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ヒーローデイズ3

 僕たちは再び外へ出た。風が冷たく、陽は既に沈んでいる。

 またか……。これじゃあまた柑南に怒られるな。

 

「小娘、わかるか?」

「うん、敵だっ!」


 眼を凝らしてみると暗闇の中を何かが(うごめ)いている。

 (うごめ)いているとわかるのは奥に見える木々が見えたり隠れたりしているからで、ようこさんのような妖怪の感覚も、山原のような敵を感知する能力もない。まだ暗闇に目が慣れていないから姿も数もわからない。


「奴らはおぬしを狙っておる。なぜだかわかるか?」

「さあね! でも戦わなくちゃ!」


 山原はお面を正面に被り、臨戦態勢を取る。

 だがそれをようこさんが止める。


「待て、理由を知っておかねばならぬ。おぬしが狙われる理由をな」

「おお! 確かに僕は何で敵に追われているんだろう?」

「それはおぬしがこの世界の住人ではないからじゃ」

「本当か!? 僕はこの世界に召喚されたヒーローなのか!?」


 山原は家族のことも、どうやったら自分のもと居た世界に帰れるのかも訊かなかった。不安がる様子もなかった。

 むしろそれが嬉しいことのようにようこさんに訊き返す。


「ヒーロー――――ではないのう。じゃがマンガや小説の主人公のような怪異には遭遇しておる」

「すごいなぁっ!」

「それを語る前にまず訊こう。小娘、おぬしが空から落ちてくる前、帰り道を歩いていたのは何時くらいの事じゃ?」

「うーん、遊んで帰ってたからなぁ。暗くなってからだった」

「やはりな。では語ることとしよう」


 ようこさんはそれに続けて『怪異・夕暮れ、子供に迫る影』と題して語り始めた。



「『夕暮れ、子供に迫る影』とは所謂(いわゆる)『神隠し』じゃ。突然にして忽然と消え、釈然としない日々が周りには訪れる――――それが神隠しじゃ。

「神隠しと云えば行方不明の事じゃが、それは総称で、神隠しが起こるには様々な場合があり、様々な条件が必要になる。小娘の遭遇した『夕暮れ、子供に迫る影』とは暗い道を子供が一人で帰っていることが一つの条件だった。『子供』というのがどのくらいまでかを判断する基準ははっきりとはしておらん。じゃがまぁその小娘はまだ子供の部類じゃろう。

「怒るでない、怒るでない。あと五年したら儂のようになれると言っておろうが。

「この物語は子供へ夜道の危険を説き聞かせるもので、夜道は危ないから明るいうちに家へ帰れ、とい

う話じゃ。早く帰らないと天狗に(さら)われてしまうぞー、と親が子供に言うのじゃな。

「ここまでは『子供へ』の話じゃ。それだけでは怪異にはなったりせん。『物語』なのじゃから物語のままに決まっておる。

「それで、じゃ。小娘が神隠しに遭遇したのは小娘だけのせいではない。小娘の『親』のせいでもあるのじゃ。

「『夕暮れ、子供に迫る影』が怪異になるのは、先ほどの話に加え、親が子供を心配しない場合じゃ。我が子の帰りが遅いと親は少なからず心配になるもの。それは少しでも愛情があれば心配してしまうものなのじゃよ。まあまだおぬしらに言ったところで理解はできんじゃろうが。

「親から子への愛情が全く無い場合、親を戒めるため子は攫われる。子がいなくなり、子供の大切さを親が身に染みて理解すると、子供は帰ってくる。この物語の裏話と言ったところじゃな」



「表と裏が一体となり、初めて物語は怪異となる。恐らく小娘の親は――――」


 ようこさんは躊躇うことなく続きを言おうとした。

 それはようこさんが妖怪だからなのだろう間として僕はそれを言わせるわけにはいかない。

 それを聞くにはまだ山原は早すぎる。


「それ以上は言うなよ、ようこさん」

「いいんだよ、お兄さん。僕の父さんと母さんは離婚したんだ。最後まで僕をどっちが引き取るかで揉めてたよ、きっと僕は必要とされていなかったんだろうね」

「山原……」

「でもさ、ここではお兄さんがいて、赤城さんがいて、ようこさんがいる。それに戦うべき敵がいる。今僕はきっと必要とされてるんだよ、必要とされている世界に呼ばれたんだよ」


