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Raison D'être  作者: 澪音
Ⅰ.すべての始まりは──── その①
3/47

Page.2「それぞれの思い」

 頭の中で記憶を整理しながら、二人に出来るだけ分かりやすく、昨日の夢の中での出来事を説明した。


「……つまり、クロエが見た夢ってのは、教会で聖女と会って約束をした、ってことでいいか?」


 フゥ、それは間違ってはないけどいくらなんでも簡略化しすぎだろ。


「まぁ、大体そんな感じだな……でも、本当に夢だったのかが少し、怪しくなったな……」


 夢の中での出来事なのに、なんでここにブレスレットがあるんだ?


「ブレスレットのことなら別にそんなに不思議なことではねぇぞ?」


 と、フゥが俺の思考を見透かしたかのように言う。


「お互いの思いが一致していたのならそれは可能だ。たまにそういう事例は挙げられるからまぁ、本当に何の不思議もないんだよな……でも、まさかクロエがそれに巻き込まれるとは思わなかったがな?」

「そうなのか?」


 夢なのに、モノのやり取りができるのか……なんか、お伽話に出てきそうだな。


 などと考えていたら、ずっと黙って俺の話を聞いていたキリカが────


「えっと……それでクロエ君は、どうしたいのかな?」


 ────と訊いてきた。


「まぁ……できることなら、二人に協力して欲しい。だけどもしも、本当に俺がその約束を守った場合は……」

「『実行者と協力者は殺される』、だね?……まったく、悪趣味なルールだよね……」


 キリカの言う通り、この街には少し……いや、()()()変わった規則がある。


 その規則とは『もし聖人あるいは聖女を街の外に連れ出した場合、その者やその者に加担した者にはそれ相応の刑罰を与える』というものだった。


 ……あぁでも今は、『街の外』じゃなくて『教会の外』になるのか。


 それにしてもいつからあるんだ、そんなよく分からない規則……。


 多分、シエラはこの規則を知らないのだろう。


 だから俺と約束を交わしたんだと、今ならそう思える。


「……いや、刑罰って言ってるだけで、殺されるとは限らないと思うぞ」


 フゥが冷静に言葉を零す。


 俺が生きている中で、この街でそんなことが起きたということを聞いた記憶はないんだよなぁ……。


 そんなことを考えながら────


「……俺は別に殺されてもいいと思ってる。あの子を……あの場所から連れ出せるなら、自分の命くらい、どうにでも……」


 ────俺はそう言った。


 ……理由は、今は特に思いつかない。


 けど、なぜかあのときは『助けたい』と、確実にそう思っていた。


 ────もしかしたら、“罪滅ぼし”のつもりだったのかもしれない。


 絶対に償いきれないであろう、俺自身の犯した“罪”に対しての。


 ……そんな俺の言ったことに対して、何か思うことがあったのか、キリカが軽く笑ったような気がした。


「でも珍しいよね、クロエ君が誰かのために自分から行動しようとしたのって」

「ん、それもそうだな……引きこもりがちになってからはまともに人と関わろうとしてこなかったからな」


 キリカのその言葉に、フゥも同意を示す。


 まぁ、確かに。


 いやそんなことよりも……やっぱり、この二人は巻き込むわけにはいかないよな……。


「……別に無理に協力してくれなくてもいい。しくじって二人に何かあったら、さすがに俺でも責任負いきれない、し……」


 そう言ってこの話題を終わらせようとした。


 けど────


「誰もそんなこと言ってないだろ?それに、俺は“悪魔”だ。そんなヤツが“悪事”に加担しないわけがないだろ?」


 フゥが茶化すように言う。


「フゥ君の言う通りだよ。それに……クロエ君が誰かを助けたいって、本気でそう思うのなら私は止めない。むしろそれに手を貸すのが普通なんじゃないかな?……主人の命令に従うのが使用人の役目、だよ?」


 キリカも真剣な眼差しで言う。


 こういうとき、全くと言っていいほど何も恐れない人が居ると心強いんだろうなと、本気でそう思った。


「……怖いものが無いのかよ、二人には」


 俺は静かにそう訊く。


「俺は……まぁ、特にはないなー。もうとっくに死んでてもおかしくないし、俺の場合は」


 フゥはどこか懐かしんでいるような、そんな表情を浮かべながら言う。


「私は……『怖くない』、なんて胸を張って言えるほど、強くなんかないよ。でも……今ここに居る三人全員が力を合わせたら、本当に怖いものなんて、無いんじゃないかな……ってそう思うんだよね……」


