Page.41『皮肉屋 - ②』
新年、明けましておめでとうございます……!
今年からまた活動再開したいと思いますので何卒、よろしくお願い致します……!!
「ん、もうそろそろいいかな〜?」
あらかた朝食を食べ終えたところで、ロプトが口を開く。
「何が」と俺が尋ねる前にロプトは軽く右手を上げ、フゥが“転移術式”を使ったときと同じようにパチンと指鳴らした。
するとポンッと軽やかな音とともに────
「ん、あれ……?」
────シエラの幼い容姿が本来の、俺と同い年くらいの容姿に戻った。
「……ぇっ、あ……もしかしてもう朝ご飯食べ終えちゃいました……?」
キョトンとした表情を見せるシエラに、ほんの少し申し訳なさそうにしながら一同頷いて返答する。
「空腹感とかは、大丈夫なのか……?」
「う〜ん……お腹空いてるわけではないけど、お腹いっぱいっていうわけでもないかな……」
「でもあのガ……あの子は『お腹いっぱい』って言ってたぞ?」
ガキって言おうとして止めたな今……配慮はちゃんとできるんだよなぁコイツ……。
にしても、かなりお腹が空いてるってわけではないんだな……『シエラ・ホワイトが朝ご飯を食べた』という事実はそのままなのか。
「それは純粋に、身体の大きさの問題だろうなぁ〜」
ロプトが推測を述べる。
……そういうものなのか。
「物足りないようなら、もう少し取りに行っても大丈夫だぞ?……あー、というか俺がもうちょい取りに行きたい……足りない……」
フゥはそう言うと席を立ち、そそくさと行ってしまった。
先程まで満足そうにしていたはずなのにまた取りに行く辺り、フゥなりの気遣いだろう。
……いや、俺が記憶している限りフゥは昔から『燃費が悪い』とかなんとか言ってその都度おかわり貰いに行くタイプだったような……。
「俺も取りに行こうかな、さっきクローに取られたパンの分まだ胃は空いてるし」
「まだ気にしてたのか……」
……気にしないわけがないんだよなぁ???
「“食べ物の恨みは恐ろしい”って聞いたことないか?」
自分なりに悪そうな顔を浮かべて嫌味とともに投げておく。
「ひぇっ……」という短い悲鳴が一瞬聴こえた気がしたが無視してパンを取りに向かう。
さっきはクロワッサンを二つ取ってそのうちの一つをクローに取られたからなぁ……よし、今度は甘系のジャムパンにしよ……あ〜でもアンパンってのもどんなのか気になる……う〜ん、悩むなぁ……!
「わ、私も行く……!」
脳内でパンを選んでいるそんな俺の後ろを、ガタガタと慌ただしくシエラが追いかけようとしている。
「そんな慌てなくても……ほかに誰か行くか?」
シエラを待つついでに残る三人にも訊いておこう。
「ん〜……私はお腹いっぱいだからやめとこうかな……」
「俺も大体満たされたしこの辺でやめとこ〜」
「もう野菜食べたくないからパスー」
「あぁそう……」
『満腹だから』は納得するけど『嫌いなものを食べたくないから』って理由のヤツ混じってたなぁ……まぁ人それぞれだし放っておこう……。
そんなことを考えながらシエラとともにフゥのあとを追いかけた。
───────────────────
フゥ君の後を追う形で食堂のパンのコーナーに来て数分、クロエ君は悩んでいる。
「う〜ん……」
「お、シエラだけじゃなくてクロエも取りに来たのか。……なんか悩んでる?」
険しい顔をしているクロエ君を眺めていると、お盆の上にいくつか料理を載せてきたらしいフゥ君がやって来た。
「あ、フゥ君……今クロエ君は、パンをどっちにするかで悩んでます!」
私が説明をするとフゥ君は呆れたような顔をしながら「……どっち選んでも変わらんだろとかは禁句か」と訊いてきたけどもう既に口から溢れちゃってない……!?
