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Raison D'être  作者: 澪音
Ⅱ.旅路
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Page.25「少女の答え」

 突然のフィリアからの申し出にシエラは、どうすればいいのか分からず、戸惑っているようだった。


「えぇっと……」


 と言いながらシエラが俺の方に視線を向けてきているような気がする……判断を俺に委ねようとしないでくれよ?


「いいんじゃねぇの?友達になっても。多い方がいいと思うぞ、そういう存在は」


 ───と、フゥが特に何かを言うつもりのない俺に代わって、シエラにそう言った。


 フゥが言うと妙に説得力があるな……。


 ……人と関わることを拒む存在が、他人にそれを勧めるのはどうなんだろうとは思うけれども。


 ───“自分”と“他人”は全く別のモノと捉えているのか。


「けどまぁ最終的に決めるのはシエラだ。……こういうのは、自分が信用してもいいか見極めることが大事だからな?」

「普段自分がそうしてるからか?」


 俺がなんとなくそう尋ねるとフゥは、「まぁ、そんなところだな」と薄ら笑みを浮かべながら頷いてみせた。


「え……普段からって……人が嫌い、なんですか……?」


 と、フィリアが意外そうに訊くとフゥは───


「ん……あぁそうか、さっきは俺が人と関わりたがらない理由を話してたから、か……」


 ───とほんの少し小さめの声でそう呟く。


 そして少し考える仕草を見せてから、


「今はそこまでだが……でもまぁ、初対面の人間は多少なりとも警戒はするぞ───裏切られたときに、自分が護らなきゃいけないものを傷付けられたら困るからなー?」


 何食わぬ顔でそんなことを言った。


「自分が護らないといけないもの……貴方にとってのそれは、一体……?」


 フィリアは期待を込めてなのか、フゥに質問を続ける。


「俺が言うわけないだろ?……なぁんて言っても、まだ会ったばかりだから知るわけもないか」


 いつもの、いたずらっ子の笑みを浮かべながらフゥはフィリアにそう返す。


 フィリアはフゥのそんな返答に少しムッとしたがその直後、僅かに笑みを零した。


「……こんな風に何でもない会話をしたのは、初めてです……楽しいもの、なのですね……!」

「こういう他愛ない会話でも案外、面白かったりするだろ?」

「意外と盛り上がったりするよね、こういうのって」


 フィリアは嬉しさを噛み締めているようで、フゥとクレアはそんなフィリアの様子に笑顔を見せている。


「……フゥはあぁ言ったわけだけどまぁ、もし仮に、裏切られるようなことがあったなら、そのときに対処すればいいんじゃないかな?……少なくとも、俺はそうしてる。……なんて言いはするけど実際のところ、裏切られたことはまだないんだけどな?」


