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Raison D'être  作者: 澪音
Ⅱ.旅路
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Page.35「向けられた“モノ”」

 宿で休んでいるシエラを置いて、俺達三人はリギルの色々な場所を見て回った。


 大通りの賑わいは冷めることを知らず、どこもかしこも人で溢れ返っている。


 足を進めるうちに、どこか既視感のある建物が目に留まった。


「あれは……教会、か?」

「ん〜……みたいだなー?」

「どんなに小さな町であってもあるっていうくらいだから……この町にも居ると思うけど、どんな人なんだろうね……?」


 『誰が』とは言わずもがな。


 この町に居る“聖人”もしくは“聖女”のことだ。


 確かに、それは少し気になるなぁ……。


 ルブランの聖女(シエラ)にシャルマンの聖女(フィリア)とそれぞれの都市で出逢ったわけだし、こうなると行く先々のそういった存在の人々にも興味が湧いてきたのだ。


「会うにしてもなー……この人混みをかき分けて行くのはさすがに気が引けるっつーかなんつーか……」


 フゥが見つめる視線の先には、一向に減る気配のない人混みがあった。


「さすがにムリだな……ルブラン以上に人が多すぎるし……」


 一度入れば抜け出すことの困難な沼でしかないだろ、どこからどう見ても……。


 そんなことを考えていると不意に、通りを歩く人達の会話が耳に入ってきた。


「聖人様、今は王都の方に向ってて教会には居ないんだってさ……残念だなぁ……一目見てみたかったんだけど……」

「でもしばらくしたら帰ってくるんでしょ?だったらそのときに、また来ようよ〜。ね、そうしよ?」

「む〜……でもま、確かに居ないんだものね。仕方な……」


 ───と、声はここまで聞こえたところで町の喧騒に呑まれて無くなってしまった。


 だけど、知りたかったことは知ることができたわけだし、良しとしようか。


「今は居ないってことは仮に俺らが教会(あの場所)に辿り着けていたとしても、肝心の聖人には会えなかったってことか……骨折り損にならなかっただけマシかもなー?」


 んー……確かに、フゥの言う通りかもしれない。


「それもそうだな……それで、これからどうする?市場とか色んなお店のある通りは大体見たけど……」


 俺は二人に尋ねた。


「う〜ん、人ばかりで何処もじっくりとは見れなかったけどね……でも、もうそろそろ宿に戻った方が良いかもしれないよ……?あまりシエラを一人にするのもちょっと、ね……」

「なら戻るか?俺はクロエに任せるぞ」


 俺に一任するのか……まぁシエラのことが心配なのは俺も同じなわけで……


「時間も時間だし、戻ろうか」


 俺達は一旦、宿に戻ることにした。


────────────────


 宿に辿り着いたときにはもう、太陽が姿をくらます寸前、といった感じになってしまっていた。


「やっぱ俺、人苦手だわ……」

「いやーまさか二人して人の波にさらわれていくとは思わなかったわー。咄嗟に腕掴んだから良かったものの」

「あ、あはは……ごめんねフゥ君、(わずら)わせちゃって……」


 謝るクレアにフゥは「もう慣れた」と、軽く笑いつつ短めに言葉を返していた。


「シエラ、怒ってないかな……」


 クレアが不安そうにポツリと零す。


「思いのほか遅くなったしなー……ま、そのときはクロエに謝っておいてもらうとするかな」


 腹の立つニヤニヤ顔を浮かべて、フゥは俺の方を向いた。


「なっ、なんで俺だけ?!」


 いやいやいや、謝るなら全員で謝ろ……?


「んー、強いて言うならシエラがクロエのことを“一番接しやすい相手”として認識してるから、とかが的確か?クレアもその位置に居るんだろうがほら、お前男だし」

「そういうことは率先しろと……?」


 やけに力強く頷きやがったぞコイツ……。


「まぁ無駄話は置いといて、さっさと中に入ろうぜ?さらに遅くなると謝るの確定するぞ」


 無駄話って、お前なぁっ……!!


 あぁでも謝るのはなんか嫌だなぁ……。


 なんてことを考えながら、俺は宿の中へと足を進めた。


────────────────


 宿の中は入ってきたときと同じくらいか、あるいはそれ以上の人で賑わっていた。


「んー、これは二手に分かれるのが得策か。クロエ、お前はシエラを呼びに行け。俺とクレアで食堂の席、確保しとくから」

「……手荒な真似だけは避けろよ?」


 俺からの忠告に「さすがにそこまでのことをする予定は今のところないなー」と若干ムッとしつつもフゥは返答してくれた。


 ()()()()()、なのが不安なんだよなぁ……。


 まぁいざとなったら、クレアがどうにかしてくれるだろう。


 そんなふうに思考を巡らせながら軽く溜め息を吐いたのち、部屋に向かおうと背を向けた、そのときだった。


「───なぁクロエ、一つだけ質問してもいいか?」


 突然、フゥに呼び止められた。


「……ん、別に構わないけど?」


 振り返ってフゥ達の方へと向き直る。


「なんの脈絡もない質問だがな───もし仮に……仮に、だ。誰かがお前に、何らかの想い(感情)を抱いていたとして、それを不意に突きつけられたとしよう。お前なら、どうする?」


 ───と、フゥはいつにも増して真剣な眼差しで、俺に質問を投げ掛けてきた。


「ど、どうって急に言われてもな……んー……少し、ワガママな答えかもしれないけど、俺自身がその人のことをどう思っているのかによって変わってくるんだよなぁ……でも怒りとか不満とか、そういったモノでないのなら……大抵のことは聞き入れると思うよ、俺は」


 純粋に、俺が思っていることをそのまま口にしただけなんだけど……欲していた答えを返せたのか、フゥの表情が崩れたのが見て取れた。


「そうか。……なるほど、クロエはそういう考えだったか」

「……今の質問にどういう意図があったのかは分からないけど、とりあえず席取りは任せたからな!」


 俺はそれだけ言い残して足早に部屋へと戻った。


────────────────


 クロエの姿が完全に見えなくなるのを確認して、ようやく肩の力を抜くことができた。


「ねぇフゥ君、さっきの質問は……」


 クレアが恐る恐る、問い掛けようとしてくる。


 が、その前に答えてしまおうか。


「アイツは、誰かが自分に向けている感情(想い)と直接向き合うことを極度に恐れてる。それがたとえ良い方であったとしても、だ。……だから、()()()()()がどうなるのかが俺も少し、不安だったから思わず訊いてしまったんだが……ま、あの調子なら大丈夫かもなー。さて、行くぞクレア。早いとこ席を確保しとかねぇと二人に怒られるかもしんねーしな」


 アイツ、普段は鋭いくせに変に鈍感なところがあるからなー……それが少し、いや、だいぶ懸念材料だったりもするんだがこれはまぁ一応、伏せておくとしよう。


 俺の思惑のほとんどをクレアに明かし終えたところで、俺らは俺らで任務を遂行するとしますかね。


 この大勢の人で埋め尽くされた場所で、たった四人分の空いているテーブル席を見つけ出すという高難度(くっそめんどー)な任務を。

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