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Raison D'être  作者: 澪音
Ⅰ.すべての始まりは──── その①
6/47

Page.5「約束の刻」

今回少々長くてすみません……

((。´・ω・)。´_ _))ペコリ

 フゥの“能力(ちから)”を借りて、俺は教会へと“跳んだ”。


「……っと、着いた……」


 昼間のときとは違い、“転移酔い”は起こらなかった。


「────ノア、さん……?」


 背後で声が聴こえた。


 振り返るとやはり夢のときと同様に、シエラがそこに居た。


「ん、当たりだ」

「……良かった……逃げ切れたんですね」


 シエラはそう、安堵の声を漏らす。


 とりあえず────


「……人と話すときは、ちゃんと相手の顔を見て話そうか」


 ────夢のときと全く同じことをしておく。


「なっ……?!だ、だから、なんでフードを、外すんですか……!!」


 シエラはやはり、顔を真っ赤にしてそう言った。


 全然学習しないな……。


「それが普通の礼儀だろ……でもまぁ、あんなに大勢の人の前ではムリかもしれないけどな」


 少なくとも、話す相手が少数のときはフード、外した方がいいだろう。


「……そういえば、後ろの(かた)、は……」


 ────と、シエラは俺の後ろに声を掛けた。


「なんで少し離れてるんだ?」

「それは俺が訊きたいな。クロエが当代の聖女と同じ領域に、どうして入れてるんだ?」


 フゥが不思議そうに訊く。


 どういう意味だ……。


 質問の意図が汲み取れず、首を傾げる。


 ……本来なら、入れないのか?