 キリカらしいことを言うな……。


 こういう状況ってなんて言ったかな……。


「『三人寄れば文殊の知恵』っていったか、そういうの……」

「ん、なに……その難しそうな言葉は……」


 キリカの頭の上にハテナマークが浮かぶ。


 もちろん、実際に見えてるわけではないけど。


「東の方の国の言葉っていうか……教訓、みたいなものだったかな」


 俺も詳しいことは覚えていない。


 いつか読んだ本にそんなことが書いてあったような気がする、という程度のうろ覚えの知識だ。


「さすがは文学少年。なんでも知ってるな」

「本に載ってる知識程度しか俺は持ってないぞ……」

「クロエ君は十分博識だと思うよ?そういえば、何か記号ばかりの本読んでたけど……」


 キリカがボソッと言う。


「アレは記号じゃなくて、『漢字』っていう立派な文字らしいぞ……さすがにややこしくて書けないけど」

「あ、また万能メガネを使って読んでたんだね」


 万能メガネって……まぁ、確かにアレは読めない文字が読めたりするから結構便利だし、あながち間違いではない、か……。


「……そういえば、行かなくていいのか?“お告げ”の時間、間に合わなくなるぞ」


 フゥがふと思い出したかのように言った。


「あ、忘れてた!ありがとうフゥ君、助かったよ!」


 そう言ってキリカは部屋をあとにしようとする。


 ……『今行動しないと、後で絶対に後悔するかもしれない』と、不意にそんな考えが脳裏を過ぎった。


「────なぁ、キリカ」


 咄嗟に俺は、キリカを呼び止める。


「ん、まだ何かあった?」

「……その……俺も、ついて行っていいか?少し、気になることがあるし……それに今の街がどんな感じなのか、見てみたくなった」


 ────と、俺は別に必要のなかったであろう言い訳を付け加えつつ言った。


「え……()()クロエ君が……外に……?」

「おー、()()クロエがついに外に出る日が来たのか。明日にでも天変地異が起こるんじゃね?」


 二人して()()って付けるなよ。


 お前達は一体俺をなんだと思ってるんだ……。


「でもまぁ、クロエが外に出るなら俺も久々に出てみるかー……大体一ヶ月半ぶりになるけど」


 ……ん、フゥが俺に便乗するとは珍しいな。


「えっ、フゥ君も?!」

「俺は俺で少しばかり、確認したいことができたからな、たった今」


 たった今って。


 それにしても、この家に一人も居なくなるなんて状況ができるなんていつ以来のことだろう……。


 まぁ、細かいことはいいか。


「じゃあ、みんなで行こっか!“お告げ”を聞きに、ね?」


 とても嬉しそうな表情をしたキリカが号令をかけるかのように言う。


 ……まぁ、そのあとはそれぞれ出かける支度をするために自分の部屋に戻ったわけだけど。


 さて、とりあえず会いに行くか……聖女とやらに。


 そう考えつつ、俺はクローゼットから、眠ったままだったほぼ新品に近いパーカーを取り出し、フードを深々と被った。


────────────────────


 クロエ君達の支度が終わるのを待ちながら、ソファーでぼーっとしていると、フゥ君が自分の部屋から出てきた。


「お、キリカは相変わらず支度が早いな」


 と、フゥ君が感心したように言ってくれる。


「まぁ、服はこのままでもいいからね。……何かあった?」


 フゥ君の表情が僅かに暗いような気がして、私は思わずそう訊いた。


 そしてフゥ君は私の質問に対して、少し考える仕草をしてから、


「……クロエの言ってたこと、どう思った?」


 と、質問に質問で返してきた。


 クロエ君の言ってたこと、か……。


「どうって……んー……言ってたことというか、自分から行動しようとしたことに驚いた、かな。ほら、クロエ君ってあまり……人と、関わりたがらない、から……」


 “────自分が行動することによって誰かが傷つくなら、俺はもう、誰とも関わらない……外に出なければ、誰とも関わらなくて済む、だろ……”


 不意に、クロエ君が私やフゥ君に言った言葉が脳裏に過ぎった。


 ……あのときのクロエ君の目が、私の頭から、なかなか離れてくれない。


 あの、全てを拒むような目を。


 私は……あのとき、どうするべきだったのかな……?


 どうすれば……


「……カ……キリカ!」

「え……?」


 フゥ君が私の名前を呼んでいた。


「やっと気付いたか……ったく、急に黙り込むなよ……今、クロエのこと考えてただろ」

「だ、だって……」


 ────と、そこまで言って言い淀む。


 だって……何なのだろう。


 その言葉の続きは、思いつかなかった。


「気にしても無駄だろ」


 フゥ君が肩をすくめながら言う。


「クロエは、自分から行動したんだ。そのことに変わりはない、だろ?……いつまでも“あの日”のままなんかじゃない。クロエも成長したってことだろ」


 クロエ君が成長した、か。


「クロエ君、感情が戻ってきたよね……」

「そうだな……まぁ、それを踏まえて、“仮説”を立ててみたんだけど……聴くか?」

「“仮説”?」


 一体、どんな……?


「クロエがそれを認めるとは思えないから、本人には言うなよ?……“恋”、とかそういうのが関係してるんじゃないかなーって、思うんだ」


 おぉ……フゥ君からその単語が出てくるとは思わなかったな……。


「なるほど……それはありえるかも、しれないね!」


 気分が一気に高揚していくのを感じる。


「確かにクロエ君には言えないよね、これ」

「だろ?」


 そんな会話を交わしつつ、私とフゥ君は互いに笑い合った。


「“恋”、かぁ……もしそうだとしたら……」

「相当、面白いことになると思わねぇか?」

「あはは……思うよ、もちろん。だって……」


 その続きは言葉にしなかった。


 先程とは違う理由で。


 なぜなら────


「ん、支度できたけど……どうかしたのか?」


 ────パーカーのフードを深々と被ったクロエ君が部屋から出てきたから。


 なんでまだ室内なのにフード被ってるの……。


「ううん、なんでもないよ!……じゃあ、行こうか!」


 眉を細めながら、不審そうに首を傾げるクロエ君をよそに、私は玄関へと向かう。


 後ろでフゥ君が軽く笑ったような気がしたけど、気にしないでおく。


 ────さて、“お告げ”を聞きに行かないと、ね?

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