 確かに今いなくなってもらっちゃ困るぜ。

 柑南とも仲良くしてほしいし、僕が妹と仲直りするのをみていてもらわなきゃ困る。

 生で活躍するヒーローももっと見たいし、何よりお前みたいな優しいやつを必要としない方がおかしい。お前を必要としない奴がどこかにいるのなら僕がそいつらに直談判して言い聞かせてやろう。


「僕にはお前が必要だからな、山原。僕の前から消えるなよ」

「ありがとうね、お兄さん。じゃ、さくっと敵を倒してくるよ!」

「待て待て小娘、一人では無理な数じゃ。その不死と吸血鬼に手伝ってもらえ」


 ようこさんは僕と赤城を指さしながらニヤリと笑った。

 助けると言ってもどうやってだろうか。赤城も僕も今はただの不死と人間だ。僕の不死はまだ続いているものの、誰かを倒せるような攻撃力はない。赤城も空手や剣道が強いと言ってもそれは人間の技であり、怪異に対するものじゃない。


「鬼の娘、南木の血を吸え。意識を途絶えるまでじゃ」

「でもそんなことしたら――――」

「大丈夫じゃ」

「おいおい、僕の意識を途絶えさせるって物騒な――――もちろん嘘だろ?」


 かぷ。

 

「ちょっと待て赤城っ! 何をするんだよ!?」

「ごめんなさい、桐名くん」

「あらっ? あららっ!? 赤城さんがお兄さんに抱きついて! あらららっ!」


 僕の後ろから誰かが僕の身体を動かす感覚。あの時と同じだ。

 誰だよ、一体。


「これはこれは、呼び出しが早いなぁ、ようこさん」

「すまんのう、不死よ。いや、最初の死者にして永遠の観測者――――マーベラス・デスファミリア・リンドンと呼ぼうか」


 ようこさんは僕に向かって『マーベラス・デスファミリア・リンドン』と言った。

 それが僕の名前であるかのように。


「懐かしい名前だが今は違うぞ。お前の名前が『ようこさん』であるようにな」

「ふむ、そうか」

「ところでこの状況は面白いな。この垢共はこの娘に寄ってきたのか?」

「その(よう)じゃ。力を貸してはくれまいか?」

「よかろう。所詮我は桐名南木の一部。思考の、人格の一つに過ぎないからな。だが我のことを主に教えるのはいささか危険だぞ、自我が崩壊するやもしれん」

「南木なら大丈夫じゃろう。心遣い感謝する」


 僕の身体を後ろから操っていた誰かが姿を消した。

 そして背後から囁くように『好きなようにやればいい』と誰かが言った。


「えっと――――僕だよな?」

「あぁ、おぬしじゃよ。南木」

「そうじゃ、今のうちにおぬしを不死にした者について話しておこう」

「え? あの敵は大丈夫なのか?」

「いぶき苑の領域内に居る間はあやつらは入ってこれん。儂の力が働いておるからな」

「そ、そうか。それで、僕を不死にしたのは真神って神様じゃなかったのか?」

「あぁ……おぬしは――――桐名南木は『最初から』不死だったのじゃ」


 ……どういうことだ? 

 さっぱり訳が分からない。

 僕が最初から不死? ――――ということは生まれた時から不死と言うことじゃないか。

 じゃあ僕はそもそも人間ではなくて最初から人間ではなく怪異だったということなのか?

