Page.24「少女の申し出」
シャルマンと呼ばれる村は、『迷いの森』の中の、一際大きく開けた場所にあった。
見たところ、村とはいっても、貧祖なものではなく、むしろどちらかといえば栄えていそうな雰囲気だ。
「思ってたよりかは、明るそうだな?」
「“村”っていうものに対して偏見みたいなの持ってる?」
クレアがフゥに目を細めながら尋ねる。
「偏見っていうより……俺らが住んでた集落も言ってしまえば“村”、だろ?それと比較してみただけだ」
「う……確かに、そうかもしれないけど……」
フゥの言い分にクレアは、少し納得がいかなそうな表情をしながらも同意したようだ。
そんなクレアの表情にフゥがいたずらっ子のような笑みを浮かべて、俺達に聞こえない声で何か言ったようだ。
言われた側のクレアはすぐさま何かを言い返している。
「仲、良いんですね……」
「あの二人はまぁ、さっき言った通り、昔からの知り合いらしいからな」
フゥとクレアのやり取りを見つつ、フィリアはそう呟くようにして言った。
「んー……“知り合い”というより、“友達”くらいの距離が妥当じゃないですか?」
俺の言葉に、シエラが首を傾げて言う。
「ん、それはそうかもな。フゥは多分、否定すると思うけど……」
「否定しちゃうんですか、誰が見てもそう思うはずなのに……」
フィリアが少し悲しそうな声で言い、フゥの方に視線を向ける。
俺達の話を聞いていたのか、フゥは小さなため息を吐くと───
「別に友達程度なら否定はしねぇよ。ただ……もし俺が何かしらの事態を引き起こしてクレアとかクロエ、シエラ達にも非があるなんて誰かが言い出したら、それは俺にとってはかなり不愉快なことなんだわ。俺一人の責任で済むなら、それでいいんだけどな……なんてことを言うと」
───と言い、続きを言おうとするとすかさずクレアが───
「フゥ君だけに背負わせるつもりはないよ?」
───と言った。
「……って言い出す人が居るんだよな……はぁー……俺があまり人と関わりたがらないのは、今言ったのが主な理由だ」
そんなクレアにフゥは「やれやれ」と言いたそうにしながら、先程よりも長いため息を吐いて説明を終えた。
「……距離を置こうとしても多分貴方の性格上、無理なんだと思うんですけど」
「見知らぬ人ばっかの場所にシエラを放り出してやろうか。無論、近くに俺らは居ない状態でな」
シエラの的確な指摘にイラッとしたのかなんなのか、フゥがとんでもないことを言い出した。
フゥのとんでも発言にシエラは小さな悲鳴を上げると、そそくさと俺の後ろに身を隠した。
「……やめてやれ、人に慣れてないってことはフゥも知ってるだろうが」
「クロエのことは平気なんだよなー……まぁ、冗談だから安心しろ。流石に俺もそこまでのことはしないから、な?」
「えー……本当かなぁ?」
薄ら笑みを浮かべた“悪魔”は、両手を広げて冗談であることを表してみせた。
その仕草に疑念を抱いたのか、クレアは訝しげに訊く。
そんなやり取りをよそに、フィリアが不意に俺の傍らを通り過ぎていった。
「あ、あの……一つ、お願いしても……いいですか?」
フィリアは、フゥ達には聞こえないくらいの声量で、俺の後ろに隠れたままのシエラに声をかけた。
……俺には筒抜けなんだけどまぁ一応、聞こえてないフリでも、しておくか。
「へ?い、いいです、けど……どういった、お願いです、か……?」
どうやらここに来て“人見知り”を再発させたらしいシエラは、しどろもどろになりながら尋ね返した。
「えぇとですね……その……」
最初に会ったときの明るさはどこへやら。
シエラ同様、しどろもどろになっているようだ。
だが一度、深呼吸をして心が落ち着いたのか、意を決してこう言った。
「───私と、友達になってくれませんか?」




