8. 王女様
俺は今4人の兵士の傷を治している。兵士は10人以上いたが、生きていたのはこの4人だけだった。一人ずつ回復させるのは面倒なので空間魔法を使って4人を同じ場所に転移させ傷を治していく。回復は光魔法を使っている。4人を回復させ、あとは意識が戻るのを待つだけの状態になると女の子は話しかけてきた。
「先ほどは助けていただき誠にありがとうございます。それに兵士の回復まで…。感謝してもしきれません」
「いえ、当然のことをしたまでです」
俺はそう答えながらこれからのことについて考える。口調…変えた方がいいよな。とりあえず敬語で話せばそれっぽくなるだろ。あとは一人称もやっぱり私にしないといけないのかなぁ…。と、これからのことで憂鬱な気分になっていると…
「先ほどの…私を助けてくれたときや盗賊を倒したとき、そして兵士を移動させたときに使った魔法はなんですか?それにあれほどまでの光魔法を使えるということは神官の方のはずなんですが…。それだと盗賊を倒したときの素早い身のこなし方の説明がつかない…。あなたはいったい何者なんですか?」
とすこし疑いの目で見てくるので俺は答える。
「私の名前はクラウディアです。名前以外は記憶喪失で覚えていません…。今はその記憶を取り戻すために旅をしている旅人です。それと先ほどの魔法は空間魔法です」
名前は前世のゲームのキャラの名前だ。そして便利なのが記憶喪失という設定。これさえ言えば大抵は乗りきれるだろう。しかし俺はこの世界の設定を忘れていた。
「!空間魔法が使えるのですか!?」
そう言われて思い出す。…確か女神が空間魔法は転移者しか使えない的なことを言ってたな…。俺は動揺してしまえば余計な事までバレてしまうと思い…
「空間魔法がどうかしたのですか?」
とまるで何事もなかったかのように答える。
「あぁ、そういえば記憶がなかったのですね…。空間魔法って転移者様しか使えなかったはず。でも、召喚の魔方陣は発動してないし…。帰ったら一応魔方陣を確認しとこうかな。それなら急いで帰らないと…」
女の子は途中からブツブツ呟くように言っているが俺の耳はバッチリ聞こえている。こっちが素の口調か、と思っていると…
「うぅ…」
と呻き声が聞こえる。どうやら兵士の1人が目覚めたようだ。辺りを見回して状況を確認している。
「ハッ!盗賊は!?」
その兵士は先ほどのことを思いだし大きな声をだす。そして、ほかの3人を起こしていく。3人の兵士も周りを見て状況を確認すると盗賊のことを思いだしたんだろう、武器を構える。すると先に起きた兵士が女の子を見つけ、俺を見つけると血相を変え走ってくると女の子を庇うように前に立ち、俺に剣を向ける。それに続くように他の兵士も女の子を庇う。
「王女様、大丈夫ですか。おい!そこのお前。王女様になんのようだ!」
俺が「ええっと…」と答えに迷っていると…
「大丈夫です。この方は私を盗賊から助けて貴方達の傷を治してくれたのですよ」
女の子が兵士を宥める。兵士はしぶしぶ剣をおろす。しかしまだ疑いの目でこちらを見てくるが…
「貴女は王女だったのですね」
と俺は気にせず質問する。まぁ、だいたい予想はしてたけどね。
「はい、私はハワード王国の王女。エリス・ハワードと言います」
女の子は女の子らしからぬ洗練された動きで丁寧にお辞儀をする。俺はそれに対応しきれずに
「あぁ…これはどうも」
と変な返しをしてしまう。それを女の子、エリス王女はクスクスと笑い、俺は兵士にさらに厳しい目で睨まれるのであった…。