シスターズデイズ4
「着いたわ、桐名くん」
「それで一体何なんだ?」
額にうっすらと汗の浮かぶ僕はそれを拭って赤城の正面に立つ。
相変わらずぽっかりと穴の空いたような広いこの空間は星がよく見える。
木々がないおかげで町も一望できる。
年末にはこの場所で初日の出をみる人も多いくらい眺めは良い。
だけどこんなところでなぜ赤城は僕をまっすぐ見据えて立っているんだろう。
「『ただいまー』」
いぶき苑は現れない。
なぜかはわからないがいぶき苑も怪異の一つだ。そういうこともあるんだろう。
気を紛らわせるために言ってはみたものの、本当に現れると用もないので対応に困る。
出てこなくてよかったー。
「いぶき苑は現れないな」
「その方が好都合よ」
「その……、僕に何の用なんだ?」
話を繋ぐこともできずに本題へ突入しそうだった。
ここまでくると緊張してしまう。
相手は赤城で何も緊張することはないのに。
赤城に真っ直ぐ見つめられると妙な緊張を感じる。
そしてこころなしか覚悟を決めたかのような顔をしている気がする。
「あなたに――――私の過去すべてを聞いてもらいたいの」
山頂に駆け巡る一段と強い夜風が僕らの間を吹き抜ける。
赤城の過去というのは以前裏赤城から聞いた凄絶なもののことだろう。
「私の口からは直接言ってはいないし、あの子は見ていただけなのだから、私からも言っておこうと決めたのよ」
「そうか」
「約束してくれるかしら。これを聞いても心配しすぎないこと、考えすぎないこと。私の中でこれはもう片付いていることだから」
「わかった」
だから赤城は公園で僕の心の整理をさせたのか。
これ以上僕が考えすぎてしまわないように。
意識させないように。
そしてこれは赤城なりの――――
「私からの信頼の証として聞いてほしい」
赤城自身も思い出したくない、話したくないと言っていた。
それを打ち明けるには覚悟と心の準備が必要だ。
それがここまで来る間の時間だったのかもしれない。
「わかった」
赤城が覚悟を決めているのだから僕も決めなきゃならない。
聞かなきゃならない。
それは背負うとか、心配だとかじゃなく、ただ知りたいからだ。
赤城のことをもっと知っておきたいと思ったからだ。
「私は物心のついた時から――――あるいはもっと前からだったかもしれないけれど、父から暴力を受けていたわ」
「うん。聞いてる」
「なんとか体に傷は残らずに済んだけれど、私は自分がおかしくなっていくのがわかった。
「お母さんの体は今でも不自由なところがあるし、傷も多くて人には見せられるようなものではないわ。それくらいだったのよ。あの男の暴力は。
「私はあの男に仕返しをしようと様々なことをやったわ。財布を捨てたり、見知らぬ女の人と出掛けるときに着る服を汚したり、女の人の番号がたくさん入った携帯電話を折ったりもした。
「その時の私はそれが一番だと思ってた。だけど私がばれない様にしたことの数々はお母さんへの暴力に変わっていたの。それに気づいたとき、私はあの男からの暴力に耐えるようになった。母には言わず、一人で。
「結果的にそれが間違いだったかはわからない。だけど、あの男の暴力は私に対してもひどくなっていった。
「あの男が愛人にお金をつぎ込んでいたことも知っていたし、お母さんと離婚してそっちに行くという話も盗み聞きしていたの。
「それを私はお母さんに言えなかった。お母さんのことだから知っていたとは思うけれど、私は言うべきじゃないと思った。
「早く行ってしまえ――――とずっと思っていたわ。早く私たちの前から消えればいいのにって。
「十三歳、中学生になると私も女だから胸も大きくなり始めていたし、体のあちこちに変化が出てきた。決して言わなかったけど、男の人は気づくのよね。父も気づいたわ。
「それからは暴力の代わりに、お風呂に勝手に入っていたり、何もないのに私の服を脱がせたりして楽しんでた。そういう趣味もあったのよ。
