25. 模擬戦(後編)
「ぐはっ!」
俺は受け身もとれず壁に叩きつけられる。肺の中の空気が吐き出され、呼吸をしようとするも肺はなかなか空気をうけつけない。どうしようもなく苦しくて前のめりに倒れる。
不老不死で寿命が尽きるまで不死身になったが痛いものは痛いし、苦しいものは苦しい。しかし、普通の人間とは違ってすぐに息苦しさは薄らいでいく。
すぐにでも立ち上がって状況を確認しなければと思い手を着くがうまく立ち上がれない。疲れるほど動き回ったわけでもないのに手足が震えていた。どうやらさっきの攻撃で痛みによる恐怖が芽生えてしまったらしい。
しかし俺はそんな体に活を入れなんとか立ち上がり、カイトさんを睨み付ける。
「まだ立ち向かおうとする心意気は「雷魔法だろ」……ん?」
「雷魔法で神経の電機信号のやりとりを強化したんだろ。それがお前のスピードアップと髪の毛が逆立った理由だ」
アニメや漫画なんかじゃあよくある話だ。なら反射神経も上がっているだろう。しかし、自分と同じような戦略でくるとは思っていなかったため対処に遅れてしまった。
「君もしかして前世、"アニオタ"だったのか?」
俺は場違いともとれるカイトさんの言葉にキレた。能力の正体を暴いたらその返答が「アニオタだったのか?」だ。あまりにも呑気すぎる。
「くそが!!」
俺はこの模擬戦で初めて空間魔法を使い、カイトさんの背後から刀で切りつける。
「まぁ、それだけじゃないけどな」
しかしその攻撃は最小限の動きでヒラリとかわされお腹に回し蹴りをくらう。油断していた。転移からの攻撃ならいくら反射神経や動きが速くなったって避けられないと。それを見もせず回し蹴りのカウンター。
俺は吹き飛ばされるが壁を土魔法で柔らかくしクッションのようにして衝撃を吸収する。
「正直言うとな、君を倒すのは難しくない。でも、それをすぐにしないのはなんでだと思う?」
「知らねぇよ!嗚呼、俺が必死になってるのを見て優越感に浸りたかったからだろ!」
俺は吐き捨てるように叫ぶ。
「……まぁ、その答えは君が負けたら教えてあげよう」
「俺が負ける訳がないんだ……。俺が最強なんだ!」
「ならなおさら勝たないとな」
俺はカイトさんの出方を見ることをせず、広範囲に火魔法を放つ。轟々と燃え盛る炎。カイトさんが居たであろう場所を見据える。
「こっちだ」
しかし声がしたのは後ろから。俺はすぐさま転移して距離をとる。
「!?」
脳がついていけなかった。俺は確実に転移で場所を移動したのにカイトさんが目の前にいた。
「終わりだ」
カイトさんは一言そう呟くといつの間に奪ったのか俺の刀を胸の中心に突き刺した。
「ちくしょう……」
俺は血を吐きその場に倒れる。最後の力を振り絞ってカイトさんの顔を見上げる。カイトさんの顔は勝利を喜んでいる顔でも俺を嘲笑っている顔でもなかった。
なにかを悔いるような、悲しみに耐える顔をしていた。その表情がやけに印象に残って俺の意識はブラックアウトした。
あんまり戦闘してないような気がしますがご了承下さい
自分に才能豊かな表現力さえあれば……と思う今日この頃




