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Raison D'être  作者: 澪音
Ⅰ.すべての始まりは──── その②
9/47

Page.7「連鎖する不可思議な現象」

 ────意識が、現実へと引き戻される。


 その直前。


 “────あの子のことは助けたのに、どうしてボクのことは助けてくれなかったの?”


「────っ!!」


 やけにハッキリと聞こえたその声に、俺の意識は強制的に覚醒させられた。


「ゆ、め……?」


 夢、だったのか今の……?


 というか、いつ寝たんだ俺……。


 確かフゥ達と話してそのあと……どう、なった……?


「……ダメだ、全然思い出せない」


 ていうかここ、俺の部屋だ……。


 普段はあの部屋で寝てるわけだから本当に久々に自分の部屋で寝たんだな……。


 俺が自分の部屋で寝ようとしないのは、さっきみたいなことが頻発するからだ。


 “あの出来事”を忘れたくても、忘れられない。


 ────忘れることは、赦されない。


「はぁ……少し、冷静にならないと……」


────────────────────


 顔を洗ってからいつもの部屋に向かうと、フゥが居た。


「ん、珍しく早起きだな……と、言いたいところだけどまぁ、昨日もそうだったな。……大丈夫か?」

「……大丈夫かと訊かれれば一応、大丈夫だ」


 俺の顔色があまり良くないことに気付いたのか。


「そういえばクロエは昨日のこと、どこまで憶えてるんだ?」

「んー……フゥがまだクレアのことを好いてるってことを知ったとこくらいまで……か?」

「……何かしらの感情を抱いているってのは認めるけど別に、それがそういう感情かどうかは分からないぞ?……あと、しつこいようならさすがに殴るからな」


 ……殴られたくはないし、別にそこまでしつこく言うつもりもないんだけど。


 そんなことより……


「……俺、いつ自分の部屋に行ったんだろう」

「クロエが自分の部屋に?……自分の意思で、ではない気がするけど?てか、クロエが早起きした理由はそういうことか」


 フゥは俺の事情を知っている。


 それは、キリカももちろんのこと。


 だから俺がソファーで寝ていたとしても特にどうといった文句を言ってくることはない。


「まぁ、今は落ち着いてるみたいだから特に心配しなくてもいいか」

「落ち着いてない状態ってどんな状態だよ……」


 別に情緒不安定になるほどのものでもないし。


「……そういえばなんで昨日、“規則”がなくなってなかったって分かったんだ?」

「ん?あー……昼間、俺らが神父から逃げてたときに、チラッと見えたんだ。────“十字架”が」


 “十字架”……?