「その時私は気づいたの。この人は私を娘として見ていないって。
「服を脱いだりお風呂くらいは暴力に比べると全然ましだった。だけど中学三年生の時に――――」
赤城は言葉を詰まらせ、嗚咽を漏らした。
咳き込んで咳き込んで――――ゆっくりと言葉にした。
「中学三年生の春、あの男はとうとう私の体を触って楽しみ始めた。
「さすがに嫌だった。見られるのと触られるのでは全く違った。それからは見られることですら嫌悪感を抱いた。
「私も父のことを父として見られなくなったの」
赤城は自分を落ち着かせるように深呼吸した。
目の端に涙を浮かべながら。
「だから私は逃げた。
「お母さんを置いて家から。
「あの夏休みまで、友達の家に泊まらせてもらってた。たまたま理解してくれる子がいたから」
「そっかそれで――――」
「いいえ。あの男は私の泊まっている友達の家を突き止めてやってきた。裏が言ったように逃げ場はなかったの。
「そして友達まで殴ろうとしたから私が代わりに殴られた。
「幸か不幸か私はそれで怪我をして入院することになった。あの男は虐待で警察に追われているところで交通事故に遭って死んだ。
「そして夏のあの日、退院したばかりの私は大災害に遭遇して――――吸血鬼になった。
「ここまでが私の過去よ」
赤城は言い終えると一息ついた。
僕は何も言えず、言葉が思いつかず、やはり黙り込むしかなかった。
赤城は父親のことを最後まで『あの男』と言っていた。赤城の中で唯一の父親だった存在は最悪の存在になってしまっているのだろう。
だけど前回と違って、受け止めることができた。
赤城の過去を知った上でこれからできることはこれから僕が悲しませない様にすることだ。
そしてあの夜決めた、思い切り笑わせること。
「わかった。僕もお前を信頼する――――というかしている。だから聞きたいことがあったら聞いてくれ。なんでも答るから」
「そう。わかったわ。あなたの持っているいかがわしい本の書庫はどこにあるの?」
「書庫単位で持ってねーよ! てか持ってねーよ!」
「持ってないの? じゃあデータね」
「決めつけるな! 僕は活字派だ!」
「官能小説ならあるのね、桐名くん。確かにカバーかけてればばれないわよね」
「あーあー何も聞こえなーい!」
「ねぇ、女の子にそういうのがばれるってどういう気持ち?」
「うるせー!」
「春画って知ってる?」
「昔のエロ本だろ?」
「あら知識も豊富なのね」
それを知ってるお前も豊富じゃねーか。
さっきまでの重い雰囲気はどこへ行ったよ……。
「帰るぞ」
僕はいよいよ夜も更けて冷えてきた山頂から撤退しようと赤城に呼びかける。
「待って」
待って、とはまだ何かあるのだろうか。
「帰りながらじゃダメか?」
「ダメね。こっち見なさい」
僕が振り向くと赤城は拳を握りしめ、こっちをじっと見たまま立っていた。
そしてつかつかと衝突してしまいそうな勢いで歩いてきた。
なんだ?
僕は今から殴られるのか?
殴られるようなことをした覚えはないぞ。
「きす、がたなあ」
僕の目の前十センチくらい。
目の前にくるの好きだなぁ。
…………。
……。
なんて言ったんだ?
聞きなれない言葉、日本語だとは思うけど、なんて言ったのかはわからない。
「あ、むぐっ――――」
「大丈夫か?」
近づこうとすると両手で跳ね返された。
あからさまに拒絶されたのは初めてだった。
何故か――――何故か他の誰よりも、赤城に拒絶されたのが心に響いた。
「き、きす! がたなあ!」
「わからねぇよ……。なんて言ってるんだよ……」
僕は理解できないことに悪態をつきながらも赤城を見る。
何故か赤城も下を向いて肩を落としているようだった。
「私は……、あなたが……」
「僕がどうかしたのか?」
聞き返してみるが返事がない。
それどころか赤城は肩を震わせている。
泣いているのか?
