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Raison D'être  作者: 澪音
Ⅰ.すべての始まりは──── その②
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Page.6「“昔話”の真相」

 なんとか家に辿り着き、ソファーでボーッとしていると、服を着替えてきたキリカが奥の部屋から出てきた。


「ふぁ〜……疲れたよぉ……」


 ────と、キリカが今にも倒れそうな声で言う。


「……今日一番頑張ってたの、キリカだよな……俺達、無事に帰ってこれたわけだし」

「お、確かにそうだな。てなわけで……ありがとなーキリカ、お前のおかげで助かった。俺らが怪我なく帰って来れたのはキリカの頑張りがあってのものだ!」


 俺とフゥで今日の“頑張り屋さん”を褒めてあげた。


「おぉ……二人にそんなふうに言われるとは……幸せだぁ〜……!」


 ……デレデレだな。


 いつも以上にデレてる……可愛いからいいけど。


 ……相当疲れてるのかもな。


 ふと横に視線をやると、シエラが目を丸くしていた。


「えっと……さっきの、銃剣を持ってた方と……同じ方、なんです、よね……?」

「あはは、そうだよ?驚かせちゃったかな?」


 驚くシエラに対して、茶化すように言うキリカ。


 ……キリカがだんだん、フゥに似てきたような気がする。


「家と外では、全然性格が違うんですね……」


 フゥの隣に座るクレアもシエラと同様に驚いているようだった。


 正確に言えば、条件は少し違うんだけど……まぁいいか。


「だから言っただろ?別人扱いだって。」

「……確かに、そう言われてもおかしくないですよ」

「えーっ!同じなのにー……」


 フゥの意見にクレアが同意する。


 そんな二人にキリカが拗ねたように言う。


 三人のやり取りを見ていてふと、思い出したことがあった。


「……ん、そういえばシエラ、さっきなんて言おうとしてたんだ?」


 “────ノアさんの家に着いたら、言うことにします”


 シエラは確かにそう言っていた。


「……あっ、えぇとその……先程は、ありがとう、ございました……私なんかのために、怒ってくれて……」


 そうシエラは俺に対して、しどろもどろになりながらも、感謝の言葉を伝えてくれた。


「……あー……あれはその……あまり、覚えてないんだよな…………」


 きっと、怒りに身を任せたまま口走ってたんだろうなぁ……。


 そんなシエラの言葉を聴いていたキリカが────


「え……クロエ君、怒ったの?!」


 ────と、話に割り込んできた。


「めちゃくちゃ怒ってたなー……多分、初めてなんじゃないか?あそこまで怒ったのって」


 フゥがなぜかニヤニヤと腹立つ笑みを浮かべながら言う。


 いつものことだけど、なんで軽く笑ってるんだよ……。


「……まぁな。そもそも誰かに怒るような機会なんて、なかったし」

「え、アレで初めて怒ったんです……?」


 シエラはなぜそこに疑問を持ったんだ。


 アレって言うなよ……。


「怒ったこと、そんなに変か……?」

「んー、別に変じゃないと思うよ?クロエ君が“人らしい感情”を持ってるってことを再認識できたんだし」

「俺が人じゃなかったみたいに言うなよ……」


 俺をなんだと思ってるんだ……。


 ……でもまぁ確かに、今までのことを思えば俺はまだ本当に、()()()()()()()のかもしれないなぁ……?


