Page.8「予期せぬ遭遇」
キリカの誘いで俺達は、五人で街に出掛けることになった。
のは、いいんだが……
「……なんで俺がシエラの“見張り役”なんだよ」
「仕方ないだろ、今のシエラはクロエに懐いてるんだから」
「クレアちゃんも驚いてたね、クロエ君にここまで懐いてるってこと」
「だってシエラ、初対面の人には全くといっていいほど話しかけたりしないんですもん。……懐かれてますね、本当に」
懐いてるって……動物か。
いやまぁ、人間も動物ではあるけども。
などとくだらないことを考えながら、俺は幼いシエラの手を引きながら歩いていた。
にしても、このシエラが幼少期のシエラなんだとしたら、相当性格変わったな……と、少し驚きを隠せなかったりする。
どうやったらあんなに物静かな性格になるんだ……。
────途中から自分の感情を押し殺すようになったから、か。
「どーかした?」
シエラが首を傾げながら俺にそう訊いてくる。
「ん、なんでもないよ」
意外と勘とかは鋭いのかもな。
「クロエって、子どもには優……甘いよな」
急にフゥがそんなことを言い出した。
「なんで言い直したんだよ……別に、子どもは嫌いじゃないからな?」
嘘偽りない、事実だ。
“優しい”って言おうとして“甘い”に変えたあたり、何らかの悪意を感じるんだが。
などと考えていると……
「ねぇ!あれなぁにー?」
シエラが公園の方を指さして、そう尋ねてくる。
その方向を見ると、何やら人だかりができているようだった。
「ん……何かあるのかな?」
キリカも不思議そうな声を上げる。
少し近くに寄って見てみると……
「お、珍しいな。移動販売の車が来てるのか」
フゥが興味深そうに言う。
まぁそれもそうか。
この街では車はあまり見かけることはないし、仮に来たとしても、他の街からの輸入品を運んでくるための輸送車しかないわけで。
「……多分、車を見に来ただけで何かを買っていくつもりはないんだろうけどな」
にしても一体、何を売ってるんだろう。
「クレープ、かな?」
キリカが車に描かれている絵を見て呟くように言った。
「クレープ……?」
クレアが首を傾げている。
「もしかして、どんなモノなのか見たことなかったりする?」
俺の質問にクレアは頷いてみせた。
「んー……クレープって、分かりやすく説明するには、どうしたらいいのかな……」
キリカが頑張って考えているとフゥが────
「ガレットなら、クレアも知ってるだろ?」
────と言った。
「うん、知ってるけど……似てるの?」
「似てるというか……生地が柔らかいのと、大抵は卵とかじゃなくて果物とかを乗せてることの方が多いから、まぁ言ってしまえばお菓子だな」
ん、合ってるんだけど……やけに詳しいような……?
あぁ、そういえば前に俺がなんとなく料理の本を眺めてたら、それを後ろから見てたっけ……。
俺は俺で作れそうなモノを探してたのかなんなのか……あまりよく覚えてないけど。
「じゃあさ、試しに食べてみたらどうかな!少なくとも美味しくないわけじゃないから、ね?」
キリカがそう提案する。
「ん、それもそうだな。……一応、いくらか小遣いは持って来てるし買えなくもないな、少なくとも五人分は」
「えー……クロエ君に払わせるの、気が引ける……私の立場的なもので」
いや、立場とか別に気にしなくていいんだけど……。
「そう言われてもなぁ……」
「……あ、じゃあさじゃあさ、私が買い物に行ってる間、ここで待っててよ!」
「ん、解った」
最後の言葉を言ったのは俺ではなく、フゥだ。
俺のことは無視かよ。
そんなふうに思っていると急に、ぐいっと手を引っ張られた。
あまりに唐突だったせいで俺は、一瞬体勢を崩しかけた。
「っと……危ないからいきなり引っ張らないでもらってもいいか……?」
俺は、手を引っ張った張本人であるシエラにそう言ってみた。
「……おこってる?」
だけどシエラはそれには答えず、代わりに質問で返してきた。
「いや、別に怒ってはないよ」
────と、俺はシエラの頭に手を伸ばし、髪を撫でた。
無意識にそうしていた。
フゥが何か言ったような気がしたが、聴き取ることができなかった。
キリカは……いつの間にか居なくなってるし。
「それじゃ、クレープでも買いに行きますかね……」
とりあえず俺は、シエラの頭から手を離し、そう言った。
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……車を見に来ただけの人ばかりかと思いきや案外、クレープを買うことが目的の人もたくさん居るようだった。
少し待つと、俺達の順番がまわってきた。
「買うのはいいけど、なんの具にするかは自分達で決めてくれよ?」
「んじゃ俺は店員さんのオススメにしといてもらうかな……要するに具は何でもいい。美味いのは分かってるし」
相変わらずフゥは適当だな……。
「じゃあ……私もそれでお願いします」
クレアはまぁ……仕方ないか。
「シエラはどうする?」
「んーとね……あ、あの赤いのがいい!」
赤いの……イチゴのことか。
さて、俺はどうするかな。
……まぁ、一番無難なものでいいか。
「……なんでもいいのでオススメとイチゴを二つずつ、お願いします」
俺がそう注文すると突然────
「────その注文にイチゴを一つ、追加で」
────と、背後からどこか聴き覚えのある声がした。
その瞬間にシエラの、俺の手を握る力が僅かに強められた。
「なっ……!?なんでこんなところに居るんだよ……」
振り返ると案の定、神父が立っていた。
いや本当になんでここに居るんだ?!
……てかさらっと俺達の注文に混ぜてくるなよ払わないからな!?