 それなら僕は今まで家族を騙してきたということになるのか? 実は化け物でしたー、なんて言えるはずもない。第一、生まれたときから不死なのなら、真神さんに会ったところで意味がないじゃないか。


「いや、それはおかしいぞ、ようこさん。なんせ僕は大災害より前は治らないはずの病気に侵されていたんだから。その病気は不死の力で治ったんだぜ」

「そうじゃな、大災害によっておぬしは不死になったのじゃからな」


 どういうことだよ。ややこしい。

 今だけは、ようこさんの言い回しにいらいらする。

 不死の能力であの病気は治ったんだ。それに『大災害で不死になった』ってさっきと言ってることが違ってるじゃないか。


「桐名くん、落ち着きなさいな」


 赤城が僕の頭に触れる。

 そしてつつっと滑らせ僕の手を握った。今この手を離したら僕は僕を失ってしまいそうだ。 

 三日前、僕が赤城にそうしたように、今度は赤城が僕の手を離さないでいてくれている。


「大災害の時、おぬしは不死に目覚めた。あの炎によってな。お前の中には、とある伝説の不死が宿っておっての、そいつが目覚めたのじゃな」

「僕の中に伝説の不死が? 本当かよ、それ」

「今更私たちに何が起きてもおかしくはないでしょう? 本当よ、桐名くん。私も、山原さんも見たわ」


 赤城は躊躇わず肯定した。

 それが優しさだということもわかっていた。だけど今の僕はその優しさを素直に受け入れられない。反抗期と同じだ。


「僕も見たぞっ! そいつの名前はマーベラスなんとかだった!」


 お面を被ったままの山原がびしっと手を挙げる。

 今日はお前を助けるために来たのにな。いつのまにか僕の話になってしまってる。

 ごめんな、山原。


「そう。奴の名前はマーベラス・デスファミリア・リンドン。この地上で最も知能を持った生物である人間の中で最初に死んだ者の名前じゃ。その者は『死』と言う概念を最初に見出した偉人であり、死すら従えた不死となった。そやつがおぬしの体には宿っておる」


 なんだよ、それ。

 いつのまにか僕は僕じゃなくなっていたのか?

 あの大災害の炎で僕と言う存在は死んでしまっていて、今の僕は僕じゃなくてその伝説の不死、マーベラス・デスファミリア・リンドンとか言うやつなのか?


「桐名くん、たとえあなたの中に誰が居ようとあなたはあなたよ。気にする必要はないわ」

「そりゃあお前はただの吸血鬼だもんな、気にする必要はねーよ」

「そうね、私はただの吸血鬼よ。でも私を吸血鬼にしてくれたのは誰? 『何者』かわからなかった私を見つけてくれたのは、私を吸血鬼として認めさせてくれたのは誰? 私の過去を受け止めてくれたのは伝説の不死とか言う大それた存在じゃない――――ただのクラスメイトのくせにお節介な桐名南木、あなたよ」


 赤城は僕の頬をぱしんと叩き、くっついてしまうんじゃないかというくらいに顔を近づけてそう言った。

 赤城の手から体温が直接伝わってくる。

 温かい。

 そして力強い言葉が僕の折れかけていた心をつなぎ止めてくれる。

 

「ふふん、良いパートナーを持ったのう、南木。そうじゃ、おぬしの中にいる不死はおぬしのものじゃ。今のマーベラス・デスファミリア・リンドンはお前の一部であり、おぬしを乗っ取ることなど到底出来ん、せいぜい操ることくらいじゃ」

「操られるだけで十分ダメじゃないか?」

「拒否すればいい。拒絶すればいい。『命令』すればいい。あやつは鬼の娘の中の別人格と同じようなものじゃからのう。しかもおぬしを気に入っておるようじゃしな」

「会話とかできないのか? そのマーベラス・デスファミリア・リンドンと」

「影に話しかけることを意識して心の中で話しかけてみよ。影はもう一人の自分という(はなし)もある、気持ちの問題にしか過ぎんがそれで話はできるじゃろう。物は試し、やってみろ」


