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Raison D'être  作者: 澪音
Ⅱ.旅路
33/47

Page.29「“聖女”達の談話」

「……どうしてこうなったのか」

「くじ引き、でしたからね……」


 苦笑しつつもシエラは、俺の疑問に対してそう答えた。


 危険性とか考えないのか君は……。


 俺が何に対して不安を抱いているのかというと、今晩の“部屋割り”についてのことだ。


 あの“魔法動物”達とのやり取りの後、夕食をご馳走になった俺達は『それぞれの“部屋割り”をどうするか』という議題で会議を開いた。


 数分の話し合いの末、埒が明かなそうということで結局、くじ引きで決めることになった。


 そしてその結果、俺とシエラ、フゥとクレアの組み合わせとなってしまった。


 互いの持つ荷物を、案内された部屋に置いて一息ついた(のち)、今に至る。


「クレアは……ちょっと安心してたみたいですけどね」

「もし仮にシエラと一緒になってたら教会に居た頃と何ら変わってなかったんだろうな……そういえばフゥは“普通に生きてた時代(ころ)”と同じことが起きただけって言って……同じ部屋に居たのかあの二人」


 ……フゥのあの様子だと、何かしらの理由がありそうだけど……あまり探らない方が良さそうだ。


「……そういえば、答えは見つかったのか?」

「……はい?」


 唐突な俺の問いかけに、シエラはキョトンとした表情で首を傾げた。


 その返答の仕方だと、さては憶えてないな……?


「モヤモヤしてる原因、だよ」

「あぁ……いえ、あまりハッキリとした理由はまだ、です……」


 少しずつ声が弱々しくなっていく。


 いや、そんなに落ち込まないで……?


「えぇと……別にそんなに急いで答えを見つける必要性はないんじゃない、かな……?」

「確かに、そうかもしれません……ですが……何故かどうしても、答えを見つけ出したいと、そう思ってしまうのです……急ぐつもりはありませんが……」


 小さな声でシエラは「う〜ん……」唸っている。


 そして突然、ハッとしたかと思うと俺の方に視線を向けてきた。


「ん……?」

「えっと……全然関係ないことなんですが一つ質問、いいですか?」


 急にどうしたんだ。


「まぁ構わないけど……」

「キリカさんから聞いたのですが、ノア君は普段自分の部屋で寝てないそうですね……どうしてです?」


 本当に急にどうしたんだ……。


「どうしてって言われてもなぁ……理由として挙げるなら俺、自分の部屋で寝るとどういう訳か、『悪夢』を見るんだよ」

「『悪夢』、ですか……?」


 「そう」と俺は頷き返す。


「俺があまり人に話したくないし思い出したくない夢ではあるな。シエラと出会ったときはリビングのソファで寝てたんだよ。普段はそうしてるんだけどな……時折、ソファで寝たはずなのに朝起きたら自分の部屋に居た、なんてことが起こるんだよ」

「それは不思議ですね……一体どうしてでしょう?」


 原因に心当たりがないわけではないけれど……確証がないから今はなんとも言えないんだよなぁ……。


「何かしらの病とかだったらそれはそれで嫌だな……多分、大丈夫だろうけど」

「いいんですかそれで」

「何かあったらそのときでいいかって思ってるからな」


 シエラが「えぇ……」と困惑しているようだがそれが今の俺の考え方だからな、何言っても無駄だぞ。


 そんなやり取りをしているうちに、じわじわと眠気がやってきた。


「……なんか、眠くなってきた……てなわけで俺はソファで寝る。ベッドはシエラが使えばいいよ」

「申し訳なさがあるんですがまぁ……そうさせていただきます」


 シエラのその言葉を最後に俺の意識はゆっくりと落ちていった。


────────────────


「ん……」


 どうにも寝付けず、目を覚ます。


 ベッドで寝ることなど、今まで一度もなかったことが理由の一つなのだろうか……あまり慣れてないが故に。


 ……今は、何時くらいなのだろう。


 ……水でも貰いにいこうかな。


 なんてことを考えつつ私はできるだけ彼を起こさないため、音を立てないようにそっとベッドから出た。


「ふぅ……」


 幸い、ノア君は起きることなく、規則正しい寝息を立てて眠っている。


「ノア君、ソファで寝ててよく落ちないですね……」


 感心の声を上げつつも、水を貰わねばと部屋を後にする。


────────────────


 リビングに向かうと、明かりがついていた。


「おや、眠れませんでしたか……?」


 そこに居たのは、フィリアさんだった。


「……どうにも眠れませんでした……」

「あはは……私にもありますよ、そういうこと。今日もそんな感じですし」


 フィリアさんは優しく微笑みながら同情してくれた。


「何か飲み物、淹れましょうか?」

「水で大丈夫ですよ……?」


 「んー……ココアでも淹れてきますね、私も飲みたいので」とフィリアさんは私の要望を一切無視してパタパタとキッチンの方へ向かってしまった。


「要望通りには答えないのかよ」


 不意に後ろの方から声が聞こえ、驚きながら振り向くと薄らと笑みを浮かべる“悪魔”さんが立っていた。


「“悪魔”さんも眠れないのです……?」

「ん、俺はあまり寝ないんだよ。寝る必要がないってところだな。……まぁ、人らしさをなくさないためにも、寝た方がいいんだろうなとは思ってるけどな?今はただ単にクレアが寝たからその隙を見て抜けてきたってところだ」