それからしばらく山の上で向かい合ったまま、沈黙が続いた。
「……もう、帰りましょう」
赤く目を腫らした赤城はそういうと僕を置いて山を下りていった。
何を伝えたかったのかわからないまま――――僕はそれについていくことしかできなかった。
◇
そして音卯山からの帰り道。
とうとう僕は怪異にさしあたった。
いうなれば今回の話のメインディッシュである。
今回の話は四絡通夏と南畝尾張の話でもなければ、赤城の過去を振り返る話でもなかった。
僕の愛する妹の――――僕と妹の壁を排除する回だったのだ。
「おい、柑南? 柑南だろ?」
帰り道、すでに辺りは真っ暗な中で僕は妹、桐名柑南を見つけた。
真っ暗な農道でポツンと佇む少女。
天舞中学三年生。
身長百五十三センチ。
体重四十四キロ。
成績中の上。
恋愛経験無し。
胸のサイズは僕だけの秘密。
そんなまじめで家庭的な妹が夜道に一人佇んでいる。
もし他の人物であればホラーな話だなぁ、と一瞬思った自分に恐怖する。
妹だからこそホラーじゃないか!
柑南がこんな時間に家から出るはずはないし、そもそもこんな道端に立っていること自体が誰であろうとおかしい。
「…………」
僕が声をかけると暗闇の中を走って消え去っていった。
「あれはあなたの妹ではないわ」
「だよな」
「急ぎましょう」
「ああ!」
僕と赤城は帰路を急いだ。
「ただいまー! 柑南ッ! どこだ?」
「はいはーい、おかえりお兄ちゃん」
赤城を外に待たせ、玄関に飛び込むと、風呂を済ませ寝間着姿の妹がいた。
鍵をかけていないのは不用心だぞ、柑南。
あ、でもヒーローがいるから武力面では心配ないな。
違う違う。
今日の妹の寝間着がゴスロリだったとかそういうことじゃない。
「家から出てないよな?」
「ないねー。私は用心深いから」
「それはちゃんと鍵を閉めてから言えよ。それより――――」
あれは一体何なんだ?
もう一人の柑南は。
柑南が大災害に遭遇しているならもっと兆候があってもおかしくなかったはずだ。
でも今までそんな風には――――
「それは君がみていなかっただけだろうよ、桐名クン」
玄関にいつのまにか立っていたのは黒いスーツを着こなしたきつね色の髪を持つ謎の女性、南畝尾張だった。
南畝さんはまるで現れるべくして現れたように、怪異に関係ない妹を目の前にして躊躇うことなく言葉をつづける。
「君が見たのはそこの可愛い可愛い妹ちゃんの残像。想い。怪異に例えるなら生霊に近いんだよ」
「生霊……?」
「そうさぁ。強すぎた想いは形を成す。君はこんな話を知っているかい? 『二人の女房』という話を」
◇
二人の女房。
昔々あるとき、武士が家に帰ると女房が二人に化けているではないか。
それも全く同じ容姿、口調も仕草も行動も。
武士はどちらが本物の女房か確かめようとするが、どちらも本物と言い張って譲らない。
とうとう武士は気味が悪いと二人ともを刀で切り捨ててしまった。切り捨てたあとに残ったのは女房の死体だけで化け物はどこにもいなかった。
謎に包まれたままの話だが、果たしてその二人の女房は性格まで同じだったのだろうか?