 言われるがまま、応接間から漏れる明かりによってできた自分の心に語り掛けてみる。

 周りには謎の敵がたくさんいるはずなのにもはや誰も気にしていない。ヒーローの山原でさえも。それでいいのかヒーロー……。 


「マーベラス・デスファミリア・リンドン……だっけ? 聞こえてるかー?」

「……」

「あれ? 死んでるんじゃないのか……」

「聞こえているぞ、南木」


 うおお、本当にいたぜ。

 口調からはなんか紳士的なイメージだ。イメージも何も僕自身なんだからそんなものないけど。

 ていうか自分の中から声が聞こえるってすごいな。よくある頭に響くってよりは耳のそばで(ささや)かれている感じだ。


「まずはじめにお前は僕の味方なのか? とりあえず聞かせてくれ」

「もちろん味方だ。というより自分自身は敵ではない、とお前自身が思っていたではないか。我はお前に取り憑いた幽霊のような存在だ。実際は中にいるのだがな。お前と共に誕生し、お前とともに生活をしてきたんだぞ」

「お前がたまに僕の体を操っていたのか?」

「そうだ。お前の意識が途切れると反転して我が出てくるようになっている。初期設定のようなものだな。やめておくか?」

「もちろん。僕は僕で居たいしな」

「了解した。我は出てこなくていいのだな?」

「うん、出てこなくていい」

「ではあの女に血を吸われた時は我の代わりに我の力がお前の体に現れる。不死本来の力と言うことだな」

「仕方ないな、わかった」

「あと、私の性別はどちらだと思う? この場合我が人間として死んだときの性別と言っておこう」

「その喋り方からだと男だろ?」

「残念でしたー。我は女だった。こうなってから久しいので女らしさと言うものはもう消えてしまったがな」

「それはそれで大変だな」

「思っているほどではないぞ。なんせ寄ってくる男どもがいないからな」

「生きているときはモテたのかよ?」

「はん、モテたどころの騒ぎではないわい。男どもすべてが我に振り向き、寄ってくるくらいだ。夜なんぞ男どもが詰めかけてきたこともあってだな……」

「すげーな……っていうか話ずれてるし」

「そうか。では我は再び傍観者となろう。何かあれば言うがいい、あと我の事は好きなように呼ぶといい、長いだろう」

「自分で言うか、それ……。うん、わかったよ、ありがとな」


 意外と良いやつだったマーベラス・デスファミリア・リンドン。

 僕が三年前に『不死』を受け入れたように、赤城が『吸血鬼』を受け入れたように、僕は僕を受け入れよう。結局僕もいずれどうにかしなければいけなかった問題だったらしい。


「終わったか? 南木」

「うん、もう大丈夫だ。不死本来の力を使えるようになったらしいしな」

「そうか、それは良かったのう。では今から山中に群がって来とる奴らを退治してもらおうか――――おぬしら三人で、じゃ」

「僕と山原はいけるとして、赤城は大丈夫なのか?」

「あなたが自分と話している間に私はようこさんに吸血鬼について訊いていたの。どうやら血を吸いすぎると吸血鬼になってしまうらしいわ」  


 だから今の私は吸血鬼よ、と言って赤城は微笑んだ。

 図書館の時と同じく鋭い犬歯が見えた。

 今回はわざと見せたんだろうな、きっと。


「それ、行くがよい」

「正義のヒーローくいな! 行っくぜーっ!」

「おい、待てって!」


 山原は地面を蹴るとくるくる回転しながら二~三メートルほど飛びあがった。

 そして正面にいる黒い人型の塊にお得意の飛び蹴りを放った。そして次々とヒーローさながら敵を蹴散らしていく。


「ちょっとようこさん、アイツら数が多くないか?」

「いやー、話しとる間に頂上一杯に増えてしもうてのう」

「おい!」


 僕はまだ自分の力がどれほどかわからないので、落ちていた木の棒を持って敵へと向かっていく。

 一方赤城はというと、ロングスカートにも関わらず巧みな足さばきで人型の敵の拳を躱し、人体でいう急所を攻撃して一撃で落として回っている。まるで肩についた誇りを払うお嬢様のように歩きながら黒い塊を減らしていく。スカートを裂いて蹴りを放つ女格闘家のような武闘派ではないらしい。

 いつもと変わらない平常運転だな。

 こうなると男の僕も負けてはいられない。木の棒を握り、僕に拳を降る塊の腕をしゃがんで避け、振り切ったところを見計らって腹部を横に薙ぎ払った。見事に両断した。木のほうが。


「あちゃー、その木が折れるとはのー。そこそこ固いのにのー」


 振り向くといぶき苑の縁側で優雅にお茶を飲んでいる狐が一人。

 お前も来いよ! と言いたくなるが言い返されるのはわかっている。

 どうせその場所を離れられないんだろう?