「……ちなみに五分ほど経ったよ」
「めちゃくちゃ悩むじゃん。ちなみにシエラは何も取ってないみたいだけどいいのか?」
フゥ君は私が手にしているお盆にまだ何も載っていないことに気が付いたようで、怪訝な表情をしつつ質問を投げてくる。
「あ、私はその……クロエ君が選ばなかった方でも取ろうかな〜と、思いまして……」
そんなことを言いながら徐々に何だか恥ずかしくなってきてしまった私の様子に、クスッとフゥ君は笑ったかと思えば、腕を組んでうんうん唸っているクロエ君に声を掛けた。
「良いねーそういうの。……なぁクロエ、お前が聞き入れるかは置いといて、解決策の一つとして考えてほしいことがあるんだが」
「ん、おぉフゥか……なんだ?」
「お前とシエラでその悩んでる二つを分ければ結局のところ、食べた量的には『一つ』になるんじゃないか?お前の視線の先にあるパン、どっちも丸いし」
フゥ君の名案ともとれるその意見にクロエ君はハッとして「それだっ!」と嬉しそうに声を上げる。
だけどすぐに何か引っかかったのか、私の方に視線を向けてきて────
「ん……?」
「……俺はそれでいいけどシエラの意思がそこにない気がして」
────不思議に思い首を傾げる私に、少しだけ申し訳なさそうにクロエ君はそう言ってきた。
「え、私は全然それでいいよ?元々はクロエ君の選ばなかった方のパンでも取ろうかなって思ってたから……どっちも気になるしね」
今度はすんなりと言葉が出てきたのでちょっぴり安堵する。
「なら、そうしよう。フゥも要るか?」
ジャムパンとアンパンを一つずつお盆に載せつつ、クロエ君はフゥ君に目線を向けた。
「んにゃぁ俺はいいよ、取ってきた分もあるし。ありがとな」
フゥ君が手にしているお盆にはスクランブルエッグとソーセージが何本か載せられている……凄く美味しそう……。
「相変わらずその組み合わせ好きだなぁ……てか散々食べてたのにまた追加で食べるのか」
「この組み合わせが朝食のメニューでは俺的に一番なんだよ……あと、俺の燃費が異様なまでに悪いのは知ってるだろ」
「医者に診てもらえ」と間髪入れずにクロエ君のツッコミが飛ぶ。
「診てもらってどうにかなるならとっくにそうしてる。ほら、取るもの取ったんなら戻るぞ。アイツらも待ってるだろうしさ」
そう言うとフゥ君はスタスタと歩いていってしまった。
「……まぁそれもそうだなぁ……俺達もそろそろ戻る?」
「うん、パンの味も気になるし!」
初めて口にする種類のパンの味に密かに期待で胸を膨らませ、二人で先程と同じように、フゥ君の後を追うのだった。
───────────────────
元いた席を探していると、俺の姿に気付いたらしい三人がそれぞれ声を掛けてきた。
「ん、戻ってきた」
「フゥ君おかえり〜」
「あの二人は……さてはお前置いてきたな?」
「別にそんなつもりは……って居ねぇ!」
どうやら俺は先に進むことを優先しすぎたせいでロプトの言う通り、本当に置いてきてしまったらしい。
探しに向かうべきか考えていると人混みの壁の中からシエラ達が出てきた。
「や〜っと追いついた……フゥ君早いね〜……」
「悪い、人の隙間縫って進んでたらいつの間にか置いていってたわ……」
「お盆持ったまま人の隙間縫って進むのかなり難易度高くないか……?凄いな……」
何かしら文句の一つや二つ言ってくるだろうなんて思っていたが意外にも真逆でクロエもシエラも感心している様子だった。
……ほんと、どこまでもお人好しなヤツらだなー……。
なんてことを考えているとふと視界に、クローが席に着いたクロエとシエラの手元にあるモノに視線を注いでいるのが映り込んできて。
「なぁ、二人は何を取ってきたんだ?」
……今は別に盗ろうとしているわけでもなく、純粋な興味から訊いてるみたいだな……まぁ確かに、あのフォルムじゃ何のパンかまでは分からないしな。
「ジャムパンとアンパンだよ、中身がどっちも甘系のパンね」
「はんぶんこか?」
「うん、そのつもりだよ〜。えと……クロー君も少し食べる?」
クロエがそれぞれのパンを二つに分けようと試みている隙に、シエラがコソッと尋ねていたがそれに対してクローは僅かに笑顔を浮かべつつも、首を縦に振ろうとはしなかった。
「いやぁ俺はいいよ、そもそも俺がクロエの分のパン勝手に食べたのが原因だしさ。代わりに、味の感想をくれよな」
「わ、分かった……」
そんなやり取りを交わしつつシエラがどうやら半分にできたらしいパンを一つずつクロエから受け取って礼を口にしているのが聞こえたところで、俺は自分のプレートに視線を戻す。
「たくさん食べるねぇ」
「ん、昔から割とこんなんじゃなかったか?」
「食べ終えて少し経ったらおかわり貰いに来てたからうん、こんな感じだったね」
「だろ」
クレアと特に中身のない会話をしながらソーセージにフォークを突き立てる。
……あれ、そういやロプトのヤツやけに静かな気が…………
不意にそんな思考が脳を過り、顔を上げてアイツの居る方を見てみる。
────するとどうしたのだろう、先程まで軽口を叩いていたロプトの面影は消え去り、まるで気味の悪いモノを見ているかのような表情で俺の手元から目線を外すこともなく。
その顔はどこか、血の気が引いているようにも感じられて。
「ぇ……だ、大丈夫か……???」
さすがの俺も気掛かりで、言葉を投げる。
俺の声にハッと我に返ったらしいロプトはコイツにしては本当にらしくない申し訳なさげな表情を浮かべながら静かに口を開いた。
「……あー……言わなかったけどその、俺……ソーセージがダメでさ……ただ食べるのだけダメなら、まだ良いけどやっぱりまだ……人が口にしてるのも…………うッ……」
「ばっ、お前それ先言えよ……!」
話している最中にも、明らか体調に支障を来しているロプトを見たクローがすぐさま駆け寄って立ち上がらせる。
「確か手洗い場、すぐそこだったよな」
「すぐそこの角を曲がったところ、青い人型と赤い人型が隣同士で並んでる看板があるはずだ、頼めるか?」
ロプトの様子に気が付いたクロエが咄嗟にクローにも解るように説明を行い、それをしっかり聞き取ったクローはコクリと頷く。
「青い人型と赤い人型が並んでるのが目印な、それさえ分かればどうにか!」
そして目印の特徴を素早く復唱するとクローは足早にロプトを連れて、クロエが指さしていた方に向かって人波の中に消えていった。
「大丈夫じゃ、なさそうだね……」
「ロプト君にも、ダメなものがあるんだ……」
心配そうなシエラとクレアの言葉を聞きながら俺は少しの間、二人の消えた方向をただぼんやりと眺めていることしかできずにいた。




