うそつき姫の日常
今回は御伽噺だよ。
◆「うそつき姫の日常」
昔々・・・いや違うな。近くて遠い世界のお話です。
ケナという帝国にウェンと言う国が有りました。その国の王様はたいそう強く、剣一本で国を取り返したと言われるほどです。
その王様には四人の子供が居ました。三番目までは全員女の子です。やっと生まれた男の子、そのいっこ上の姉【サラーナヤーマ】が今幕の主人公です。
最も影の薄い筈のお姫様。美しいかと問われれば可愛いといわれ、太陽のように笑顔を振りまく向日葵のようなお姫様は、城の名物です。いわゆるおてんば姫と言うものですね。
それなのに人はお姫様を「うそつき姫」と呼びます。
誰もが首を傾げてしまうような呼び方は、たった一つのお姫様の口癖から付いていたのです。
「わらわには最高の騎士が付いておる!」
しかし、騎士の姿がありません。
「窮地になったら現れるのじゃ!」
「ではお名前は?」
「風を睨む騎士じゃ!」
当然、そういう名前の騎士はおろか、そう呼ばれる騎士も居ません。
人気者のこのお姫様妬んで人は「うそつき姫」と呼ぶのです。
では、姫の一日を覗いて見ましょう。
姫の朝は深夜に始まります。
朝の鐘を鳴らす役目の兵に挨拶をしてから、お菓子の仕込みに入ります。
お城の兵隊全員分です。大変な作業ですが、前の日の夜会の残り物を駆使して小さな身体で一生懸命作ります。
当然城の者は立場がありません。
それでも辞めてくれとはいえません。
理由は二つ有ります。
まずは、好評と言う事。お菓子はキドニーパイなど甘さ控えめな物で、味も美味しく朝食の足しになると兵から圧倒的な支持を集めています。
そして、もう一つは既に妥協案であると言うこと。最初は「夜会の残り物が勿体無いから朝食を作らせろ」と言う要求だったのです。
残り物と言っても一切れしか食べられていない豚の丸焼き等です。非常に勿体無い。
それには城の者は猛反対でした。
そこで、お菓子の妥協案が出てしぶしぶ納得したのです。ただ、兵隊全員分と言うのは誤算でしたが・・・
簡単そうに言っていますが、大変な作業です。しばらくすれば飽きるだろうという予想を覆し、いまだ飽きず日課となっています。
お菓子を配り終えると朝は終ってしまいます。
これで一安心。
次は早いお昼寝の時間ですが・・・それは嘘です。
変装して城下町に繰り出します。そこでも姫はうまくやって、街の情報屋として顔役に数えられるほどです。情報屋のサラちゃんといえば大体話が通ります。強面のお兄さん達に大変な人気です。
よからぬ事を考える族はそっと居なくなります。その末路を聴けばサラちゃんが悲しむからです。
当然毎日とはいきません。曜日を決めて外出します。
外出しない日は、偽物作りに性を出します。もちろん、これを売りに出したら犯罪です。しかし、偽物は身に付ける為です。
お姫様であるサラーナヤーマは大変高価な宝石を身に着けています。その偽物を作るのです。
今では姫の身に着ける宝石は全て偽物なのですが、頑張りすぎたので見抜けるものがほとんど居ません。
余った宝石を売って商売と言う訳でもなく。あくまでもとでとして商売をするのです。
桁違いの資本金を持っているのです。並でもとんとん。姫には商才も有ったので大抵は膨れて帰ってきたのです。
困るのは荒くれ者です。そんな裏事情を抱えた情報屋は朝にしか現れません。腕利きのそれも名の通った男達が欠伸を噛み殺しながら、サラちゃんの出現を待たなくてはいけません。夜更かしも出来ないのです。
その様を笑うものには、こう言葉が返ってきます。
「だからお前は二流なんだ」
お昼になります。
この時間になると貴族達も起きてきます。貴族は園遊会の関係で夜は遅く、朝も遅いのです。
お姫様は行動を慎まなくてはいけません。
お気に入りの従者イーリアとお友達のアリューシャを連れ、いわゆる貴族の生活をします。
それも活動的で、悩んでいる貴族を見つけては悩みを聞いてやり、場合によってはサラちゃん名義で助け舟を出したりします。
何しろ街の荒くれ共相手に商売をしているくらいです。悩みの理由も良くわかるし世情にも明るい。
むしろ、明るすぎて怪しまれる事もありますが、そんな時は笑って誤魔化す。
サラーナヤーマ自身可愛らしい姫です。そこにお供の二人は文句なしの美人で、この三人で笑えば大抵の事は水に流せます。
それに二人は事情を知る協力者でもあったのです。
頭がよく美しい歌声を持つ歌姫アリューシャと【本物】というあだ名をもつ戦乙女イーリア。
やっかみは絶えませんでしたが、どんな言葉もそれで切って捨てられるのです。
「ただのやっかみです」と・・・
よるの時間になります。
煌びやかな園遊会の時間です。イーリアとは此処でお別れです。表向きは仕事ということになっているのですが、貴族ではなく美しいイーリアには悪い虫が寄ってきます。
どんな戦士にもイーリアは引けを取りません。大抵の男は最後に【本物だ】と逃げ帰るのです。ですが、揉め事を誘発するのは・・・という事情で離れます。
昼間のお仕事の手伝いなんかも頼みます。ただ、真面目過ぎるので仕事は慎重に選びます。大切なお友達だからです。
当然、残念がる貴族も多いのですが、今度は歌姫の出番です。
歌姫の歌声の前にはそんな事を忘れてしまうのです。ただ、アリューシャ自身は体が弱いのです。線が細く見えても大変気丈な性格なので、時には冷淡な言葉でぴしゃりと姫を守ります。
園遊会は続きますが、朝の早い姫様と体の弱いアリューシャは早々に退散して床に付きます。
それが第三の姫サラーナヤーマの日常です。
こんな生活を続けているとやはり判る者は判るのです。
心ある伯爵は高く評価し、名の有る騎士は膝を付き、忠誠を捧げるのです。
しかし、サラーナヤーマはそれを受け取ろうとしません。
「わらわには最高の騎士が付いておる」
お決まりの台詞です。
そして、忠誠を受け止めてもらえなかった騎士がこう溢すのです。
「うそつき姫めが・・・」と