 ここを離れたらいぶき苑に敵が入ってくるー、とか適当な理由でさ。 

 そんなことはわかってるぜ。

 だから僕はそんな妖怪に頼らず、赤城を真似して素手で戦ってみることにした。

 敵の攻撃はというと、不死の力のおかげ(おそらく)でイメージ通りに躱せる。イメージ通りに体が動くぜ、というやつだな。

 相手の攻撃を確実に躱して攻撃、躱して攻撃。ヒーローアニメに出てくる雑魚敵のような黒い塊の攻撃は思ったより単調でそれを繰り返すと以外に楽なものだった。


「桐名くん、これがゲームだとするなら雑魚敵の後に何が待ってるかわかるわよね」

「ボス……か?」

「見てごらんなさい。私たちに勝てないと思ったのか集まって大きくなってるわよ」


 赤城に指をさされた方向を見ると、通常二~三メートルほどの黒い塊が集まり固まって十メートルほどの巨体に仕上がっている。

 確かに戦隊モノに出てくる敵に巨大化するのいたなー、懐かしい。


「すっごーいっ! 巨人化したぁー! 行くぜ~っ!」

「山原っ! ここは僕に任せてお前はヤツを!」

「お、お兄さん……! よし、わかったっ! 必ず戻ってくるからな!」

「任せろ、お前の所へは一匹も行かせないぜ!」

「……なにをやっているのよ。ヒーローごっこ?」


 赤城が冷ややかな眼で僕たちを見ている。

 これ以上赤城に冷たい眼で見られるのには耐えられないので僕は山原にアイコンタクトで『任せろ』と伝えて戦闘に戻る。   

 赤城が無双してくれたおかげでほとんどの敵は消えていた。この活躍には真田幸村もびっくりだろう。

 あとはボス戦をしている山原だけだ。

 ここで加わるのは主人公の邪魔をするだけなのでやめておこう。

 

「ねぇ、桐名くん。どうせ邪魔しにはいかないのでしょう?」

「そのつもりだけど」

「不死の本来の力ってどんな感じなのか教えてくれないかしら」

「んーと頭の中で格好良く敵を倒している自分をイメージすることはよくあるだろ?」

「あるの?」

「え? ないのか!?」

「少なくても私にそんな十四歳頃にかかりそうな病気の症状はないわ」

「えー……うん。俺もないよ、ないね」

「本当可愛いわね、桐名くんは。それで――――イメージがどうしたの?」

「可愛い!? ま、まあそのイメージ通りに体が動くようになるんだよ」

「なるほど、ビームとか波動とか気とか波紋とか光線とかは出たりしないの?」

「いや、出ると思うのっ!?」


 しゃっきーん、と両腕を十字にして何かの真似をしている赤城。それは初代ですか、赤城さん。

 それより赤城が少年漫画に出てきそうな技の数々を知っていることが驚いた。今までの話じゃあ赤城の兄弟に男がいるとは思えない。ただ好きなだけかな。


「まあ私は反射鏡を身につけているから効かないわよ」 

「マニアックだな、おい」


 赤城はパントマイムで自分の前に壁があるようにしてみせる。

 中々に上手い。そしてしたり顔が腹立つ。いつからこんなキャラになったんだよ、キャラ見失ってるぞ。

 そして危ないぞ、この会話!