「えぇと……貴方は一体、誰……なんですか……?」


 あっ、無意識にシエラのことを無視してしまっていた。


「俺か?俺の名前はフゥ・ティーグル。まぁ、クロエから話を聞いてるなら、分かるはずなんだがなー?」


 フゥがそう言うと、シエラの表情が少し、固まった。


「まさか、“悪魔”……?」


 フゥの話を聴いたあとだと、“悪魔”っていう認識が少し薄れるな……。


「正解、といったとこ────!」


 フゥが突然、何かに気付いたようで、勢いよく振り返った。


「……へぇ、気付いてたみたいだな。さすがは神父、とでも言っておこうか?」


 フゥが少し、煽るような口ぶりで言う。


 その視線の先には、長身の男が立っていた。


 手には拳銃が握られており、銃口は真っ直ぐ俺の方に向けられている。


「……今すぐその方から離れてください。そうすれば、撃ちませんよ」


 脅し、か。


 そんなことを考えながら、俺はシエラに被害が及ばないよう、立ち位置をほんの少し変えた。


「生憎、俺は脅しが効かないんだよな……撃ってきたとしても、別にどうとも……」


 ────乾いた音が、教会中に響き渡る。


「ひっ……!」


 シエラが小さな悲鳴を上げた。


 ……あーもう、厄介だなぁ……横に避けておいて正解だった。


「……本当に撃ってくるのかよ」


 ちゃんと、気付かない程度には離れただろ。


「私は、嘘は吐きませんので」


 正直者で何より、だな。


 それはそうと……


「……銃弾がどこにいったか、疑問に思わねぇの?」

「一体何、を……なっ……!?」


 俺が少し挑発気味に言うと、神父がようやく、気付いた。


 先ほど神父が放った銃弾は、俺に届くことはなかった。


 それはなぜか。


 放たれた銃弾は、ちょうど俺の頭上辺りで“静止”していた。


 初めから神父は当てるつもりなどなかったようだが、最悪の可能性も考慮して、俺自身の“能力”を発動させたのだ。


「“物体操作”、ですか……」

「それだけじゃないんだけどな、俺の持ってる“能力”は」


 まぁ、今は使う気なんて無いけどな。


「……ノア、さん……貴方は……本当に、何者なんですか」


 シエラが不安そうな声を掛けてくる。


 何者、か。


「んー……まぁ、強いて言うなら、“命知らずの変わり者”、といったところかな……」

「……“変わり者”って……自分で言ってしまうんですね……」


 ここに来る前にフゥ達とそんな感じの会話を交わしてたからな……。


 この際、神父を無視して話を進める方が手っ取り早い、か……。


「さて、それじゃあ本題といこうか……もう一度、昨日と同じことを訊くようで悪いけど……」

「な、なんでしょう……?」


 何を言われるのか、察しがついている様子のシエラは恐る恐る、そう尋ねる。


「────もし仮に、外に出られる可能性があるとしたら、君はどうしたい?」

「……っ!……それ、は……」


 シエラが少し動揺するような声で言う。


 やっぱり、迷ってるか……。


 まぁ、当然か。


「……他人(ひと)の意思に左右されるなよ。……俺はシエラに訊いてるんだ。シエラの意思で、本心で答えてくれ」


 と、俺がそう言うと……


「────貴方は……“またしても”この街から聖女を奪うつもりですか!!」


 神父の声が響く。


 おぉ、びっくりした……いきなり怒鳴るなよ……。


 突然のことに驚いたせいで、ずっと空間に静止(とど)まっていた銃弾が音を立てて床に落ちた。


「……“またしても”……?一体、何の話だ……?」

「あー……それはまだ話してないな……」


 俺が疑問を口にすると、先ほどからずっと黙っていたフゥが、何やら気まずそうな声を上げた。


「フゥ、お前……まだ俺に話してないこと、あったのか……?」

「いや、意図して話さなかったわけじゃねぇから。ただ単純に、忘れてただけだ」


 忘れてたって……。


「まぁ、それは帰ってから話してやるよ。お前はお前のやるべき事を……約束を果たせよなー?」


 分かってるよ、そんなことは。


 ……そういえば。


 なんでフゥは急に俺の呼び方が『お前』になってるんだ……?


 ……それもあとで訊くか。


「フゥ……まさか、フゥ・ティーグル……?!」


 唐突に、神父が驚きの声を上げた。


「神父は俺のこと知ってるのか……なんか、意外だな」


 ……マジか。


「……有名、なんです?その……“悪魔”さん……」


 先ほどまで少し動揺していたシエラは、いまいち話についてこれていないらしく、首を傾げていた。


「まぁな……そろそろ俺の質問に答えてくれてもいいんじゃないかな?……シエラの本心で」

「私の、本心で……」


 シエラはそう言うと、首から下げている二つのペンダントうちの一つを持ち、そのチャームを徐にぎゅっと握りしめた。


 そのペンダントは昨日、俺がシエラと約束を交わす際に渡したものだった。


 もう一つの方は……恐らく教会の人間(ひと)から貰ったものだろう。


「……そんなものがあるなら……出来ることなら、その可能性に賭けたい、ですね……」


 ────と、シエラも昨日と同じ言葉を口にする。


「……ですが、多分……無理ですよ……」


 ────が、次の瞬間にはもう、表情を曇らせていた。


「理由、訊いてもいいか?」

「……私は、この礼拝堂からは()()()()()んです。……他人(ひと)の意思とかは一切関係なしに、です」


 出られない?


 ……あぁ、そうか。


「“結界”のことを気にしてるのなら、別に大丈夫だぞ」

「……え?」


 まぁ、俺が何とかするわけではないんだけどな。


 何とかするのは……


「────そうだよな、フゥ?」

「急に話を振ってきたな……まぁ確かに、俺はお前をここに連れてくるってこと以外にも、用事があったわけだけど、な?」


 ────と、フゥはそう言うと左手を前に突き出し、何かを呟いた。


 すると、ガラスが割れるような音が目の前から聴こえてきた。


「……こんなもんか……これで“結界”はなくなった。同時に、当代の聖女が外に出れない理由も無くなっただろ……そういえば、神父は俺のことをどういう感じで知ってたんだ?」