「そういえば、“悪魔”さんって……その……()聖人、なんですよね……?」


 突然シエラがフゥに、恐る恐るではあったがそう尋ねた。


「ん、そうだけど……それがどうかしたか?」


 投げ掛けられた質問にフゥは、僅かに目を細めた。


「……どうして、“悪魔”なんて呼ばれるように……なったんですか?」


 シエラが静かに訊く。


 フゥはため息を吐いてから────


「………少し長いけど、いいか?」


 ────と、尋ね返した。


「……はっ、はい!大丈夫、です……」


 シエラの返事にフゥは、肩をすくめる。


「……じゃあ話すとするか……まぁ、まずは俺とクレアが()()()()()()()()時代の説明でもしておこうか」

()()()()()()()()時代……」


 フゥとクレアが()()、人間だった時代……。


「そう。……俺らが生きていた時代っていうのは、まだこの街が()だったときなんだ。まぁ、なんでそうなったのかは、俺も知らないけどな」


 確か……この街ができる前は、少し大きめの集落だったって、つい最近まで読んでた歴史書に書いてあったな……。


 ────ある“大災厄”によって壊滅した、とも……。


 そのあと、別の地域に住んでいた人達によって復興を遂げたのだとか。


 なんてことを、俺は最初にフゥの話を聴いたときには思い出せなかったことを思い出していた。


「……んでまぁ、俺もクレアも……当代の聖女と同じようなことをしてた。……今で言う“お告げ”ってヤツだな」


 “お告げ”がどういったものなのか、俺は詳しくは知らない。


 フゥが言うには、「占いと大して変わらないと思うんだけどなー……」だそうだけど……実際はどうなんだろう……。


「……なぁ、クロエ」


 フゥが突然、俺に声を掛けてきた。


「ん、どうかしたか?」

「……一つ、言っておかないといけないことがあった。……俺が話したあの“もう一つの規則”は……どうやらまだ、無くなってなかったらしい……まぁなんていうか、危なかったな」

「……そう、か」


 もう少し早く言ってほしかったなぁ……。


「……“規則”?」


 シエラは首を傾げるが、どうやら自分に関係しているということだけは解っているようだった。


「俺が“悪魔”って呼ばれるようになった原因、みたいは感じかな……続き、聴きたいか?」

「え……さすがに途中で話を止められると、すごく気になるんですが……」


 ────どうしてそんなことを訊いたのか。


 それは多分、フゥなりの“気遣い”だったのかもしれない。


 なぜならその“規則”は、聖人や聖女にとって、とても辛くて、残酷で嫌なものだから。


 ……違う、なんの“役割”も担っていない人間からしても、か。


 フゥの話を聴いたときに俺は確かに安堵していたのを覚えている。


 ────自分が、そんな“役割”を担っていなくて良かった、と。


「なら話すけど……────お前、聖人や聖女が()()()()()()らどうなるか、知らないだろ」


 フゥの口調が急に鋭さを帯びる。


 その声や表情からは先程までの、あのおちゃらけた雰囲気は、微塵も感じられなかった。


 まるで他人を見ているかのような、そんな感じだった。


「役目を終える?……“お告げ”が聴こえなくなる、ということですか……!?」


 シエラが驚きの声を上げる。


「まぁ、そんな感じで思ってくれればいい……聖人や聖女は────」


 フゥはそこまで言ってからまた、ため息を吐くと意を決したらしく────


「────役目を終えたら、“神への供物”にされるんだ」


 ────と言った。


「…………それって、どういう……」

()()だよ。使いものにならないから、とか。()()()のそんな勝手な理由で……殺されるんだ」


 それを聴いた途端、シエラの顔が青ざめていった。


「……じゃ、じゃあ……“悪魔”さんは……」

「……されたのは俺じゃない。クレアの方だ」


 一瞬、フゥがクレアの方に視線を向けたようだった。


 クレアの方は……ぎゅっと固く目を閉じている。


「……俺はクレアを助けようとして、失敗したんだ。……そのあとは、よく覚えてない……けど、はっきりとした意識を取り戻したとき、俺の目の前に広がっていたのは、火と血の海だった」


 フゥがじっと、膝の上に置かれた自らの両手の方に視線を落とした。


 その手は、僅かに震えていた。


「……俺は、自分の手で、村の人を……“皆殺し”にしたんだ。怒りに身を任せて……全部、壊したんだ……」


 そう言って、両手を力強く握りしめる。


 ……“何か”に対する怒りを、殺すように。


 ────フゥが今言ったことが、“大災厄”で起こった出来事だった。


「……そのあと俺は、自分で自分を殺したわけなんだけど……どういうわけかまたこうして生きてるんだよなー」


 ()()()()()()っていう方が正しいのかもな、とフゥは続けてそう言った。


 ……ん、いつも通りのフゥに戻った……?


()()()()()()……?」


 シエラがそう訊いた。


「……一回死んだせいなのかは分からないけど俺、もう死ねなくなってるんだ。いくら確実に死ねる方法を試しても、またこの家で目を覚まして……」

「いやちょっと待て。えっ何?俺の知らないところで自殺しようとしてたのかお前!?」


 フゥの口からとんでもない言葉が出てきたのでさすがの俺も食いつかずにはいられなかった。


 ……俺には散々()()していたのに?