「ちなみにね、私が吸血鬼になって何が変わったかというと――――」


 ずいっと僕の口元に顔を近づける。

 顔がいつもと違う。なんだか酔っぱらっているようで酔っぱらっていない酒の強い人、みたいな。もちろん僕は未成年だし、そんな友人もいないし、酒も飲めないのでイメージに過ぎないけど。 


「ど、どうしたよ!」

「積極的になるのよ」


 ふふっと微笑むと赤城は、それと、と付け足した。

 僕の驚きを楽しむかのように顔を離す。

 今のこいつの一挙一動が怖い。


「あと私も特別な能力が追加されたわけじゃないけれど、基礎能力が大幅に上がるみたいね。今なら山原さんのような動きも可能だと思うわ」


 そうだ、山原のあの強さはどこから来てるんだ?

 いくら別の世界から来たと言っても二~三メートルも飛べるようにはならないだろう。それとも神隠し以外の怪異にも遭遇しているということなのだろうか。それならまだ物語は終わらない。今いる敵を倒したところで何も解決はしない。ただ現状維持に努めているだけに過ぎない。


「ちょっと桐名くん、そこでしっかり立って腹筋に力を入れてみて」

「なにかするのか?」

「あなたの腹筋が気になるのよ」

「どういう意味だよそれ……」

「強いオスに()かれるのよ」

「後で思い出すと後悔するくらい今のお前相当なことになってるぞ」

「いいから早く」


 無理だ、いつもの赤城にも何を言っても無駄だけど今の赤城はさらに無駄だ。面倒くさくなるだけ性質が悪い。

 僕は言われるがまま腹筋に力を入れる。正直病気が治った中学三年生の時から嬉しすぎて体を鍛えていたからそこそこ腹筋はあると思う。


「ふーん、これが噂のシックスパックというやつなのね」 

「どこの噂だ」

「まぁまぁ、ちょっとそのままでね」


 というと、赤城は僕の方へと走ってきた。

 微笑んでいるけど、この顔はよくないことを考えている微笑みだ。

 だめだ、避けないと。

 こういう時に限って体は動いてくれない。

 というより、赤城の身体能力も上昇して僕の身体能力も上昇するのなら素の能力が高い赤城が勝つのは当たり前だった。


「波紋パンチ」

「がっ――――」


 違う、それはただのパンチだ赤城……。

 僕は不死のおかげ――――訂正。不死のせいで意識を失わないまま、空中を舞ってようこさんの足元までぶっ飛んだ。『ぶっ飛んだ』のだ。

 服は摩擦で破け、泥だらけになった。


「みっともないのう、南木。まあ可哀想じゃから服だけは直してやろう」

「言ってくれるぜ……」


 ようこさんが哀れみの目で僕の服を直してくれた。直すというよりかは再生に近い。元通りになったのだ。


「波紋は使えないのね」


 そう言いながら赤城がこちらへとやってくる。

 来るな! 悪魔! 

 今のお前は危険極まりない!


「赤城、知ってるか? 波紋は吸血鬼を殺すんだぜ」

「あ、そうだった」


 はっと気づく赤城。

 やる前に気付け。

 それに今日一番のダメージが赤城のパンチって……。

 魔王戦で間違って仲間に攻撃したのと同じ感じだぜ。赤城が勇者で僕が被害者の僧侶だけどな。パーティの武闘家は現在仲間割れしている勇者と僧侶をよそに一人でボスと戦っているし。こんなパーティに魔王討伐なんて任せられねーよ。


「ほれ、小娘の方が終わった様じゃぞ」


 僕と赤城は山原が戦っている方へ向く。

 お面をつけたヒーローは勇み足でこちらへと歩いてくる。砂煙が舞っていればきっといい絵になるだろうなー。


「勝ちまちたっ!」


 あ、噛んだ。

 盛大に噛んだ。

 これ以上ないタイミングで噛んだ。

 せっかくの勝利報告なのに。


「かっ! 勝ちましたっ!」

「わかっておる。笑いを堪え取るのはそこのアホ南木だけじゃ」

「え!? 僕だけっ?」

「私は笑ってないもの」

「うーっ! お兄さーんっ!」

「ごめんごめん、悪気はなかった!」


 とりあえず、赤城と山原が謎の黒い塊を一掃してくれたおかげで現状危機は回避できた。

 さて、これでこの謎の敵が一体何なのかようこさんに教えてくれるのだろうか。

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