アンデッドライフ
こんこん、こんにちは。
あっしの名前は――――でございます!
さて、皆さん方!
『夢』は見たことあるでしょう?
そうそうあの夢!
ていうかどっちだと思います?
私が思うに大半の人が寝るときに見る夢を思い浮かべた気がするのですが、何故そっちを思い浮かべましたか?
あれだけ日頃から子供たちには夢を見る素晴らしさを教え、テレビやドラマでも散々取り上げられている『将来の夢』が何故思い浮かばないのか?
ひねくれているから?
違う。
大人になったから?
違う。
結局のところ夢なんてほとんどの人が叶うはずがない、届かないと思っているということなのですねぇ。
実際、テレビで取り上げられているのは日本一億二千万人の中の数人、世界七十億人の中の数人で、その数百倍の人たちが努力をしても夢にまでは届いていないのですよ。
だからといって努力は無駄じゃあありやせんよ?
宝くじも買わなきゃ当たらないし、一等が当たらなくても二等、三等が当たるかもしれない。二千円分買って二千円当たるような場合もあるかもしれない。
夢への努力の過程で得られるものは、きっと夢が叶うに等しいもののはずなのですよ。
あーあー、いい話をしたいんじゃなかった。
だって将来の夢より起きたら忘れてるようなそんな儚い夢の方が優先順位が高いんだからさ。
先人たちも『人』の『夢』で『儚い』って漢字を創ったわけだし結局脆いものだということなのさ。起きたら忘れてるような夢よりも、ね。
おおっと、話がそれたそれた。
ごめんね、私の考えを押し付けるつもりはないんだ。『夢』と聞いて寝てるときに見る夢をイメージするのは私だけかもしれないしさ。
そうそう。
このお話に関係あるのはね、もっと単純なことなんだよ。
夢の中では何故、どんなにおかしなストーリーでも状況でもそれが夢だと気づかないのか。
わかるかい?
時間も枠もこれ以上取るわけにはいかないから言っちゃうね。
それは、外を知らないからなのさ。
外って言うのは夢の世界の外ということ、普通の世界だね。夢の中に普通の世界も何もないと言えばそれまでだけど、それじゃあつまらないよね。
夢の中のあっしたちはそれがすべてだと思い込んでるんだ。
その状況が、そのストーリーが、当たり前で普通だと思ってるんだ。だからその外なんか考えないし、考えることもできない。
でもでもそれは夢の中だけかい?
私たちの今住んでいる世界でも外がないと言い切れるかい?
昔は宇宙だって外だったんだよ。それを見つけることができたのは外を見ることができた人なんだね。
そう。
ちょっと目を凝らせば見えるかもしれない。
ちょっとタイミングが合えばわかるかもしれない。
君たちのまだ知らない外の世界が――――ね。
もしかしたら夢は君たちにそれを教えているのかもしれないよ?
今から始まる物語はそんなお話さ。
基本は主人公クンと鬼の娘ちゃんのラブストーリーだと思った方がいいかもしれないけどね。
じゃ、またね。
こんこんっと!
◇
「ねぇ桐名くん。あなたって殺しても死なないのよね。ちょっと刺してもいいかしら」
「いいわけないだろっ!」
僕、桐名 南木は中学三年生の夏休みに起きた大災害の裏で『不死人』になってしまった。
不死なんて急に言われても困るし、そんな超能力設定はゲームの中だけで十分だとも思う。
そんな力を急に持ってしまっても甚だ迷惑にしか過ぎないのだけど、これはこれでどうしようもないことなのだと受け止める以外に方法はないのだった。
「どれくらいのダメージなら死ぬのか気になるのよ、私」
「気にする必要ねーよ! さすがに心臓とか頭とかやられたら死ぬと思うよ!」
僕の身に降りかかってきた不死の奇跡の力は、時速八十キロメートルで走る大型トラックに正面衝突され二~三メートル空中を彷徨っても軽傷で済んだり、治らないといわれていた大病が回復したりと僕の人生を救ってくれた。
確かに不死なのだから死にそうな怪我をしてもすぐに治ったりするのはわかるけれど、他に呪いみたいな力があってもおかしくはなかった。
もしかすると今、先が見えない不安に陥っていることも呪いのように思えるが、その程度で済んでくれるのならどれくらい幸せなのだろうか。
奇跡。
呪い。
不死。
世間一般大多数の方々の日常には一切無関係だったはずの単語が今では僕の日常の柱とまでなってしまっている。
そしてある時、中学三年生の時に僕はふと思った。
仲間はいるのだろうか。
この世界に僕のような目に遭っている人はいないのか。
探し回った結果、居た。