 フゥ達が話しているうちに俺は、先程まで俺自身の中にあった“弱さ(思い)”を消し去り、シエラに声を掛けてみる。


「裏切られるというのは……辛いこと、なんでしょうか……?」

「まぁ恐らくは……信頼してた人が悪い人だったら、それはそれで嫌だろ……?」


 シエラが答える前にさらに俺は言葉を紡ぐ。


「でもさ、俺が思うにあの子は信頼してもいいんじゃないかなとは、思ってるよ」

「……確かに、あの子を信頼しても大丈夫なんだと、思います……」


 何やら含みがあるようなその言い方が、妙に引っかかる。


 「ですが……」とシエラは言葉を続けていく。


「───“信頼しても大丈夫”だというのならば、今の私の中にはどうして、こんなにもモヤモヤとした感覚(モノ)が、残っているのでしょう……?」


 ……出会ってから今に至るまでに俺が見た中では一番悲しそうな、どこか辛そうな表情で……不安に押しつぶされてしまいそうな声で、シエラは俺に問いかける。


「それ、は……シエラにとって、何か気にかかるようなことが、あるのかも……しれないなぁ……?」


 そんなシエラの様子に動揺しつつ、俺はそう返答してみる。


「気にかかること、ですか……?んー……不思議です……こうも思いつかないというのは……余計にモヤモヤとしてしまいます……」


 しょんぼり、という表現がかなり合っているようなそんな様子のシエラに、俺の中にあった動揺は消え去るも、そのまま俺は思わず「ふっ」と僅かに吹き出してしまった。


「な、なんですかっ……?!」

「いやなんでも……ないことはないけどとりあえず、シエラのことでは、ないから……な?」


 何やら恥ずかしそうに聞き返してきたシエラに俺はそう答え、適当に誤魔化した。


 俺のそんな誤魔化しにシエラは「む〜っ」と“不満ですアピール”をしてくる。


「……と、とにかく今はあの子と友達になるか否かっていう、そこの方が問題だろ?……えぇと、“あのとき”も、さっきのフゥも似たようなことを言ってたけどさ、他人(ひと)の意志に左右されず、シエラの本心に従えばいいんじゃないか?自分は今どうしたいのかを」

「言っていましたね、“あのとき”のノア君も、先程の“悪魔”さんも……」


 俺からの助言を聞き届けた直後に、シエラはそんな言葉を呟くとフィリアと同様に一度、深呼吸をしてみせる。


 そして、「よし……!」という掛け声とともに───


「あ、あのっ……!わ、私と……友達に、なって……くださいっ……!!」


 ───と、フィリアに向けてそう頼み返したのだった。


 あまりに唐突すぎて一瞬、何を言われたのか理解していなかった様子のフィリアだったがすぐにハッとなり、「お、お願いしましゅっ……!!」と噛み噛みになりながらシエラの申し出を快諾した。


「……噛んだな」

「噛みましたね……」

「……っふ」

「い、痛そう……」


 口々に指摘もとい思ったことを言っていく。


 フゥに関してはどうにか声を押し殺して笑っているらしく、かなり肩を上下させている……。


「だ、大丈夫ですよっ……!」


 フィリアはというと、若干の涙目である。


 あぁ、痛かったんだな……。


 などと思っているとふと、“あること”を思い出した。


「そういえばさ……俺達の名前、まだ言ってなかったよな……?」


 そんな俺の一言にフィリアを除く全員が計ったわけでもなく同時に───


「「「あっ……」」」


 ───と言った。


 俺達の中では誰も気付いてなかったんだな……あの様子だとフィリアは気付いていたみたいだけど。


「んじゃまぁ、気分を改めまして自己紹介。俺はクロエ・ノアール。よろしくな」


 俺を筆頭にして、皆が自己紹介をしていく。


「わ、私は……シエラ・ホワイト、です……!よ、よろしくお願いしますっ……!!」


 シエラは緊張からか、焦った様子で。


「俺はフゥ・ティーグル。“悪魔”っていっても、信じてくれんのかなー?」


 フゥはいつもと変わらず、自らの素性を明かした上で茶化しながら。


「信じてもらったところで、何かあるわけではないでしょうに……あ、私はクレア・カステルっていいます。何度も言うようだけど、フゥ君とは幼馴染だよ!」


 クレアはそんなフゥに少し呆れたような表情を見せつつも、最後は元気よく。


 自己紹介一つとっても、こうも差が出るものなんだなぁ……と、しみじみ思う。


「では私も二度目ですが……フィリア・ハピネスといいます!このシャルマンにて、聖女を務めています!」


 フィリアも場の流れに従い、自己紹介をする。


 そんなこんなで俺達は、『友達』になったのだった。


「てかさ……こうやって普通に話してたんだからとっくに『友達』だったんだと思うけどなぁ?」

「えぇ……『友達』になるお願いって必要なかったんですか?!」

「普通は要らないと思うよ〜?ねっ、フゥ君もそう思うでしょ?」

「ん……あぁ、そうだな……」


 ───和気藹々(わきあいあい)とした空気の中でただ一人、“悪魔”だけは……じわりじわりと、少しずつ濃くなっていく不穏な気配に、警戒心を強めていた。

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