「……フゥ・ティーグル……“堕ちた聖人”……そして今は“悪魔”、だと」


 目の前で起きた光景に呆気に取られたからか、神父は素直にそう答えた。


 俺がさっきフゥから聴いた話と同じことを言ってるから、間違いでは、ないな……。


「“堕ちた聖人”……ということは、“悪魔”さんは“聖人”、なんですか……?」

「正確には“()聖人”な。……今の俺には、そんな感じで呼ばれる資格もないし呼んでほしくもない」


 フゥの声色が少し低くなった気がした。


「……まぁ、さっきも言ったけど俺は俺で用事があるんだよな……“結界”を壊したのはただのついでだ。……で、いつまで“傍観者”を続けるつもりだ?」


 最後の一言は、俺達に向けられたものではなく、その後ろに向けてのものだったようだ。


 俺達の背後……ちょうど、ステンドグラスの真下辺りに、女性が一人、居た。


 見た目年齢は……フゥと同じくらいの。


 だが、その身に纏う雰囲気だけは、この場に居る誰よりも神秘的なものがある。


「だって、どうせ誰も気付いてくれないじゃないですか。……シエラは、例外として」

「相変わらず消極的だなークレアは」


 どうやら“クレア”という名前らしい。


「えっと……その人は?」


 いきなりすぎて全然理解が追いついてないんだが。


「……あー……なんて説明するのが正しいかな……まぁ、“()聖女”で今は“女神”、といったところか?」


 なんか、新たな役割が増えたな……?


 いや、フゥの話の中で出てきてたか。


「“女神”……なるほど、ね……」

「ん、あまり驚かないんだな……さっき話したからか」


 フゥは薄ら笑みを浮かべながらも、納得したようだった。


「まさか、話したんですか。貴方がしたこと、なぜそんなことになったのか……」

「話しておいて正解だと俺は思うんだけどなー?」


 いつも通りの口調でフゥは言う。


「俺は……フゥが話してなかったとしても、絶対に約束を果たしてたと思うぞ……」


 ────と、俺がそう言うと……


「────貴方は、この街から“象徴”を、“理想”を……消し去るつもりですか!!」


 ハッとしたように、またしても神父の怒声を上げた。


 今の反応、絶対忘れてたような気がする。


 けどそんなことはどうでもよかった。


 なぜなら、今の神父のその言葉は────


「……ふざけんな」


 ────俺の怒りを再び呼び醒ますには十分だったから。


「“象徴”とか“理想”とか、そんな面倒なものを、一人の女の子に何もかも押し付けてんじゃねぇっ!!もし仮に、何かを犠牲にしなきゃならないことがあるのなら、それだけの覚悟があるヤツにその“役割”を与えてやれよ!何も知らない、知ることすら許されないような状況に、これ以上シエラ(この子)を追い込むなっ!!」


 俺の声が、教会内に響き渡る。


 その声に神父が一瞬、怯んだような気がした。


 ────もしかすると、ここまで声を荒らげたのは、これが初めてだったかもしれない。


「ノア、さん……」


 シエラが少し、怯えたような声を上げる。


 まぁ、無理もないか……。


 そんなことを考えていると、フゥが────


「へぇ……お前にもさすが、と言っておくべきか。……やっぱ話しておいて正解だったな」


 ────と、軽く笑いながら言った。


「なに、が……」

「ん、まぁ……色々と、だな」


 はぐらかされた。


 家に帰ったら全部、話してもらうからな?