もし武士が女房との夫婦関係をないがしろにし、遠ざけていてわからなかっただけだったのならば、それは情けないことである。
◇
「桐名クン。君は妹ちゃんとちゃんとした兄妹にしているかい?」
「え……?」
「私はねぇ桐名クン、君に妹ちゃんを大切にしているかと聞いているんだよ!」
その迫力に押され、僕は口をつぐむことしかできなかった。
言い返す言葉もない。
僕は柑南との距離をあからさまに置いたからだ。
両親不在が多い中、柑南が一番必要としていた時に僕は離れた。
「君がいくら大切に思っての行動でもねぇ、当人に伝わらないと意味がないんだよ、わかるかい?」
「わか……ります」
僕は僕の勝手で柑南を傷つけた。
ちゃんと伝えるということさえしなかった。
これはただ『逃げ』ただけだ。
「じゃあこれからどうするべきか、わかるよね?」
「はい」
南畝さんは一息つくと、先ほどの剣幕から百八十度違う笑顔を見せた。
この人と話していると狐につままれているような気分になる。
「ならいいんだよ、桐名クン。君には大切にしなけりゃならないものがたくさんあるからねぇ」
「ありがとうございました」
「いいんだよ、お礼なんて。私は非日常の中にしか生きられない、日常に住む人だからさぁ」
「それはどういう――――」
「なんでもなーいよ。じゃあねー! こんこんっと!」
不思議な言葉を言い残して南畝さんは夜の闇に溶けるように姿を消した。
そしてここにいる人物は玄関にいる赤城、キッチンにいる柑南、そして僕の三人。
とてつもない修羅場の予感がした。
「さっきの人といい、そこの女の人といい、いつからお兄ちゃんはモテモテになったの? ていうか誰?」
「ごめんなさい。私、赤城と言います。帰り道で自転車が壊れてしまって、たまたま通りかかった桐名くんに家まで運んでもらっていたの、お兄さんをお借りしました」
「あ、いいんですよ! こんな兄ならどうぞ使ってやってください」
「えぇ、下僕のように使ってやりました」
「え? そんな趣味がお兄ちゃんに……?」
赤城、ナイスフォローにはなったがうちの妹に変なイメージを植え付けないでくれ。
変な誤解を生んでしまったじゃないか。
柑南も柑南で赤城に冗談をふっかけると冗談じゃない冗談が返ってくるからな。
「それじゃ、桐名くん、私は帰るわよ」
「送ろうか?」
「そんなことしたら私のお母さんも驚くわ。それよりもすべきことがあるでしょう?」
確かに僕と赤城はクラスメイト以上の関係ではない。
友達――――ではないし、どちらかというと運命共同体のようなものだからその辺りはとても曖昧だ。
赤城のお母さんも娘が見知らぬ男と一緒に帰ってきたら驚くだろう。時間も時間だし。
それに、僕にはしなければならないことがある。
それもできるだけ早急に。
赤城が帰り、柑南と二人きりになったところで僕は椅子に座る。
「柑南、そこに座ってくれ」
「う? うん」
柑南は僕と向かい側の席にかしこまって座った。
なんだか新鮮な気分だ。
食事以外でこのテーブルを使うことは滅多にないし、いつもキッチンで料理をしている柑南は僕たちより少し遅く食べ始める。
だから目の前に柑南がいるというのは珍しい。
「ど、どうしたの? お兄ちゃん」
「お前の本心を聞きたいんだけどさ」
「わ、私の本心? 別にいいけど覚悟はあるんだろうね?」
「覚悟が必要なことなのか?」
「そりゃあ妹の胸の内を聞きたいんでしょ? そりゃあ覚悟しておいてもらわないと」
「覚悟……か。うん、できてるぜ」
覚悟なんて柑南と距離を縮めようと決めたときにすでに決めてきた。
「いいんだね? 私たちが今のままじゃいられなくなるかもしれないよ?」
なんだその言い方。
まるで『私は実の妹じゃない』みたいな言い方は。
でもでもそれはないない。
だってこいつが生まれるとき僕は病院で見てたから。
うろ覚えだけどさ。
「でも今のままじゃだめだろ。ギクシャクしてるのが嫌なんだよ」
「え? 結局聞いちゃうの? そこは遠慮しないの?」
「別に遠慮はしないけど言えないのか?」
「これはジレンマなんだよ。妹にしかないジレンマ。いわゆるシスターズジレンマなんだよ」
「シスターズだったら姉さんも入るんじゃないのか?」
