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Raison D'être  作者: 澪音
Ⅰ.すべての始まりは──── その①
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Page.4「作戦会議」

 フゥの言っていた“昔のこと”について、話を聴いた。


「────ふざけんなよお前……それ、冗談で言ってるわけじゃ、ないんだよな?」


 聴き終えたあと、俺の中で徐々に“怒り”が膨れ上がっていった。


「さすがに冗談でこんな話、できるわけ……それに、言っただろ?『俺の二の舞には、絶対にさせたくない』って」

「……っ!」


 あぁ、確かにそう言っていた。


 だとしたら……もしフゥの言ったことが事実なんだとしたら……このままだと、シエラ(あの子)は……


「……同じ“過ち”だけ、は絶対に繰り返さない……。それ、だけは“あの日”に、俺自身に誓ったこと、だから、こそ、俺は、クロエに協力、するから……とり、あえず、胸ぐらを掴むの、やめろ……割、と、苦し、ぃ……」


 どうやら俺は怒りに身を任せ、フゥの服の胸ぐらを掴んでいたらしい。


「悪い……少し、感情的になった」

「……それが、普通の反応だと思う、ぞ……」


 フゥはそう言うと一度だけ、大きく咳き込んだ。


「……クロエ君みたいに本気で怒るような人が世の中にはあまり居ないからね……正直、クロエ君がそういう反応を見せてくれて、私は……安心、したかな……」


 部屋の奥からキリカが出てきた。


「キリカは……知ってたのか?」

「じゃなきゃ、席を外したりしないよ……ねぇ、クロエ君は私の“もう一つの職業”のこと、知ってるよね?」


 キリカの“もう一つの職業”……あぁ。


「────“悪魔狩り”、か」

「……そう。だとしたら疑問に思わなかったかな?どうして私は“悪魔”であるフゥ君と仲良くしてるのか、ってね?」


 確か、俺がまだ子どもだった頃に一度だけ、父さんに訊いたことがあったような……。


 覚えてないところをみると、多分はぐらかされたのかもしれないな……。


「つまり、“悪魔”とはいっても、フゥ君はその中でも“例外の悪魔”なんだよ」


 ……なるほど。


「朝にフゥが、『もうとっくに死んでてもおかしくない』って言ってたのは……それが理由だったのか」

「まぁ、そうだな。今更、どうとも思わないけど……それで、クロエはどうしたいんだ?」


 なんか、既視感あるな……。


 俺は……どうしたい……?


 フゥの話を聴いた上で、どう思った……?


 ────答えはもう、決まっている。


「尚更、あの約束を果たさないといけないな……」

「……うん、クロエ君らしい答えだね!」


 キリカのテンションが元に戻ったようだった。


 そういえば……


「なぁキリカ……今日って満月、だったか……?」


 ふと気になり、キリカにそう訊いた。


「んー、そうだね!今日は満月でら……あ……」


 キリカは窓の外に浮かんでいる月を見ながらそう言った。


 “何か”に驚いた様子で。


「月が……()()……もしかしてクロエ君、知ってたの?」

「……大体三ヶ月くらいの間隔で“紅い”月が出てるっていうのはまぁ、気付いてたな」


 俺が一昨年くらいからずっと観測していて気付いたことだ。


 前に“紅い”月が見えたのはちょうど三ヶ月前だったから、おそらく今日か明日くらいには見られると思っていた。


 それで、キリカがどうして驚いたのかといえば……


「……“人ならざるモノ”が動き出す頃、だね」

「クロエが約束を果たすって言ったタイミング、相当悪いな……」


 ……この街には“規則”の他にもう一つ、不思議な“現象”が起こる。


 “人ならざるモノ”が街中を徘徊し、出遭った人間を殺してしまう、といったものだった。


「アレ、人の形してる割になんか……呻き声、発してるよなー」

「どこか他の国では()()()、って言われてるんだっけ……?ああいうのって……」


 キリカがボソッと言った。


「前にキリカ、俺が読んでた本何冊か借りていってたけどアレ全部、『魔人獣図鑑』だったのか……?」


 異国の本だけど、あれは図とか絵が多いからまぁ、読めなくても多少は大丈夫か……いや、ちょっと待てよ……


「てか、()()()って書いてあった項目、読めたのか?」

「あ、えっとね……読み仮名が書いてあったんだよ、あの本だけ……字からすると、クロエ君のお父さんが書いたんだと思うよ?」


 父さん……読み仮名を振るのはいいけど、本に直接書かないでほしかったなぁ……?