「“十字架”くらい、案外探せばどこにでも……」

「俺が言ってるのは“処刑用の十字架”だ。そんなもの、どこにでもあるものじゃないしそれに……」


 フゥの表情が曇る。


「……その“十字架”は、クレアが掛けられてたものだ。それだけは間違いない」


 ……その言葉には強い確信があったように思えた。


 詳しい死因を訊くほど俺は好奇心に満ちているわけではないから、それに関しては何も言わなかった。


「フゥの言ったことが事実だとしたら、本当にシエラは近いうちに“供物”にされる可能性があったってことかよ……」


 俺はそこまで言ってふと、疑問に思ったことがあった。


「なぁ、()()()()()()って、どうして分かったんだ?」

「司教がそう言ったからだ。聖人や聖女よりも上の地位の司教が、急に言い出したから……」


 フゥがハッとしたような表情を浮かべる。


 多分、俺と同じことを考えたのだろう。


「『邪魔な存在』だと思ったから、わざとそんなことを言ったっていう可能性は……?」

「それは……ない、と思いたいけど……いや、確かめる(すべ)もないか……俺が殺してる可能性の方が高いだろうし……」


 随分と物騒なことを言うな……。


 いやまぁ、確かにそうかもしれないけど。


 まぁ、フゥが殺したかどうかはともかく……生死を確認する方法は……ないこともないか。


「……教会に行けば『死傷者リスト』くらい、あるんじゃないか?」

「確かにあるかもしれないけど、俺らの立場的な問題があるだろ」


 そういえばそうだったな。


 ん、それはそうと……


「フゥ、俺に話してないことがあるだろ。……教会に居たとき、明らかに何か知ってそうな反応してたし」

「あぁ、神父が“またしても”って言ったときのことか」


 多分、訊かなかったら何も言わなかっただろうな。


「そう。……何を隠してるんだ?」

「んー……隠してるわけではないんだけどな……まぁ、そのうち分かる。おそらく、今日中にはな」


 答えてはくれないのかよ。


「……なんでそう言い切れるんだ?」

「多分もうそろそろ出掛けることになるだろうからなー」


 ……その理由を詳しく説明してくれ。


 などと考えていると突然、奥の部屋の扉が勢いよく開き、白い影が俺の方に飛び込んできた。


「な、なんだ……?!」


  急に現れたかと思うと飛びつき、背中に回り込まれた。


「クロエに真っ先に飛びついたな……やっぱ“姿が少々変わっても”そういうことはなんとなくでも、覚えてるのかもな」


 フゥが関心したような声を上げる。


 いやちょっと待て、何の話だというかこの状況なんなんだ……?!


 頭の中で目まぐるしくそんな感じのことを考えていた。


 なぜなら俺に飛びついてきたモノの正体は……


「これ、シエラ……だよな?なんで幼くなってるんだ……?」

「思いのほか驚いてるふうには見えないけどまぁ、いいか。確かに、今クロエの腰の辺りにくっついてるそれは、当代の聖女だ。クレア曰く、“お告げ”のない日にそんな状態になったりすることがあるらしい。原因は不明、とも言ってたかな」


 原因不明とか厄介すぎるだろ……。


 それとなんで残念そうな顔してるんだよ。


「まぁ多分、俺の予想が正しいのなら、その状態を上手く扱うこともできるようになるかもな」

「……つまり、昨日のあの姿と今の姿を自由に変えることができる、そういうことか?」


 俺の言葉にフゥは頷いてみせる。


 納得したいところだけどとりあえず……


「……一旦離れようか、シエラ」


 ずっと俺の腰にしがみついて何も言ってこない幼いシエラに対し、俺はそう声を掛けた。


 すると、ガバッと顔を上げて────


「おにーちゃん私のこと知ってるの?!」


 ────と訊いてきた。


 ……見た目だけじゃなく声まで幼くなるのか。


 ん、というか俺のこと……覚えてないのか……?


「あぁ……言い忘れてたけど、その小さい方の……当代の聖女って長いからもうやめとこ……俺もシエラって呼ぶことにするか。……おそらくシエラには記憶の共有、されてないからな」


 記憶の共有、されてないのか。


 ……んー……シエラの質問にどう答えたものか。


「────知ってるも何もその人ですよ、シエラを教会から連れ出した人は」


 ────と、奥の部屋から出てきたクレアが俺の代わりにそう答えた。


 クレアのその言葉に、シエラが目を輝かせながら、俺を見る。


「えっと……なに、かな」


 さすがの俺でも反応に困るんだけど。


 俺のそんな様子にフゥが肩を震わせながら笑っているのが、視界の端に入ってくる。


 なんかムカついたからとりあえず睨んでおこう……。


「あー、今のは俺が悪かったって……謝るからそう睨むなよ、な?」


 フゥはそう言ったがまたその直後に声を殺して笑っていた。


 そんなフゥの様子にクレアが少し慌てた様子だった。


 ……俺が怒ると思ったのかもな。


 まぁこの程度では怒らないんだけどな。


「あの〜……お取り込み中悪いんだけど……みんなで買い物、行かない?」


 突然、奥の部屋からちょこっと顔を出したキリカが俺達に対して、そう声を掛けてきた。


 買い物か……まぁ、行くのは別にいいけど、先にずっとくっついたままのシエラをなんとかしてから、だな。


 ────それから数分後、やっとのことでシエラを引きはがすことに成功した。


 なんでずっと俺にくっついていたのか、その理由は訊いても答えてはくれなかったが。

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