Page.31「続・聖女達の談話」
「こう言ってはなんですが“悪魔”さんも似たような気が……」
「やっぱり、そう思いますよね……」
フィリアさんの言葉になんとなく、私はそう返した。
「あ……そういえば私、シエラちゃんに謝らないといけないことがあったんでした……」
───と、急にフィリアさんはそんな言葉をぽつりと呟いた。
「え、私に……」
謝らないといけないことが……?
……一体、何について?
「私の軽率な発言でシエラちゃん、傷付いてるんじゃないかなって……その、森を歩いているときにあの“悪魔”さんが言っていたことの意味は多分そういう……」
「……『“聖女だから”という理由だけで、全部が許されるとは限らない』、ですか?」
私の言葉に、フィリアさんはコクっと頷いてみせた。
「あの言葉は、きっとシエラちゃんのことを考えて言っていたんだろうなぁって……聞こうと思って結局、聞けずじまいになってたし……『私と同じ立場の存在なのかどうか』を」
「……その質問の答えとしては『はい』、ですよ」
あの言葉は、“悪魔”さんなりに気を遣ってくれていたのだろうか……。
「……ノアさんも、何か思うことはあったんでしょうね……何も、言いはしませんでしたが……」
……ノア君が何も言わなかった理由は私にあるわけだけど、これは言わない方がいいのかな……。
もしもあのとき、私が引き止めていなければノア君は一体、何を言うつもりだったんだろう。
それは少し、気になる……。
「……シエラちゃんは、私と同じ立場にあるのに、置かれた環境は違ってて……そのっ、ごめんなさい!!」
「えぇっ?!い、いや、別に気にしてませんよ!?」
頭を深々と下げて謝罪の言葉を述べたフィリアさんに私は、思わずそんな言葉を掛けていた。
なんというか……そう、友達の謝る姿を見たくはなかったから……あと、本当に気にしてないというのも……。
「……あはは……シエラちゃんは優しいね……う〜ん、暗い話ばかりもよくないだろうし……あっ、そうだ!ねぇ、シエラちゃんはノアさんのことをどう思ってるの?!」
「うぇっ……!?」
フィリアさんからの予想外の問い掛けに対し、思わず私は驚きすぎて変な声を出してしまった。
あぁもう、驚きすぎだなぁ私は……。
えぇと……ノア君のことをどう思っているか、か……。
「う〜ん……どう思っているかと訊かれましても……あまり『こう』という具体的な答えが思いつきません……」
「あらら……まぁ、そうだよね。んー、ならば質問を少し変えよう!シエラちゃんにとって、ノアさんはどんな存在?」
き、急にぐいぐい来るようになった気が……あと喋り方も変わった……?
いや今はそんなことよりも先に質問に答える方が大事だろう。
私にとってどんな存在か……その答えなら、すぐに出せそうかな。
「私にとってノア君は……“救世主”、ですかね。私を、教会から連れ出してくれた人ですし……自分の身に危険が迫ろうがお構いなしって感じでしたけど……」
神父様に向かって何の躊躇もなく怒鳴ったりしていたし……あのときのノア君はその、不謹慎かもしれないけれど……少し、カッコいいと思ってしまった記憶が……。
「シエラちゃんはずっと、教会に居たの?」
「あ、はい。赤子の頃から居たので……私、両親の顔も知らないんですよね……神父様や修道女さん達に育ててもらいました。それはまぁいいんですけど……教会の外に出ることすら禁止していたのはちょっと……」
そこまで言ってから私は、フィリアさんが驚いているのか、目をパチクリとさせていることに気付いた。
「お、おぉ……色々と凄い過去を抱えてるみたいだけどなるほど、だからシエラちゃんにとってノアさんは“救世主”なのか…………ん、確かに美味しくできてる……」
「やっと飲めましたね、ココア……」
私が話し始めたせいで飲むタイミングを逃していたらしいフィリアさんはようやく、ココアにありつけたのだった。
“悪魔”さんが置いていったお代わり分のココアに、私も口を付けることにした。
「ん〜……まだこれは、言わない方がいいのかな……」
「え……?」
なんのことを言っているのだろう?
「ううん、なんでもないよ!……と言いたいところだけど、まぁ……きっとさっきの質問の答えに、シエラちゃんはノアさん達と一緒に行動していくことで自然と気付くはずだよ、いつか必ず」
「さっきの質問の答えに……」
『どう思っているのか』、という質問の……。
思考を巡らせながら、ぐいっと一気にココアを飲み干す。
いつか、その思いに気付ける日が来るのかな……。
あれこれ考えている最中、私は不意に込み上げてきたあくびを一つ、零した。
「あはは、かなり遅い時間になっちゃったもんね……そろそろ寝に行った方がいいかもよ?また、眠れなくなっちゃうかもしれないし……ね?」
「あぅ……それは、貴女も同じでしょうに……」
「ん、確かにそうなんだけど」とフィリアさんは少し不服そうに頬を僅かに膨らませて言った。
「まぁ、私も片付けを終えたらちゃんと寝るから。あ、ちゃんと歯を磨いてからだからね!」
「わっ、分かってますよそんなことくらいは……!」
まるで、親のように指摘をするフィリアさんに私は反論する。
……いや、この場合は親というよりお姉さんと言った方が正しい、かな。
などと思考を巡らせながら部屋をあとにした私は、洗面台を借りてきちんと歯を磨いた上で、寝室へと戻ったのだった。
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寝室に戻るとノア君は先ほどと同様に、ソファーに横になり、規則正しい寝息を立てながら、深い眠りについていた。
「……本当に、よく落ちませんね」
ノア君の寝顔を見ながらそう呟く私の口元は僅かに笑みを浮かべていた。
───明日は一体、どんなことが待っているのだろう?
───明日は今日よりも良いことが起これば、いいなぁ……。
そんなささやかな祈りを胸に、私の意識は彼と同じように深い眠りの底に落ちていったのだった。
実は投稿したこの日、12月10日は記念日なのです!
何の日かというと───
───『Raison D'être』が始動して今日でニ周年になるんですよ!!
(※タイトルが決まった日)
(一年であまり進捗がないのは本当に申し訳なさでいっぱいです……ごめんなさい)
まだ少し早い話ですが、来年はもう少しペースを上げるよう尽力しますので何卒、これからもよろしくお願いします!!!