「お姉ちゃんも実はそうかもしれないね~」
その可能性もあるな、と柑南はにやりと笑った。
ここまで来たなら聞くしかない。
本当は怪異や大災害の類じゃなくて少し安心した。そうじゃなけりゃ怖くはない。
さぁどんとこい。
「聞こうじゃないか。シスターズジレンマと言うやつを」
「わかった!」
『では行きます』と柑南は大きく息を吸って、一呼吸溜めた。
「私は――――お兄ちゃんが、お兄ちゃんがとてつもなく大好きです!」
「…………はっ?」
「やっ! ちょっ! そんな反応しないでよ!」
火を噴きそうなほど顔を真っ赤にして手で覆う。
「いやいや、柑南さん。好きなのは僕も一緒だぞ。もちろん妹としてだけどな」
「そんなわけないよ! だってお兄ちゃんは中学三年生の夏休み以降、妹離れを成功させたじゃない! お兄ちゃん離れをしていないのは私だけなんだよ!? うわああああん!」
「叫ぶな叫ぶな。夜だぞー」
本当は妹離れなんかじゃないんだけどそんな風に思っていたのか。
それで自分も兄離れをしようとしていたんだな。
なるほどなるほど。
こいつの勘違いを正してやらないといけないな。
「妹離れなんて僕はしてないんだよ、実は」
「じゃあなんでいきなり冷たくなったの!? 突き放したの? すごく悲しかったんだよ! 彼女でもできたのかと思ったよ!」
「彼女は関係ないだろ……。そりゃあ僕も妹離れをしようとはしたよ。でも最近妹離れなんてする必要ないなって気づいたんだよ。家族だし、そんなことする必要ないだろ?」
「そ、そうなの?」
「そうだよ」
「じゃあ私は好きでいていいの?」
「家族としてだぞ!?」
「ホントに!?」
柑南が『やったー!』と叫んだ時には既に足はあれほど僕たちに注意してきた『机の上に足を乗せてはいけません』を忘却の彼方へ捨て、テーブルを踏み台にして両手を広げて僕へととびかかってきていた。
避けることもできず、僕の椅子は予想外の衝撃にバランスを崩し、背中から大きく倒れる。
もちろん座っていた僕も、僕の首に手をまわして抱きついてきた柑南も一緒に倒れることになった。
反射的に僕は柑南がどこかで体を打って怪我をしないように背中に手を回したのだが、柑南はまた勘違いしてさらに僕に体を密着させてきた。
「お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん!」
「ど、どうした!」
「いやー懐かしいなぁと思ってさ! 筋肉もあるんだねー!」
「そりゃあるだろ、お前だって――――」
何年振りかはわからないが、僕が中学校に入る前まで一緒に昼寝をしていたのを覚えている。
その時はまだ二人とも全然子供だったけど、今の柑南は中学三年生、僕は高校三年生、それぞれ男らしく女らしくなってきているのである。
ということは、だ。
柑南も体の凹凸が顕著なってきているのだ。
「お前だって何? 胸が大きくなってきたって? 私も女の子だからねー! 触ってみる?」
「何言ってんだよ……。既に僕に当たってるし触らねーし、お前妹だし。さすがに妹に発情はしねーよ」
「そんなこと言っちゃってー。よーし、ここで寝ちゃうからね!」
「おい! ベッドまで行けよ」
床に倒れたまま嘘寝を始める柑南と、座ったまま倒れたおかしな態勢のせいで上手く身動きが取れない。どうにかこの四十キロの重りをどうにかしなければ……。
「うーん……、飲み物あるかなー?」
「げっ! 山原!」
「あれ、あれれれ。 仲直りできて良かったねぇ、お兄さんたち。えへへへ、僕も一緒に寝るー!」
「おい、山原、ベッドに行け、ベッドに!」
僕はなんとか妹の下から抜け出し、まずは柑南を、そして山原を柑南の部屋まで運んだ。
そして僕は歯磨きを終え、戸締りをして寝る準備を始める。
ちょうど玄関のカギを閉めたとき、不意にインターホンが鳴った。
こんな時間に誰かはわからない、だが十時を過ぎたこんな時間にやってくる人物に警戒して間違いはない。
インターホンのモニターで外にいる人物を確認する。
赤いニット帽にホワイトのセーター。
インターホンを鳴らしたのは帰ったはずの赤城だった。
僕は慌てて鍵を開け、ドアを開けた。




