そこそこのまでの大きさの奴は、ここから出ろって事だな。ご丁寧に最初から開け放たれてるし。まあ、俺の体は無理だがな。それに、窓から見える景色は無人の街。色違いの同じような形に家が連なっていた。はじまりのまちだな、まさしく。
試しに窓から顔を出して見ると、そこには先程までの無人の街はなく、半透明なキューブが通りを埋め尽くさんばかりに移動していた。
あー、倫理規定。現実と遜色ない超リアル志向VR後にできた、これは現実ではありません。ゲームですよ。という演出だ。拠点と外の境界に置くのはそこそこ定番だな。
首を引っ込めると再び無人の街となった。拠点は完全プライベート空間、いろいろ特別だ。だからさっさとこの拠点を出て、パブリック空間の住居を用意しろって奴だ。そうすれば家の中からでも無人じゃなくなる。
その内ゲーム内通貨も手に入るだろう。もしかしたらこの拠点から出たら、ミッションコンプリート報酬として軍資金貰えるのかな?
まあ考えても仕方がない。さて二階の探索をするか。
次の日。VR世界じゃなくて、現実のモニタの前に座っている。
「――俺は、一体どうすれば」
詰んだ。拠点からどうしても出れなかった。
ただ、こんなところで攻略サイト見て、解決するのは俺のプライドが許さない。でも、ラスボスより最初のザコが強敵である事は、ゲームじゃよくある。仕様を理解度の話だ。掲示板じゃ意味不明なところで詰まる奴もよくいるし、見るは一時の恥か、見ざるは一生の恥か。ああ〜、俺はどうすれば…………
ゲーマーの意地が勝った。何としても自力脱出だ。
ゲームを起動し、VR世界に到着した俺は、自身の体について考えてみた。
スレイプニル。八本脚はいいとしても、大型の馬だよな。階段に嵌まりそうになる位だもん。そんな俺が抜けれそうなのは、一階の扉位だ。裏口はないし、昨日確認したが、カーペットの下に地下への道もなかった。
やはり、俺みたいな大きな生物を選んだ奴は、堂々と扉から出るのが正解ルートなのか? 前脚をもっと上手く使えって事か?
次の日。今日もモニタの前にいる。ただ今日は、動物が扉を器用に開けている動画を見ていた。
「丸型でもがちゃがちゃやれば、そこそこ開けれんだな。こいつなんて慣れたものじゃないか。まあ馬がやってる動画はないが」
スレイプニル、肉球じゃなくて蹄なんだけどなあ。
ああ、いらいらする。
動画を見たあと俺は、再び丸型ドアノブに挑戦していた。だが、開かん。
馬の飼い主、何で扉を開ける位の動画もアップしないんだ!
馬ってつまり、馬刺しの事だよな。って事は家畜だ。ペットじゃないから皆アップしないのか。
いや、前世紀には競馬なる馬を走らすギャンブルがあったらしいが、人が恣意的に他種の動物を争わせる事は禁止になった。だから今は純粋な食肉用と愛玩用、研究保護用しか動物は存在しない。なら馬のペットもいるはずだ。単純に分母の問題か? 友達に犬猫飼ってる奴何人かいるけど、全員が全員ネットにアップしてるわけじゃないし。
はぁ。脳内遊びで、ちょっとクールになれたが、まだいらいらするな。
蹴ったろかわれ。
…………え………………
『ミッション1 コンプリート』
俺は今、拠点の外に立っていた。
いらいらを扉にぶつけたら、なんか扉が壊れた。そして、えっ、えっ、と思いながらも外に出た。そしたら目の前にミッション完了の画面がポップした。
通りには、今までキューブだったものがちゃんと表示されその姿を晒していた。
多いのは様々な品種の犬や猫。牛や豚、羊や熊もいる。見つけ難いがネズミもちょろちょろと。大まかに言えば哺乳綱だな。それと鳥。屋根の上にとまってたり空を飛んでいる。
おっとあれは八咫烏。最初の選択肢の3にあった唯一の選択肢。俺は8だったから、大量の蜘蛛の名前が羅列されていた。その段階でサムネがあったら、鳥肌ものだったな。俺、虫苦手。虫とかはワールドが違うから、ここに出てくる事はないってのは最高だ。一部ワールド共有エリアがあるらしいけど、近づく気はない。
まあそんな事はどうでもいいか。ようやく最初のミッションが終わったんだ。ここからは俺の時代だ。
「やったるぜ!」
………………………………あれ?
お読みいただきありがとうございました。
作者、スレプニル嫌いです。嫌いな蜘蛛を連想するので。だから途中から二股タイプを採用したんですがね。もっとも、読み物としては特に問題ないんですがね。
この作品は、ファンタジー小説の一ジャンル、転生人外ものをVR技術で再現可能かの思考実験から生まれました。まっ、何でもありのSFだから、基礎技術体系の考察、ぶっ飛ばしてるんだけどね。




