Page.36「掴んだ手と込められる意思」
シエラの様子を見に、部屋へと向かう。
怒ってないといいんだけど……。
不安を募らせつつも俺は、一定のペースを保ったまま歩みを進めていく。
にしても、さっきのフゥの質問の意図がさっぱり分からないなぁ……。
あんなふうに訊いてきたってことは、何かしらの意味があるんだろうけど……
あれこれ考えを巡らすうち、いつの間にかシエラの居る部屋の前に辿り着いていた。
「さて……行くか」
こんなことで渋っていても仕方がない。
───そう思う反面、『できることなら一人で謝りたくはない』などとまだそんなことを考えていたわけだが。
その考えを振り切って、ドアを軽くノックした。
「シエラ、居るか……?」
俺がそう声を掛けると、ドアの向こうから微かに音が聞こえてきた。
「……ノア君?」
ゆっくりとドアが開いたかと思えば、シエラがちょこんと顔を出してきた。
「えと……寝てるところを起こしちゃったかな……?その、ご飯食べに行くかなと思ってさ」
「い、いえ……ちょうど、受付の方に訊きに行こうか迷っていたところですので……」
かなり遅くなってしまったわけだから、探しに行こうと考えるのは当然のことだろう。
「……戻ってくるの遅くなってごめんな?」
怒ってはなさそうだけど、心配をかけさせてしまったのは事実なわけで。
先ほどまで散々一人で謝るのは嫌だなぁと思っていたはずなのに、意外にも謝罪の言葉はするりと、俺の口から零れ落ちた。
「…………」
謝罪の言葉にシエラからの返事はなく、沈黙だけが残される。
「あ……シエラを呼びに来たついでに、いくつか荷物も取っていかないとだ……」
沈黙に耐え切れなくなった俺は、咄嗟に思いついた話題を、絞り出すようにしてそう言った。
「そ、それは確かに必要ですね……何も持たずに入るのはさすがに…………」
俺の声にシエラはハッとしたかと思うと、慌てたように言葉を返してきた。
何か、考え事でもしてたのかな……?
まぁいいか……で、もし財布なんか忘れたら無銭飲食の罪で問答無用で教会送りだし、もしそんなことになったらこの旅も二日目にして終了だ。
「あ、えぇと……どっ、どうぞ……?」
このままでは事が進まなくなると感じたのか、シエラは部屋の中に入るよう促す仕草をしてみせた。
俺はそれに従い、部屋の奥へと入ることにした。
────────────────
……荷物といっても、財布さえあればどうとでもなるような気がするなぁ……。
必要最低限の荷物をと思いながらベッド脇に置いていた自分の鞄の中身を漁ってみたが、特にこのあと必要になりそうなモノは、財布くらいしか見当たらなかった。
「……他に忘れたとしても、それはまた取りにくればいいか……」
そんなことを呟いたあと、俺は真後ろのベッドに腰掛けているシエラの方に向き直った。
「そういえば、体調はもう……?」
俺からの問い掛けに対し、シエラは何故か、困ったような表情を浮かべてみせる。
どう答えるか迷っているのだろうか。
何かを言おうとしてはいるが、一向に言葉が返ってくる気配はない。
まるで、言葉が喉元で引っかかってしまっているかのように。
「えっと……まだ体調が優れないのなら、何かしら食べられそうなモノとか持ってくるよ。だからその……ここで、待ってて───」
そう言い残して部屋を出ようとした。
だが───
「───ぁ……まっ、待ってください!!」
───そんな言葉とともに、シエラは俺の右手首をぐいっと、普段の様子からは想像もつかないほどの強さで掴んで引き留めたのだった。
「し、シエラ……?」
それはどこか、内にある自らの意思を込めているかのようで───
個人的な話ですが今日投稿したのは、私にとってちょっとした節目の日だという理由があるからでして……
( *¯ ꒳¯*)
(“未成年”から“成人”になった日)