三日前に見つけた。
僕の隣で僕の殺し方を考えている赤城しらすのような人間。
そして僕を助けてくれた人ではない存在。
大きくまとめれば怪異。
日本にいるのはその中の妖怪だけど。
大災害が起きた時、僕の前に現れたのは九つの尾をもつ大妖怪だった。
様々な文献、マンガにも登場するあの九尾の妖狐だ。
彼女は自分のことを人っぽく『ようこさん』と言っていた。
ようこさんは僕に怪異のことを少しだけ教えてくれて、僕の体のことを『呪い』と断言した。
ようこさん曰く、「知らずの内に奇跡の代償を払っている」のだそうだ。
その時の僕は代償というのが何を意味しているのかさっぱりわからなかったが、奇跡の代償は少しずつ、体に回る毒のように僕を蝕んでいたのだ。
「『死なない』ってどういう定義なのかしら。ただ傷で死なないだけで寿命はあったり、ダメージを受けすぎたら回復せずそのまま逝っちゃったり――――実際のところ桐名くんは自分のことどれくらいわかっているのよ?」
「お前がいなきゃゾンビになってしまうことくらいだよ」
「そうなの。案外知らないのね」
「ようこさんでも不死人については分からないって言ってたからな」
あれは大災害の一年後、僕が高校一年生の夏のことだった。
その頃、僕の体はだんだんと動きに支障が出てきていた。
見てわかるほどではない。
だからと言って見逃せるものでもない。一昨日より昨日、昨日より今日とここ一年で体が衰えている感覚があった。
そしてそんな体の問題よりも大きなもの、それは思考能力の衰えだった。
記憶能力、計算能力、会話力などなど、すべてにおいて高校一年生のレベルを大きく下回り、その症状は低年齢というよりは高年齢になると起きる症状に似ていた。
すなわちそれは僕の体と脳の老化であり、例の大災害によって不死になったあの日がきっかけであるとしか考えようがなかった。
この一年で僕は階段とスロープならスロープを選び、階段とエレベーターなら迷わずエレベーターを選ぶようになった。
挙げ句の果てには二人の姉妹の名前ですら曖昧になっていた。
ようこさんなら助けてくれるかもしれない。
僕はその一心で町を徘徊した。
『探していた』ではなく、あの行動は明らかに『徘徊』だったと思う。
あてもなく、学校にも行かず一日中町中をふらふらと歩いていた。そうしていれば見つけてくれるという今考えると謎の確信もあった。
町を徘徊してどれくらいの時間を経っただろうか。
僕は偶然スーパーで買い物を終えて帰宅途中にあったようこさんに出会うことができ、連れられるまま、ようこさんの住む家――――妖怪たちの住む家である『いぶき苑』へと訪れることとなった。
大妖怪と呼ばれるだけの知識を持つようこさんの見立てでは、このままだと僕は『ゾンビ』になるそうだ。
体は死ななくとも脳は死ぬ。
体が死なないという突出した能力はバランスをとるために脳の寿命を短くするらしく、しかも死なない体も脳が死ねば健全万全な状態は保てなくなり最低限の活動しかできなくなるとのこと。
『死んではいないが生きてもいない』。ゾンビを表すにはこの言葉が一番なのだと、ようこさんは言った。
「赤城に出会えて良かったよ、本当に」
「あら、愛の告白かしら。突然ね、驚くじゃない」
「そういう意味じゃねーよ」
「あら残念」
「思ってないだろ……」
さてさて、僕はこうして現在に至るのである。
ちなみに現在、僕は高校三年生。今のところ隣にいる赤城のおかげでゾンビ化を防げているが、いつかは根本的な問題である不死人から人間に戻る方法、大災害の時に僕を不死人にした張本人――――真神を探し出さなければならない。
真神というのはどうやらオオカミの神様なのだがいまやその狼信仰は失われ、消滅しているらしい。ようこさんも詳細は分からないのだが、とりあえず真神を探さなくてはならないみたいだ。
「真神――――だったわよね。ゆっくり探しましょう、まだ時間はあるんだから」
「どうなんだろうな、時間はあるのかな」
「心配しなくても運命とかいうものがあるのなら向こうからやって来るわよ」
進路に悩む高校生ライフとマンガのようなゾンビ化という日常と非日常に挟まれた僕の世界は、どんどんおかしな方向に広がっていくのだった。
その中でもまず最初に語るべきは隣にいる赤城しらすについてだ。
彼女との出会いは三日前になる。
回想ばかりで面倒だとは思うけど、もう少しお付き合い願いたい。
なんというか、僕は知らなくていい世界に足を踏み入れてしまった気がしてならない。