「ん、話が逸れたな……とりあえず、厄介な問題が一つ増えたんだよな……どうやって教会に向かおうか……絶対に出遭うだろ、アレと」

「まぁ、俺の“能力(ちから)”使えば何とかなるだろ」


 今日だけで既に一度使わせてしまっている。


 さすがに申し訳ない気持ちになるな……。


「あ、ちなみにあと一回しか使えないからなー」


 うわ最悪だ……。


 家に戻るときは、どうすればいいんだ……。


「────お困りのようでしたら、(わたくし)にお任せ下さい」


 キリカの声がした。


 先ほどまでと全く違う雰囲気を纏っている。


「“お仕事モード”のキリカ……」

「はい、なんでしょうか?“悪魔”さん?」


 キリカは“お仕事モード”になると、人の呼び方すら変わるんだった……。


「い、いや……なんでもない」


 いつもと違うキリカに、さすがのフゥも困惑しているようだった。


「そうですか。……ではクロエ様、指示を」

「とりあえずその呼び方を何とかしてくれ」


 何度もその指示だけは真っ先に言うんだけどな……一向に変える気配すらない。


「そうは言われましても、クロエ様は私の仕える(あるじ)です。ですから、変えるつもりは毛頭ございません」


 ついに言い切ったな……。


「クロエ、諦めろ……今のキリカに何言っても無駄だぞ」

「“悪魔”さんの言う通りです。ですので、何か別の指示を」


 なんでこういうときだけ意見が一致してるんだよ。


 何か、別の指示……なら────


「……少し、考えを整理したい。だからまぁ、紙と……何でもいいから書くモノ、貸してもらえるか?」

「かしこまりました」


 ────俺がそう言うと、キリカは奥の部屋に入っていった。


「はぁ……“お仕事モード”のキリカだと調子が狂う……」


 フゥが疲れたような表情を浮かべる。


「持ってまいりました」


 いくらなんでも早すぎるだろ……。


 落ち着く暇もないじゃないか。


「……ん、助かる」


 ────と、俺はキリカから紙とペンを受け取ると、いくつかの“可能性”を書いていく。


 ー数分後ー


「ん、できた」

「これは……“樹系図”、ですか?」

「そう。この方が起こりうる“可能性”を書いた上でどう行動するかを考えられる。それに、途中で変えられるしな」


 何かたくさん考えないといけないときには、いつもやることだ。


「あまり時間掛けすぎると、状況が悪化するからできるだけ早急に済ませたいな……」

「教会の扉に鍵は掛かってないと思うぞー」


 フゥが樹系図に書かれた“可能性”を見ながらそう言った。


「そうなのか?」

「いや普通に考えても教会に乗り込むヤツなんて、よほど頭おかしいヤツだろ」


 その頭おかしいヤツの中に俺は含まれるんだけど……。


「……“人ならざるモノ”が教会に侵入することは、ないのでしょうか?」

「ん、それはない。俺が保証する」


 フゥが断言した。


「……ん、もうすぐ二十二時三十分……行くしかないか」


 約束の時間自体に期限はないけど、遅すぎてもシエラに悪いし。


「ではクロエ様、指示を」

「ん、じゃあ……俺が家に帰る道中の護衛、かな……どこに居るかは、分かるんだろ?」

「使用人ですので、当然です」

「いやもう、使用人の域を越えてるだろ」


 フゥの反論に思わず納得してしまう自分が居る。


「……では、その指示を遂行させていただきます」

「ん、ついでにもう一つ追加。……“人ならざるモノ”をできるだけ多く、排除してくれ」


 何かしらの被害を最小限に抑える程度のことなら、できるだろう。


「────かしこまりました。直ちに排除に向かいます」


 急に生き生きとしだしたキリカはそう言うと、そのまま部屋を出ていった。


「さて、俺らも行くとするか」

「そう、だな……」


 俺の反応を疑問に思ったのか、フゥは俺の顔を覗き込みながらこう問い掛けてきた。


「何か心配事でもあるのか?」


 ……本当、何でもお見透しかよ。


「……昼間、俺達にシエラは危険を知らせただろ。……そのことで、何か問題とか起きてないかな、って……」

「あー……いや、それも大丈夫だろうな……」


 フゥが少し考えながら言う。


「なんで、そう言い切れるんだ……?」

「あの“礼拝堂”の中央には誰も入れない。……俺が“何者”なのか、クロエはもう、知ってるだろ?だとしたら、どんなことができるのか、大体分かるはずだ」


 ……そうだった。


「……なるほど。フゥがそう言うなら、安心だな」

「俺のこと、信頼してんのな」


 なんだかんだ言って十年以上一緒に住んでるんだし、さすがに信頼してるぞ……。


「まぁな……よし、行こう!」

「ん、じゃあ……向かう場所は“教会内部”、でいいな?」


 フゥはそう言うと、俺に手を差し出してくる。


「あぁ、そこでいい。……帰りが大変だろうな……」

「まぁ、キリカに何とかしてもらえるんだろうし、大丈夫だろ」

「上手くいくといいんだけどな」


 などとそんな会話を交わしつつ、俺はフゥの手を取った。


「「せー、の!!」」

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