 隙を見てって……何かやましいことでもあるんですか……。


「あれ、部屋のドア開けっ放しですがいいんですか?閉めてきま───」

「いや、意図的にやってるからいい」


 フィリアさんが言い終わる前に“悪魔”さんが口早に言った。


「そう、なのですか……?」

「クレアのためにわざとそうしてるんだ。僅かでも、明かりがないとダメだから……」


 “悪魔”さんにしては、らしからぬ雰囲気を纏っている。


 そうだ、確かに───


「クレアは、暗闇が苦手というより……嫌い、なんでしたね……」

「一緒に居れば流石に気付くか」


 ───クレアは、雨の日の夜など、辺りが暗いときは酷く怯えたような表情を見せていた。


 それがどうしてなのかは、聞いてもその都度、はぐらかされたが。


「……俺はその理由を知ってるが、言うつもりはない。……それを話すことでクロエやシエラ達を苦しめるわけには、いかないからな?」

「何かしら、助けになるとしても?」


 私からの質問に“悪魔”さんは「そうだな……『今はまだ』と言っておくとするか」と返した。


「名乗ってくださったときから思ってはいましたが貴方は本当に、“堕ちた聖人”なのですね……」

「“悪魔”だって言っただろ?」


 悪戯っ子のような表情を浮かべながら“悪魔”さんはフィリアさんに言う。


「そういえば言っていましたね……はい、ココア出来ましたよ〜。ついでに“悪魔”さんの分も」

「あ、ありがとうございます……」

「おぉ、別に良かったのに……ありがとな」


 お礼を口にしつつ、一口飲んでみる。


 そのたった一口だけで、ほんのりとした甘さが口いっぱいに広がっていき、心まで満たされる気がして───思わず笑みが零れる。


「美味しい……」

「ん、美味いなこれ……身体が温まるわ……」

「お口にあって何よりです!」


 フィリアさんは心底嬉しそうな笑顔をみせた。


「そういやシエラ、お前何か悩んでたか?」

「へ!?」


 突然の“悪魔”さんからの問いかけに思わず変な声を出してしまう。


「あ、いや悪い……驚かせるつもりはなかったんだけどな……?」

「い、いえ……。悩んでいたというか……モヤモヤしている理由を、探しているんです」


 “悪魔”さんは私のその返答を聞くと「あぁ、なるほど……」と小さな声で言った。


「いつからだ?」

「具体的にそう感じたのは……この森に入ってからかと……」


 さらに具体的に言うなら、フィリアさんと会ってからだけど、本人の前でそれを口にすることはしなかった。


 じっと私の目を見ていた“悪魔”さんは、何かを感じ取ったのか、マグカップの中に残っていたココアをぐいっと一気に飲み干すと───


「悪い、おかわりとか貰ってもいいか?」


 ───と、フィリアさんにマグカップを差し出した。


「構いませんよ、淹れてきますね!」


 そう言うとフィリアさんはにこやかに差し出されたマグカップを受け取ると足早にキッチンへと向かっていった。


 その姿を見届けると“悪魔”さんは静かに、口を開いた。


「……ただの俺の独り言だと思って聞き流してくれていいんだが……多分そのモヤモヤの理由はクロエに関してのもの。その仮説を前提として、モヤモヤを少しでも取り除ければと思って一つだけ言っておこう。無意識なのかもしれないがアイツ、一度たりともフィリアの名前を口にしちゃいない。……そりゃ心の中では言ってたかもしれないが、直接名前を呼んだりとかはしてなかった。……シエラの名前は口にしてたのに、なんでだろうなー?」


 フィリアさんには届かないように声の大きさを落として、“悪魔”さんは私のモヤモヤを僅かでも解消してくれようとしているようだった。


 その様子が、どうも噂に聞く“悪魔”とはかけ離れていて───


「……“悪魔”さん、優しい人だとか言われたりしません?」


 ───思わずそう訊いていた。


「言われたりする。むしろ怖がってほしいんだが、それこそなんでなんだろうな?」


 先ほどとは異なり、困ったような表情をみせる“悪魔”さんは、不意にハッとなったかと思うと、振り返った。


 “悪魔”さんの視線の先、そこに立っていたのは───


「……あぁ、やっぱ起きてきたか……“能力の副産物”」

「……うるせぇ頭に響く……ったく、自分が“能力”を使ったことで“俺”が出てこなきゃいけなくなるの、分かってないんだろうなぁ“宿主(クロエ)”は」

「え……?」


 ───部屋で寝ていたはずの、ノア君だった。


 だが───ならばどうしてこんなにも、胸騒ぎがするの……?

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