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Raison D'être  作者: 澪音
Ⅰ.すべての始まりは──── その②
11/47

Page.9「もう一つの真相」

 クレープを食べたことがない、というか全くと言っていいほど知らないクレア達のためにクレープを食べることになった。


 だが、俺が注文した直後にいつの間にか背後に立っていた神父が追加で注文してきた。


 その結果────


「あのさぁ……なんで俺が赤の他人の分まで払わされてるんだろうなぁ……?」


 ────なぜか神父の分まで払わされた。


「たかがクレープ一つ分のお金を追加で払っただけでそんなに怒らないでください。まぁ……昨日、貴方達がしたことに対する贖罪だと思えば安いものだと」

「その一つ分が余計なんだよ。払わなくてもいいお金だっただろうが。それに、俺は別に贖罪する気はないっての」


 ものすごくイライラする。


 不機嫌になりながら、俺は自分の分のクレープを一口食べてみる。


 ……ん、美味しい。


「……あの二人、意外と仲良くしてますね」


 クレアが目の前で何やら騒いでいる二人────フゥとシエラを見ながらそう言った。


「あれで仲良くしてるのか?」


 どう見てもフゥがシエラにイタズラを仕掛けて、それに対してシエラが猛抗議してるようにしか見えないんだが。


 仕掛けた張本人はすごく楽しそうに笑ってるな……反省しろよ少しは。


 まぁ、さすがは“悪魔”だな。


 などと思いながら俺は────


「……それで、用件は?」


 ────ため息を吐きつつ、神父にそう訊いた。


「なぜ、他に用があると?」

「ただ単にクレープを食べに来ただけだと思うか?……俺達に話しかける理由にしようとしたかっただけだろ」


 てか、神父がクレープを食べてる光景とか見て誰が得するんだよマジで。


「否定はしませんが、クレープ食べたかったのも事実なんですよね……」

「できれば後半は否定してほしかったな」


 なんか嫌だわ。


「……とりあえず聞くか」

「用件というか、訊きたいことがあるだけなんですが……まぁ、いいでしょう」


 そんなふうに言うと神父は手にしているクレープを一口食べてから────


「────“エヴァン”という名前に何か、心当たりはありますか?」


 ────そう訊いてきた。


 その名前が神父の口から出た途端、俺は思わず目を見開いた。


 なぜなら、その名前は────


「なんでお前が、父さんの名前を……?!」


 ────俺の父親の名前だったから。


 俺がそう言うと今度は神父が、驚いたような表情を浮かべていた。


「……あぁなるほど。そういうことでしたか」


 一人で勝手に納得しないでくれ。


「質問に答えろよ」

「そんなに怒らないでください。ちゃんと答えますから」


 別に怒ってないっての。


「まぁそうですね……ただの“幼馴染み”、とでも答えておきましょうか」


 “幼馴染み”?


「嘘じゃありませんよ?」

「あぁ……嘘は吐かないんだったな」


 確か昨日そんなことを言っていた気がする。


 父さんからこの神父のこと、一切聞いた覚えがないんだが。


「……それで、何が分かったんだ?」

「昨晩の“悪魔”が言った言葉の意味、ですかね」


 フゥが言った言葉の……?


「貴方はあのときの私の言葉に疑問を抱いていたはずですが?」

「“またしても”って言ってたのは気になった。その言葉が出てくるってことは前にも同じようなことがあったってことだろ?……まさかと思うけど」


 いやでも……だとすると大体の筋は通るんだよな。


「そのまさか、ですよ」


 やっぱりそうなるのか。


「父さんも、俺と同じようなことをした……いや逆か。俺が、父さんと同じようなことをしたのか」

「そうです。……そういえば、貴方はご両親が“どういった方々”なのか、ご存知なんですか?」


 どうだろう。


 明らかに一般人とは少しかけ離れてる気はしてたけど、あまり気にしたこともなかったしな……。


「知ってるか、と訊かれれば自信はないな」

「では、貴方の母親が聖女だったこともご存知なさそうですね……多分、ですけど」


 ……ん!?


 なぜだろう、今日だけで父さんや母さんについて、俺の知らないことがどんどん浮き彫りになってきてる気がする。


「聖女様が……いえ、今は違うんでしたね……シエラさんが首から下げているペンダントは、貴方が手渡したモノなんでしょう?」

「モノを持っていれば、仮に約束を忘れていたとしても、思い出せるかもしれないからって、シエラがそう言ったから俺はそれを渡しただけだ」


 あの夢での記憶は今は鮮明に思い出すことができるようになっていた。


 どうしてあのときは思い出せなかったんだろう。


 ……まぁ、いいか。


「そのペンダントからは、“加護”が感じられるんですよ」

「……聖人や聖女が持つ、人を護る力のことか」


 神父が頷いてみせた。


「シエラさんには、自身の持つ“加護”の他に、他人の“加護”が感じられたんです。それも、かなり強力なものが」


 それが、母さんの“加護”だったってことか。


「てことは俺、今までずっと護られてたのか」

「子を心配しない親なんて、あまり居ないと思いますが」


 まぁ、それはそうかもしれないけど……。


「……それにしても、エヴァンはどうして何も言わずに連れていったんでしょう……」


 急に話が飛んだなおい。


「ん、もしかしてお前……何も知らなかったりするのか?」


 こちらに歩いてきているフゥが、そう声を掛けてきた。


 もちろん、傍らにシエラを連れて。


「……何がです?」

「この街の“規則”について。────()()()()()()聖人あるいは聖女の末路とか、そういうの」


 神父が目を細める。


「……その話、聞かせていただいても?」

「長くていいのならな」


────────────────────


 フゥが話し終える頃には、神父は複雑な表情を浮かべていた。


「……んでまぁ、どういうわけか俺は今もこうして“悪魔”として生きてるわけだけども……何か質問とかあるか?」

「……それ、本当の話なんです?」


 大体の人間は真っ先にそう訊くよな、俺もそうだったけど。


「……嘘だったら、どれほどよかったかって今でも思うことがあるんだが?」

「貴方はそれを、エヴァンに話しましたか?」


 神父のその言葉にフゥは首を傾げる。


「いや、話してないぞ。てか気付いたら家に居たんだよなー……コイツの母親が」

「え、いつの間にか家に居た感じだったのか?!」


 一体何があったんだ。


「いやーあれはさすがに俺も驚いた。『誰だこの人』とは思ったけどでも、色々話してるうちに聖女だってこと知って、もしかしたら助けるためにわざと連れてきたんじゃないかって思ったんだ」


 やっぱり最初はフゥでも戸惑ったのか。


 とりあえず疑問に思うことは────


「どこで父さんは“規則”のことを知ったんだろうな」


 ──ということだった。


「……さぁな。ま、今更そんなこと考えたところで何かが変わるわけでもないし、いいんじゃね?あまり気にしなくても」


 ん、また話を逸らされそうな気が。


「あ、あの……おはなしてるところ、ごめんなさいだけど……」


 シエラが突然そんなことを言いつつ、すっ────っと先程の車の方を指さして、


「……なにか()()()()()がありそう、だよ?」


 と言った。


 シエラの指さす方を見てみると────


「……あぁ確かに、()()()()がありそうな感じだな」


 ────何やらガラの悪そうな男達が、従業員と思われる女性の一人を車から無理矢理連れ出している光景が、そこにはあった。

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