「……さて、一応神父に訊くけど、まだ、聖女を引き止めるか?……ちなみにあともう一度、同じようなやり取りをした場合、今度はお前の命が危ない思うけどな」


 フゥが神父に対してさらっと、とんでもないことを口にした。


 確かにさっきの勢いがまだ続いているならまぁやりかねない、かもしれないけど……。


 ────また同じような“罪”を重ねるだけだろうから。


「……恐らく、そうなるでしょうね……はぁ……どうやら、少し勘違いをしていたようですね、私は……」


 神父がため息混じりに言う。


「……勘違い?」

「『他人の空似』、なんですかね。……にしては少し、違和感があるような……ないような?」


 どっちだよ。


 ────『他人の空似』。


 なんか、また新たな疑問点が増えたな。


「……なぁ、神父。一つ、“興味深い言葉”を教えといてやるよ」


 フゥが唐突に何かを思いついたらしく、相変わらず、薄ら笑みを浮かべながらそう言った。


 フゥがあの笑みを浮かべるときって大体、何かしらの“面白いこと”を思いついたときなんだよな……。


「……なんです?」

「その微妙な“違和感”をなくすためのヒントみたいなもので『蛙の子は蛙』っていう言葉がある。意味はまぁ、自分で調べろよ?じゃなきゃ、()()()()()からな」


 この辺りでその言葉の意味を調べられる書物を置いてあるところなんて、あるか……?


 図書館かあるいは……俺の家か。


 まぁ、そんなことよりも────


「……そろそろ行かないと、本気でマズいんじゃないか?」


 ────ステンドグラスの影が、徐々に、“紅く”なってきている。


 家に帰るのに僅かな支障が出るのは仕方ないかもしれないけど……。


 あの()()()、絶対増えてるだろ……。


「それもそうだな……とりあえず、そこの聖女と“女神”は回収確定な」

「回収って……人を道具みたいに言わないでって、前にも言ったのに……」


 フゥの言葉に、“女神”ことクレアが文句を言う。


「前って、相当昔だろ……俺が普通に“人間”やってたときだろ、嫌々ながら」

「“人間”っていうのが職業みたいに……ていうか、嫌々やってたんですか……」

「俺があまり人を好いてないこと、クレアは知ってるだろ」

「なんでまだ“人間嫌い”克服してないんですか。大体、貴方はいつもいつも……」


 ────などと、フゥとクレアは終わらなそうなやり取りを始めた。


 仲良いんだな、あの二人。


「……あの二人は放っておいても、大丈夫そうだな」

「そう、ですね……あの、ノアさん……」


 シエラが、俺に声を掛けた。


「ん?」

「……あ、いえ……何となく、呼んでみただけ、です……」

「……やっぱり、まだ気になるのか?外に出ていいのかどうか、とか」


 本当に何となくで名前を呼ぶなら普通、そんなに不安そうな表情、浮かべないだろ。


 どうやら俺の予想は当たっていたらしく、驚いた表情を浮かべたシエラは俺の顔を見ながら、コクっと頷いた。


「だったら、許可を貰えばいいと思うけど?」

「だ、誰に……ですか?」

「誰って、そりゃあ……」


 ────と、俺はそう言いつつ、神父の方へ視線を向けた。


「……なんですか」

「機嫌悪そうだな」

「当たり前ですよ……新たな聖女もしくは聖人を、次の“お告げ”の日までに探さないといけないんですから…………自分から進んでやる方なんて居るんですかね……貴方の言うような方が」


 神父が不機嫌そうに言う。


 遠回しっていうほどでもないけどまぁ……


「良かったなシエラ。許可、貰えたぞ」

「えぇ……今ので、大丈夫なんですか……?」


 シエラが神父に、恐る恐る尋ねる。


「……いいですよ。……そこの青年の言う通り、一方的に聖女という役割を貴女に押し付けたのは、私達なんですから。……これからは、好きに生きてください……まぁ、“変わり者”には、くれぐれも気をつけてください。何をされるか、解りませんので」

「おい俺を見て言うなよ。何もしないっての……」


 逆に何するんだよ。


「一件落着、といったところか?」


 フゥが突然、話に割り込んできた。


「……一件落着でもないだろ。どちらかといえば、今からの方が問題だろ」


 『一難去ってまた一難』、だったか……この状況を表すのに適切な“教訓”……東の国の人ってすごいな…………状況に適した言葉をよくもまぁ、たくさん作ったよな……。


「なにか、あるんですか……?」


 何も事情を知らない様子のシエラは首を傾げていた。


「とりあえず、俺の家に帰るわけなんだけど……道中が厄介ってとこだな」


 ()()()の数が未知数だ……。


「なら、裏口を使えばいいのでは?……裏の通りに出るはずですから、そこなら数はゼロとはいかないまでも、少ないはずです。それに……貴方には、心強い“味方”が居るはずですが?」


 神父がそう言……いや、なんで知ってるんだ?