 なに人の家で死のうとしてんだよコイツ……。


「大丈夫だっての。自殺するとしても外でだし」

「全然大丈夫じゃねぇっ!同居人が勝手に死なれたら俺達が困るわ!」


 しかも割とずっと一緒に居るヤツに死なれると俺の精神がもたない……。


 などと考えていると、やり取りを見て、目を丸くしていたクレアが一瞬笑ったような気がした。


「はぁ……ま、クロエのことは放っておくとして、言ってしまえば俺もクレアも“不老不死”ってことだな」

「えっ、私もなの……?」


 唐突に話に巻き込まれたクレアが動揺したような声を上げる。


 おい俺を放置するなよ……なんて言っても、聞いてくれるわけじゃないからもういいけど。


「俺と同様にクレアも一度死んでるからな。多分同じ状態だと考えても不思議じゃねぇだろ……なんなら、試してみるか?」


 フゥがまたいつものような悪戯っぽい笑みを浮かべながら訊くと────


「い、いやいいです!痛いのとかムリですしっ!!!」

「くすくすっ……冗談だから安心しろ、その辺は俺が一番よく知ってんだよ」


 ────クレアは首をブンブンと振りながら、必死に断っていた。


「クレアがあんなふうに話してるの、初めて見た……」


 俺の横に座るシエラが驚いたように言う。


「ん、そうなのか?」

「……普段は私くらいしか話し相手、居ませんでしたから……おそらく神父様にも、見えてなかったかと」


 なるほど……ん?


「なぁフゥ、さっき……お前が“結界”を壊してからは、なんで俺にもクレアが見えるようになったんだ……?」

「あー、あれか。なんていうか……“結界”っていう壁がなくなったことで、“依り代”との距離が近くなったから、とかそんな感じだと思うぞ。俺にもその辺りはよく分からないがな」


 “依り代”……また随分と変わったものが出てきたな……。


 “依り代”は、霊魂などを入れておく入れ物のようなもので、よく降霊術とかに使われることが多い。


 確かに、その霊魂と“依り代”との距離が近ければ近いほど、周りの人間にも認識されるようになるっていうし、霊魂が“依り代”を身に付けた状態になれば、“実体”を得ることも可能らしいけども……。


 ん、クレアがそうってことは……


「……フゥは“依り代”を持ってるってことか」


 俺がなんとなくそう言うと────


「前に見せた猫のぬいぐるみ、一応アレが俺の“依り代”だ」


 ────と、涼しい顔で返された。


「“依り代”ってアレのことかよ!……な、なんか腹部に縫い目あったような……?」


 灰を被ったような色をした猫のぬいぐるみ……なぜかその腹部は黒い糸で乱雑に縫われていて……


「あんな感じになってるのは腹部に刃物を入れたままにしてあるからだ。ちなみに皆殺しにした凶器はそれな」

「怖っ……っておい、それを俺に渡したのかよ!?握りしめたら怪我するとか言ってたけど、怪我どころじゃ絶対済まされないだろそれっ!!」


 指が吹っ飛ぶわ!


 そしてなんでそういうことを何事もなさげに言うんだよ……。


「じゃあ……フゥが近くに来たからクレアが見えるようになった、のか?だとしたら、クレアの“依り代”って何なんだ?」

「ん、あぁ……多分これなんだろうなーと思って持ってきてたヤツが……あった、このストラップなんだけどさ……」


 そう言いながら、フゥがポケットから取り出したのは、花のチャームが付いた小さなストラップだった。


 いや人の“依り代”をポケットに入れるなよ……。


 なくしたりしたらシャレにならないぞ。


「てなわけで、これはクレアに渡しておこう」

「……あ、ありがとう……」


 フゥが“依り代”を手渡すとクレアはどことなく、嬉しそうな表情を見せる。


 多分、これで実体を得たんだろうけど……特にどうといった変化はないんだな……。


「ん、それはそうと……途中から話が逸れたわけだが、何か質問とかあるか?」


 フゥがシエラにそう尋ねた。


「……今は、特にこれといったものはないですね……」


 ……その割にはまだ気になってることありそうな表情してるけどまぁ、今じゃなくてもいいってことか。


 そんなふうなことを考えていると、ずっと黙って話を聴いていたキリカが────


「とりあえず解ったことは、フゥ君はクレアちゃんのことが好きだったんだね!」


 ────何の躊躇もなくそう言った。


 今までの話の何を聞いて出てきたんだその答えは!?


 あとそれ、普通に訊いていいことか……?


「んー……それは少し違うな」


 フゥはそれを否定する。


 フゥの言葉に一瞬、先程のような鋭さを帯びたような気がした。


「えっ……」


 クレアが驚いた表情を浮かべる。


 その様子にフゥはあまり気にしている様子はなかった。


 その代わり、普段と違いどこか優しげな笑みを浮かべている。


「“だった”ってのは、過去を表す言葉だろ?……俺が何のために行動したか、考えてみろよ」


 何のために、か……。


「つまり?」


 答えに気付いているキリカがわざとフゥに言わせようとする。


「俺が言うわけねぇだろ?」


 そう言ったフゥの顔が心做しか少し、赤いような気がした。


 ────要はまだ、気があるってことか。

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