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Raison D'être  作者: 澪音
Ⅱ.旅路
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Page.28「不思議な生き物たち」

 あれこれ話しているうちに、いつの間にか夜も更けてきた。


「かなり話し込んでしまいましたね……」


 「あはは……」とフィリアは苦笑いを浮かべる。


 ……俺としてはそれなりに楽しめたと思ってるんだけど。


「別にいいんじゃねーの?楽しかったんだし。あーいや、そう思ってるのは俺だけなのかもしれないが」

「んー……私も楽しかったと思ってるよ?」


 フゥの言葉に、クレアが賛同する。


 だが俺達の中でただ一人、シエラだけは俯き、表情を曇らせている。


 声を掛けようと口を開こうとするも、どこからが聞こえてきたガタンッという音に俺は思わず、気を取られてしまった。


 目線を音の発生源の方に向けても何の姿も見えないまま。


「ん……?」


 不審に思いながら首を傾げていると、先程まで俯いていたシエラが「あっ」と小さく、声を上げた。


「……あの台の下に、何か居ます……」


 シエラはそう言うとその場所を指し示す。


 台って……あの花瓶が置いてあるヤツのことか。


 それで、その下にって……あ、確かに何か居る。


 なんていうかこう……丸い形をした“何か”が二つ積んであるような状態で……上に居るのは薄い黄色のような色、下に居るのは灰色に近い色をしている。


「へぇ……珍しいな、“魔法動物”か?」


 フゥが興味深そうにそれらを眺める。


「そうですよ〜。時々、うちに遊びに来てくれるんです」


 フィリアが嬉しそうに説明をしてくれる。


 そんなフィリアの様子とは裏腹に、目の前に居るなんだかよく分からない生き物達はというと、じっと静かにこちらの様子を伺っているようだった。


 というより───


「……俺達、警戒されてないか?」


 ───なんとなくだが、そんな気がしている。


「なんか、睨まれてるなー……特に黒っぽい方に」

「あの子の目つきはもとからですよ〜。鋭くていいと思いませんか?」


 いや単に目つきが悪いだけじゃなくて本当に睨んできてるんだけど!?


 などと考えていると、突然、上に居た黄色っぽい方がバランスを崩したらしく、花瓶の置かれた台にぶつかってしまった。


 それにより、花瓶は大きくグラつき、そのまま───


「あっ───」


 ───“魔法動物”達の方に落下していった。


 しかし───


「……い、今のはさすがにヒヤッとした……」


 ───落下していた花瓶は空中で動きを止め、“魔法動物”達の方に被害が出ることはなかった。


 理由はまぁご察しの通り。


 俺が反射的に“物体操作”を使っただけのこと。


「の、ノア君の“能力”って……すごく、便利ですね……」

「……ちゃんと俺が見ていれば、の話だけどな」


 そう言いつつ俺は、空中に留めたままだった花瓶を再び台に置き直した。


 そして俺は“魔法動物”達の下へと歩み寄った。


「……一応訊いておくけど、ケガとかしてないよな?」


 俺からの問い掛けに、黒っぽい方はぷいと目を逸らして未だに警戒を解いてくれるような様子は見られない。


 黄色っぽい方はというと、どうやら警戒心を解いてくれたらしく、俺の方に進んできた。


「きゅっ、きゅきゅっ!!」

「いやごめんなんて言ってるのか全然分からないんだけど!?」


 人ではないからそりゃそうだろうとは思うけどまさか、ここまで何言ってるか分からないとは……。


「あぁそれ、お礼を言ってますね」

「分かるんです?!」


 さらりと通訳をしてくれるフィリアに、傍で見ていたシエラも驚きを隠せないようだ。


「まぁそれなりに長い間、交流があるので……完全に分かるわけではないですけど、何を言いたいのかくらいならどうにか理解できるようになりましたよ、私は」

「すげぇな、さすがに俺でもそこまでのことは(わか)らねぇわ」


 フゥですらも、感心の声を漏らす。


 長い間交流があったからとはいえ、言わんとしてることが分かるのは凄いな……。


 そんなことを俺達が話しているのをよそに、黄色っぽい方が黒っぽい方に俺達への警戒を解いてもらえるよう説得を試みてくれているように見える。


「きゅきゅ、きゅっきゅ〜」

「……キュ」


 どんな会話をしているのかはさっぱりだが、上手くまとまってくれているように……見えなくもない……?


 そう思っていた矢先───


「……キュッキュ!」

「ぎゅっ!?」


 ───黒っぽい方が頭部にあるコウモリの羽のような部分でひょいと黄色っぽい方をすくい上げ、そうかと思うとそのまま俺めがけて力いっぱいに投げつけてきた。


「危なっ!?」


 突然のことすぎて花瓶のとき以上に焦ったが、どうにか受け止めることに成功した。


 ……なんか、ふにゃってしてるのな。


「だ、大丈夫……?」

「思いっきり投げたなー……ま、大丈夫だろうけど」


 一部始終を見ていたフゥとクレアが口々に声を掛けてくる。


「きゅ〜……」

「いやそんなに落ち込まなくても……」


 なんてことを言いつつ頭部を優しく撫でる。


 ……俺、今日だけで結構な回数、誰かの頭を撫でてる気がする……。


 って思ったけど、シエラとこの子だけだな……。


「本来は、ここまで意地悪な性格の子ではないんですけど……」


 フィリアが不思議そうな声を出す。


「強く見せようとしてるんじゃないか?」


 フゥが冷静な声で返す。


「強気でないと護りたいものを護れなくなる……とか思ってるのかもなー……?」


 フゥにしては珍しく、少し弱気な言い方のような気がする。


 いやそうだとしたら投げる必要性はどこにあったんだよ……ただの憂さ晴らしにしか見えなかったんだけど……?


「そうやって考えるとクロエに似てるよな、黒っぽいの」

「どこが!?」


 俺は別にそんな考え方をしたことはないと思うけどなぁ……。


 あと俺の勝手な想像で『憂さ晴らし』だと思ってるけど、仮に本当に憂さ晴らしであったとしても他人に手荒な真似はしないぞ、絶対に。


「黒っぽい子がそうなるなら、黄色っぽい子はシエラってことになるのかな?」

「そういうことになるな」

「どうしてそうなるんです?!」


 クレアの言い分に対してうんうんと頷くフゥに、シエラがすかさず尋ね返した。


 互いのそんなやり取りを見ていると───


「……きゅ」


 ───俺の腕の中から黄色っぽい方はピョンと飛び降り、黒っぽい方が居るところに向かっていった。


「……キュキュ」


 何を言ってるのかは相変わらず不明なままだが、直後に黒っぽい方が羽のような部分を器用に動かして、俺が先程とった行動と同じように、黄色っぽい方の頭部を撫で始めたため、先程の言葉は恐らく謝っていたのだろうと仮定できる。


 黄色っぽい方は俺のときとは打って変わって、今はとても幸せそうな顔を浮かべている。


 ……別段仲が悪いわけではないみたいだな。


 にしても……俺達に似てる、なんてことを言われるとはね……。


 あんな感じに……お互いを信頼してるような関係になるときが、俺達にも来る可能性があるのかなぁ……?

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