「あぁ……これは勘ですよ、ただの」


 ────と、神父が付け加えるようにして言う。


 だとしたら相当怖いんだけど。


「なぁ、神父。本当はお前……」


 “こうなることを、知ってたんじゃないのか”。


 そう言おうと思ったけど、敢えて言わなかった。


「……いや、やっぱりなんでもない」


 正確には、言う気になれなかったのかもしれないけど。


 そんなことを考えながら俺は────


「それじゃあ、行くか。本当に危なそうだし……ほら」


 ────と、シエラに手を差し出した。


「……っ!」


 するとシエラは、僅かに迷ったような表情を浮かべた。


 ほんの少し待つと、おずおずとではあったが俺の手を取った。


「立てる?」

「大丈夫、です……」


 ずっと同じ姿勢だったのか、立ち上がらせると、少しふらついているようだった。


「少し動けば、マシになります、から……」

「その様子で言われてもすごく不安なんだけどな……」


 まぁ、シエラに負担が掛からない程度に急ぐか……。


 さて、このまま考えてても仕方ない。


「────よし、行こう」


────────────────────


 教会の裏口を使って外に出ると、神父の言っていた通り、裏の通りに出た。


「なぁクロエ、この通りから家に帰る道、分かるのか?」


 教会の外に出た瞬間にフゥの、俺に対する呼び方がいつも通りに戻った。


「さぁな。昼間来たときの道は、何となくなら、覚えてるけど……」


 表の通りだったしな……今は()()()が大量発生してると思うし。


「クロエ……自分の家の道くらい覚えとけよ」

「俺が外に出たがってないこと、知ってるだろ。ついでに言えばフゥもそうだろうが」

「ノアさん……もう少し外、出ましょうよ……私よりは自由なんですから」


 シエラが小さな声で言う。


 なんで俺だけが責められないといけないんだよ。


「今……というか、これからは違うだろ?」

「ん、まぁ確かにそう、ですけど……」


 にしても、意外だったな……神父が思いのほか早く許可出してくれるとは。


 “規則”は、単なる“脅し”の一つだったのか……?


 ……まぁ今考えたところで、何も変わらないだろうし。


 何か起こるとすれば、明日以降だな……。


 仮に問題が発生するのなら、そのときにでも対処すればいい、か。


 そんなことを思っていると突然、シエラが立ち止まった。


「────ひッ……なっ、なんですか……アレ……」


 ────震える声で言葉をどうにか零すシエラの視線の先に、目の前に、居た。


 できるだけ遭遇率を下げたい“アレ”が。


「人では、ない……ですよね……?」

「“人ならざるモノ”……まだ、存在していたんですか」


 フゥに手を引かれていたクレアが、警戒心を露わにする。


「まだってことは、フゥ達が普通に生きてたときから居たんだな……」

「あー……あのときは俺らで対処してたんだけどなー。途中から数が多すぎて対処しきれないことの方が多くなったんだよな……とりあえず走るか」


 まぁそうなるよな、普通。


 ー数分後ー


「追ってきてる数、増えてませんかっ!?!」


 シエラの声から焦りの色が見える。


 足は、大丈夫になってるな……良かった。


 けど今は、そんな悠長なこと考えてる暇なんてない……!


「立ち止まったら、死ぬぞ……あっ……」


 確かこの辺り、は……昼間に通った道……だから……!


 この辺りになら、居るはずだよな……?


 主人の居場所は分かって当然、なんだろ?


「────キリカ!!」


 俺が“味方”の名前を呼んだ、そのときだった。


 背後で銃声とこの世のものとは思えないような声がたくさん聞こえた。


「“お仕事モード”のキリカをからかうの、やめるべきか」

「いや……そもそもあまりからかえるような状況じゃなかっただろ、家に居たときって」


 お前もかなり困惑してただろうが……。


「何か、ありましたか?」

「「いえなんでもないですっ!」」


 背後から聴こえた声に対して、俺とフゥの声が重なる。


 “お仕事モード”のキリカって妙に怖い……。


 「……どうやら、ちゃんと連れ出せたみたいですね……()()()()の方も」


 ……あ、呼び方が変わってる。


「珍しいな、キリカが俺のことを名前で呼ぶなんて」

「昼間の私はちゃんと名前で呼んでるじゃないですか……」


 昼間のキリカと夜間のキリカは全くの他人だと思ってるのは、俺だけだろうか。


「昼と夜での性格の差が激しすぎて、もはや俺の中では別人扱いなんだが」


 フゥも同じだったか。


「同一人物ですよ!」


 わずかに頬をぷくっと膨らませて不満そうな仕草を見せる。


 ……普段のキリカっぽい部分は一応、あるんだな。


 フゥとキリカのやり取りを眺めていると────


「あの……ノア、さん……」


 ────シエラが俺に声を掛けてきた。


「ん、どうかしたか?」


 少し、俺を呼ぶことを躊躇ってるよな……中途半端な間があるし。


「い、いえ……あとで、ノアさんの家に着いたら、言うことにします」

「お、おぉ……?まぁ、シエラがそういうのなら、今は何も訊かないでおくけど……」


 先程と違って呼ばれた理由が分からなかったから俺は仕方なく、そう答えた。


 そういえばキリカは俺達を追いかけてきてた()()()、全滅させたんだな……。


 よくよく考えたら今、普通に歩いて帰ってるし。


 ────いやでも、道中に遭遇しないっていうのは……ないだろ。


 なんで急に出てこなくなった……?


 何が“原因”で……?


 ……分かるわけ、ないか。


 そんなことより今は……


「キリカ、服がかなり大変なことになってるから、家に着いたらちゃんと着替えろよ?」


 ずっと気になって仕方のない、キリカの服のことを指摘しておく。


 さすがに灯りで照らされると目を引く……。


「分かってますよ。こうなってしまうのは、仕方ないんでしょうけど……“人型の化物”を相手にしてますから、ね……」


 辺りが暗いところではあまり気にしてなかったが、街頭の灯りで時折照らされるキリカの服には返り血と思しきモノが、大量に付着していた。


「えっと……キリカ、さんが持ってるそれって……拳銃、ですよね……?何か……私の知ってるモノと少し違う気も、しますけど……」


 唐突にシエラがキリカの手にしていた“武器”に興味を持ったようだった。


「ん、コレですか?コレは“銃剣”というもので、こうやって振ると……」

「あっ……剣になった……!」


 シエラが驚きの声を上げる。


「でも、いまどき珍しいよな……今は拳銃の方が使う人、多いんじゃないか?」


 フゥが興味深そうに言う。


「まぁ……確かにそうかもしれませんが、拳銃だけだと、もし仮に弾切れが起こった場合、それまでじゃないですか。ですが銃剣なら、銃の方が使えなくても剣の方で応戦ができるでしょう?その方が便利じゃないですか」


 ん、確かにそうかもな……俺は使う機会、ないけど。


 そういえばあの銃剣……十字架みたいなものが、彫られてるなぁ……。


 さっきの神父が持ってた拳銃にも、あったような気が……?


 などと考えているとようやく、見慣れた家が見えてきた。


「お、着いた」

「ここが……ノアさんの、家……」


 シエラが興味深々な表情をしている。


「どこにでもある普通の家だと思うけど?」


 あぁそういえば……シエラはずっと教会の中に居たから、“普通の家”がどういうものなのか、知らないのか。


「やっと着いたかー……はぁ、疲れたー」


 ────と、家の鍵をキリカから受け取ったフゥはそんなことを言いながら、玄関のドアを開けて、中へと入っていった。


 その後ろを、クレアとキリカが続いていく。


「さて、俺達も中に入ろうか」

「……そう、ですね」


 ────こうして、長かった一日がようやく、終わろうとしていた。

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